読書メモ
・「没落からの逆転 ―グローバル時代の差別化戦略」
(榊原 英資 :著、中央公論新社 \1,400) : 2008.12.27
内容と感想:
前々作「日本は没落する」で日本社会や政治・経済への危機感を記していたが、それを受けての続編である。
第2章で差別化のポイントを示し、第3章、第4章では日本をイギリスと対比させて日本文化のユニークさを語っている。
第5章、第6章では明治・戦後を振り返り、第7章以下は日本の生き残り策、外交戦略を提言する。
前作「政権交代」では日本国内のシステムの革命的変革を主張したのとは異なり、本書では対外的な視点での改革を
訴えることを意識して書かれている。
例えば、第8章ではアメリカCIAのようなインテリジェンス組織の強化、外務省解体を説いている。
外交の一元化は重要なのに実は外務省以外の省でも海外と交渉をし、情報収集も行なわれており、
そのため縦割りで連携が悪く、それらが持つ情報が統合的に分析されていないという問題がある、と指摘している。
また、ポスト近代、グローバル時代の日本の差別化戦略は「和のシステム」、「日本的なもの」だと言っている。
それを世界に発信し、コミュニケートしていくことで日本を理解してもらい、また世界への貢献につながると考えているようだ。
そのためには我々には日本文化の理解、英語力が必要だと言う。
「和」の国・日本だが、和にもいろんな意味があると思うが、
著者の言う「和」は主に平和の「和」を指している印象。
結局、具体的に「日本的」な何を発信していけばいいのかはよく分からなかったが、
第3章にあるように「日本流が新しいものを生み出す可能性があるのでは」ないかと期待しているようで、
何を発信していくかは自分で考えろと言われていると理解した。
それを考えさせるために、本書の大半は日本の歴史や、イギリスとの比較に割かれているのだろう。
「新しいもの」を生み出せないまでも日本の既存の価値を世界に再評価してもらえるだけでも価値はあるだろう。
伝統的な日本のよさへの回帰が「日本没落からの逆転」のポイントだと著者は考えているようだ。
ただし、内向きになってはならないというのも主張のもう一つのポイントである。
○印象的な言葉
・パクス・ヤポニカ
・地方分権:300の基礎的自治体と国の二重構造。江戸時代への回帰。伝統的な日本への回帰
・同質のぬるま湯社会、いじめ
・TVの俗悪番組は社会環境を汚染し、社会全体を堕落させる
・マスメディアの最大の問題点は公共心の欠如。スポンサー企業が番組の質を選ぶ
・メディア改革は政治改革・経済構造改革と同時進行すべき
・国全体の知的インフラの向上。技術や知識の最先端を追える人間の育成
・江田ビジョン(江田三郎)
・明治に日本の伝統・文化のかなりの部分を自主的に棄ててしまった。自らの国の過去を否定し去った。アイデンティティを失った。
・もののあわれ、雅(みやび)。美意識、ウエットな無常観、わび・さび、粋・いなせ、情緒
・グローバリゼーションの時代はローカリゼーションの時代。英語を学んで世界に発信していく
・二元的システム:神仏習合(神道と仏教)、政治的権威と学問的権威(権威の併存)
・天皇は実質的には平安時代から既に「象徴」だった
・徳川時代の民富が明治以降の急速な近代化への資本となった。徳川の永い平和のおかげ。パックス・トクガワーナ
・和:日本文化のDNA
・ユーラシア大陸の縁辺という恵まれた地域でぬくぬくと育った国
・華夷秩序:旧来の中華帝国支配。好戦的な帝国でなかった。朝貢関係、ゆるやかな支配
・司馬史観はおもしろい一つの視点ではある
・大正・昭和のリーダーたちは二代目経営者と同じ。初代の苦労やリアリズムを失った
・日清・日露戦争勝利からの過信
・経済援助を通じて貧困を減らす努力を。援助による途上国の経済発展と生活の安定(テロ撲滅)、友好、経済関係の緊密化
・日本には古来、異質なものを共存させ、受け入れる寛容さがあった。日本的同化プロセス
・英語は英語で学ぶもの。英語と日本語には一対一で対応しない
・江戸庶民の特徴:社交好き、上機嫌、当意即妙。陽気、さっぱりした気質、拘泥しない、天真爛漫
・海外業務が拡大している現在、外交交渉や海外業務を一つの省に集中はできず、非効率。外交チャネルは官民問わず多いほどよい。
・途上国ではそこそこ品質がよくて、高くない製品が売れ筋。日本の消費者の製品の質、細部へのこだわりは世界的には特殊
・日本史は世界史と分断せず、世界のコンテクストの中での日本を教える
・文化や伝統を維持することは国家運営の基本
-目次-
第1章 急速に強まる日本没落の徴候
第2章 差別化のキーワードは「和」
第3章 一度も侵略されなかった国・日本
第4章 世界を戦いとったイギリス
第5章 日本は植民地化をどう避けたのか
第6章 戦後日本の平和戦略
第7章 平和国家の強さと弱さ
第8章 外務省解体論
第9章 開かれた差別化が没落からの逆転を生む
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