読書メモ
・「坐シテ死セズ」
(石破 茂、西尾 幹二:著, 恒文社21 \1,600) : 2007.05.13
内容と感想:
防衛庁長官時代の石破氏と、「新しい歴史教科書をつくる会」の会長として物議を醸した西尾氏(著書「国民の歴史」も4年前に読んだ)との
国防をテーマにした対談集(2003年)。防衛庁長官退任後に出された「国防」も少し前に読んだのだが、専門が違う二人の対談ということで、
どんな議論になるか楽しみにして読んだ。全体的な印象としては意見がぶつかり合うことはなく、それぞれの持論を展開し、
あるときは互いに教えを請う、といったような感じ。
日本人の陥りがちな欠点は、すぐにナショナリズムに飛んでしまうところ。
日本はいつの日かまた大失敗をするのではないか、と危惧する石破氏。
西尾氏も同様の考えを次のように述べている。
日独伊三国同盟のときも「勝ち馬に乗り遅れるな」で怒涛のごとく動いてしまった。
現在の日本は、たまたま国際環境がよく、経済的にも持ちこたえているため大きな破局を迎えないで済んでいるに過ぎない。
状況が変化すれば慎重な判断や十分な分析、将来の見通しもなく、一つの方向になだれをうって突っ走る可能性を危惧している、と。
日本の国民性なのか、DNAなのか知らないが、他の民族と交わり、DNAを少しずつ変えていかないと、いつまでも変われない民族かも知れない。
それが日本にとって良いか悪いかは分からない。
対談を終えて西尾氏は石破氏を「発言の背後に思索を感じさせる人」、「その思索を実用の知識と結び付けている人」と評し、
人材不足の政界にも「輝ける人」がいる、と石破氏の活躍に大きな期待を寄せている。
さて、日本にとって身近な北朝鮮問題は遅々として解決が進んでいない。
もし北朝鮮が解放されれば在韓米軍は中国国境まで北上するだろう。それに中国が協力すると思えない。自分が不利になる。
ということは中国は真剣に問題解決には取り組まず、金正日体制は延命しそうだ。2008年の北京オリンピックまでは北朝鮮は崩壊しないだろう。
自壊する可能性もある。そのとき大量の難民が日本にも押し寄せてくるかも知れない。備えはできているのだろうか?
○ポイント
・日教組が日本人本来の道徳・倫理観などの継承を妨げた
・敗戦直後の憲法改正草案は国民にとってはそれほど重大な関心事でなく、「憲法よりもメシ」だった。当時の総選挙で是非を問うた政党もほとんどなかった。
・自主憲法制定を目的の一つとして保守合同が行なわれ、現在の自民党が結党された
・三島由紀夫は「戦後の日本が、経済的繁栄にうつつを抜かし、国の本元を忘れ、国民精神を失い、・・」と批判し自決
・団塊の世代は突然感情的にポーンと飛んでしまうところがある。国家とか権力を全否定する傾向が強い
・日本は敗戦による対米復讐心を違う形で、経済だけの大国になるという間違った手段で実行した
・アメリカを利用していつか見返してやる、という屈折した気持ち
・ビンのふた論:在日米軍は日本の潜在的脅威を抑止するのが目的
・日本は「空気(ムード)で動く」
・欧州は古代を欠いている文明。自国の歴史は中世から始まる
・血を流して勝ち取った自由、平等、民主主義ではないため、その価値意識が希薄な日本人
・今も日本の大学には軍事学講座がない。専門家もいない。軍事に関わる法律、法典、歴史、哲学が未発達で、教育体系、組織の中にも位置づけられていない。
独立国家としては致命的な欠陥であり、油断。
・負ける戦争をしたことが許せない。負けると分かっている戦争を回避するための軍事学的知識や合理的計略の知力が欠落していた。
・対話と抑止:抑止がなければ、対話そのものが成り立たない
・日米安保条約が発動できないような、日本が孤立した状況に立ち至ったときの備えが必要
・今の自衛隊の装備は冷戦対応型を引きずっており、本当に合理的な装備とは言えなくなってる
・防衛費の大半が人件費と糧食費。国民一人当たりの国防費はドイツより少ない
・民間防衛が徹底しているスイス。国民皆兵の民兵制度。年に一度、有事に備えて訓練する
・たびたびアメリカが戦争するのは実戦経験による抑止力の維持という面もある。次の戦争の準備でもある。
・アメリカはITを利用したネットワーク戦争を発達させた。リアルタイムに全部隊が情報共有する
・将来はテロやゲリラの危険のほうが大。優秀な陸上防衛力が大事
・自衛隊が国民の最後の拠り所である以上、自衛隊の規律は一番厳正なものでなければならず、甘えは許されない
・人間には支配欲と同時に、被支配欲もある。一種の隷属する感覚。ヒトラーの手法。
-目次-
第1章 自我と独立
第2章 世界の国と日本の差異
第3章 北の脅威と日本の安全保障体制
第4章 有事に日本はどう対処するのか
第5章 輝け!日本の防人たち
第6章 国を守るということ
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