読書メモ
・「政権交代」
(榊原 英資:著、文藝春秋 \1,238) : 2008.11.10
内容と感想:
「日本は没落する」で日本社会の問題点を指摘し、対応策を提言した著者。
本書はその流れで書かれており、やはり政権交代しかないのではないか、という国民のわずかな希望を代弁している。
自己改革できない自民党に「ノー」といい、タイトルどおり政権交代の必要性を訴えている。
「はじめに」では結論を先に述べてしまっている。「いま必要な変革は明治維新にも匹敵する巨大なもの」で、
「近代化を超えてポスト近代社会をつくって」いく時期だと言っている。
本書では第1章から3章までで戦後の自民党政権による政策を振り返っている。
戦後の経済成長期に、自民党政権は日本の均一な発展、地方への所得再配分を実現し、
「高い生活水準と厚い社会保障の両立」を実現させた。
それが格差拡大を抑え、社会を安定させた。
しかし、いまだ時代遅れの政策を続けている自民党を「旧態依然の土建国家体制に依存したまま」と言い、
自民党の体質の変化、政治の質の低下をありありと見ている。
著者は「いまだ社会主義的な教育・医療・年金の改革」が重要性・緊急性が高いと位置づけており、
「規制緩和と制度の抜本改革の必要性」を訴えている。
これらは我々国民に生活に直結した問題であり、みな関心があるはずである。
行政サービスの向上を求めて声を上げる必要がある。
そこには市場メカニズムの導入が有効だと著者は考えている。
そこで国民が問われているのは「激しい改革を実現する意志があるかどうか」、
「変革にともなう混乱をあえて引き受ける勇気」があるかだ。
いまこの国には国政に主権者である国民に、その民意を反映させられないストレスが溜まっていると思われる。
民主党という「保守層のもう一つの選択肢」が出来た今、民主党に賭けてみる、一度やらせてみるのはどうだろうか。
世界から「日本は変われない国」だと思われているらしい。「日本は変われるんだ」という心意気を世界に示そう。
そして「幼児化した」国民ではなく成熟した国民であることを。
民主党に問われるのは自民党とどこが違うのか、この国をどう変えようとしているのかを国民が分かるように説明することだ。
結局、政策に大きな差異がなく、何も変わらないのであれば失望を誘うだろう。
第五章では「新しい国のかたち」への改革を実現するための提言をしている。
基本は中央政府、地方自治体、民間の役割分担の見直し、つまり地方分権だが、様々な具体的なアイデアを挙げている。
第六章の小沢一郎氏との対談も興味深い。小沢氏の志を感じられるだろう。
○印象的な言葉
・平成維新:平成の無血革命が政権交代
・東京の金融マーケットの国際化が実現できていない。地盤沈下が目立つ
・道路公団改革の失敗。民営化とは名ばかりで国有化に等しい。既得権益のネットワークは崩せなかった。公団だけ民営化してもシステムは改革できない。
・制度の補完性:各部分の制度が互いに支え合う形になっており、部分的な改革をしてもシステム全体として改善にならない。逆効果の可能性もある
・グローバリゼーション:特色あるローカルな文化の発信を認め、多様な文化の共存を図る
・新しい国づくり:公的セクターは中央政府と基礎的自治体の二層構造。これと民間が役割分担する。権限と役割を明確に。
・「日本は変わらない」という印象を世界に与えている
・戦後日本は格差なき高度成長をなしとげた。世界の歴史の中でも特異なケース
・意気地なしは相手にする必要はない
・職場を自己修練の場と考える
・シンプルなビジョンを打ち出すリーダー、それを緻密な政策で裏打ちする優秀なブレーン、政策を実行する強力な官僚組織、それに協力する金融界・経済界。
・公共事業は20年くらいしないと本格的な効果は出てこない。だんだん需要が出てくる
・政治を通じて官僚自らのアイディアが日本社会を動かしていく喜び
・アメリカの経済エリートたちの考え方や議論のやり方を学ぶ
・1970年代中ごろまでは、公共事業によるインフラ整備は投じた費用以上の見返りを地域経済にもたらしていた。
物流効率を高め、モータリゼーションを進展させ、経済を活性化させた。初期の区間の建設は大きく貢献。
・小選挙区制:政策を争い、党を基準に選ばれるため、二大政党制が成立しやすい。一時の風により大きく議席数が動く。
・中選挙区制:自民党に対抗しうる野党の出現を阻んでいた。金権政治の元凶でもあった。地域の利益を代表するために争った
・自民党内でも派閥間の交代による政権交代があった
・グローバリゼーションの進展のもと、国内農産物の価格維持が困難になり、また財政悪化により公共事業による地方の雇用維持も困難となり、自民党は地方の安定した選挙地盤を失う。
・小泉政権発足後、一年とたたないうちに景気が回復。これは小泉政権の施策の結果ではない。
・バブル崩壊後の、民間企業における地の滲むような経営の再構築努力、企業レベルの構造改革
・日本は唯一成功した社会主義国。国民皆保険・皆年金、最低賃金と変わらない生活保護水準
・国民健康保険は1960年代からずっと赤字
・厚生労働省は一般会計とほぼ同程度の特別会計を管轄。膨大な保険料から成る。
・一地域、一手段に頼らない資源供給のネットワークの構築
・官は民をバックアップするためにある。欧米でも国と企業は一体化している。日本の民間企業は十分な政府の支援がない
・華僑は国家など絶対に信用しない
・日本が生き残るには外国と交流し、交渉し、合従連衡していくしなかい。外交力・発信力の強化
・文化には翻訳不可能な面がある
・高度な研究や教育への重点的な資金配分
・中国の研究予算の半分が清華大学に。企業からの寄付や研究資金援助も
・現在の国政:官庁主導。内閣の戦略立案、政策統合機能が小さい。内閣は追認機関になっている
・あるべき姿:内閣主導による全体最適、政策優先
・小泉内閣の三位一体改革の失敗:地方格差を拡大し、自治体の財政を悪化させた
・国民各人の自立と、自立した個人の集合体としての自立した国家
・フリー、フェア、オープン。市場開放してオープンになったのだから外へ打って出ていくべき
・イギリスやフランスは医師は公務員
-目次-
第1章 自民党長期政権の構造
第2章 自民党の危機と巧みな延命路線
第3章 小泉「改革」による破壊
第4章 生きのこりを賭けるときにきた日本
第5章 新しいくにのかたち
第6章 「政権交代」核心対談 -小沢一郎民主党代表に聞く
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