読書メモ

・「国防
(石破 茂:著, 新潮社 \1,300) : 2007.02.03

内容と感想:
 
2004年9月末までの約2年間、防衛庁長官(今年2007年1月より防衛省へ格上げとなった)を勤めた著者がタイトルどおり国防を語った書。 TVの政治番組にも登場することも多く、顔を知る人も多いだろう。私のTVでの印象は大衆の受けを狙うような軽薄なところがなく、 かなりの論客といったところ。厳しい口調が多いから受けは悪いだろう。
 彼が長官に就任する1年前にはアメリカで「9.11」があった。また在任中には2003年3月にアメリカがイラク戦争を始めた。 翌年1月には自衛隊をイラク第2の都市サマワへ派遣した。2003年2月には北朝鮮が日本海に向けて対艦ミサイルを発射する騒ぎもあった。 そんな中での長官の仕事はどういうものであったか、また著者自身の国防論も聞くことができる。 長官を退任したから書ける、また実際に防衛庁の中にいた人だから書ける生の声は興味深い。
 第二次大戦後、長らく続く日米同盟は日本の経済成長を支えたと言える。同盟というより米軍の傘のもと、 ぬくぬくと経済的繁栄を続けてこられた。米軍兵士が起こす事件や基地問題などで日米安保見直しの声も聞かれるが、 それよりも同盟が切れたとして果たして日本が独力で国を守れるのか、という不安のほうが大きいのではないか。 冷戦が終わったとは言え、隣には何を仕出かすか分からない北朝鮮はいるは、成長著しい中国、ロシアはいるはで、 決して安心は出来ない情勢である。
 本書の中で興味深かったのは第六章のフランスの1日入隊制度。徴兵制を辞めたが国民全員が国防がどういうものか学ぶ機会となっているという。 平和ぼけした日本人にも導入してはどうだろうか。 フランスが徴兵制を辞めるにあたっては、一時期仕事から離れなくてはいけなくなる制度が果たして国益になるのか、という議論もあったのだろう。 第七章で初めて知って呆れたのは陸・海・空の各自衛隊には何の連携もないということ。無線も通じないらしい。ここも官僚的で縦割り行政になっているらしい。 問題である。
 最後の章で著者が「文官が暴走する危険性、制服組の官僚化が進んでいる」ことを懸念されている。平時が長く続くと軍人が官僚化し、 戦争をしたこともない文官(官僚)が暴走する怖さがあると言うのだ。 長官を辞めたあとも安全保障問題については答えを出していきたい、と意欲も見せておられる。今後も平和呆け日本に喝を入れ続けていただきたい。

○ポイント
・自衛隊のF15戦闘機に敵地攻撃能力はない。出来ることは領空侵犯する敵機攻撃くらい。1機100億円。
・政治家こそミリタリー(軍事)お知るべき
・国家を守るには武力が必要、一方でその抑止も必要
・軍人がクーデターを起こし、そのまま政治を続けてうまくいった例しはない
・外交と安全保障は一体
・国連は世界政府ではない。国際司法裁判所の判決には何の強制力もない
・「9.11」でアメリカは別の国になった
・無邪気な成和主義を唱える左翼、高邁な理想と人類愛から実現する「世界平和」を夢見ている人たち
・国防を怠って滅びた国はいくらでもある
・備えるべきものは備えなくてはいけない。侵略戦争なんてコストがかかって仕方がない。何の得もしない。
・国民が自信をもっていれば軍はコントロールできるはず
・自由と民主主義は戦争抑止の大きな手段
・民主主義はベストではないが、ワーストを避ける唯一の制度だろう。衆愚政治になる危険性もある。
・財政民主主義:国民福祉実現のために合理的なお金の配分をしよう
・日本には戦禍から復興し発展していくノウハウがある
・国の数だけ正義はある。全く隙のない”大義ある戦争”なんてないのでは?
・日本の中東に対する石油依存は90%。他からも買えないことはないがコスト面から特化している
・イラクは石油埋蔵量の世界第二位
・日米同盟の信頼性を高めることは日本の国益
・イラク戦争でイラク国民はなぜ戦争に負けたかよく分かっていない。ピンポイントで中枢部だけを叩いたため。アメリカが早く戦争を終わらせようとしたのが裏目に。
・原理主義的で俗世の統治に向かないシーア派、世俗的で統治に長けるスンニ派
・イラクは経済的基盤があり、教育レベルも高く、民度が高い
・自衛隊を政治の道具にしてはいけない。そうでないと彼らの信頼を裏切る
・国防は選挙では票にならないと定評ある分野
・本当のことを言えば分かってくれるという確信。国民は聞く耳を持っていて、政治が語っていないだけ。伝える努力が足りない。
・国会は立法府ではなく追認府。実際の国会の仕事は国民に責任を負わない官僚がやっている。国会議員は県議会議員がする仕事をしている。
・国会議員が語らなければ、国民は考えない
・防衛省になっても自衛隊の最高指揮官は総理大臣
・中国では酔っ払ってわけのわからないことを言うやつは信用されない
・仕事の意識として「自分がなんのためにここにいるのか」をいつも考える
・経済制裁は国際社会全体がすると言えば効き目がある
・MD(ミサイル防衛)は核に替わる新しい抑止力。核廃絶につながる
・この国はすぐ右にも左にも振れる国。いざとなると急に「それ行け」となる怖さ。理性的な判断ができる国か自信がない。
・フランスは2001年に徴兵制から志願制に移行した。世界的な流れ。軍隊は軽く小さく少人数の超プロ集団へ。
・国際法上、敵と戦える権利(?!)を持つのは自衛隊だけ。民間人が戦う場合ゲリラと見なされる
・抑止力が機能しないテロリスト、テロ国家の怖さ
・防衛費には毎年約5兆円の血税がつぎ込まれている。アメリカの防衛予算の8分の1だが世界第二位。
・日本の国益で目に見えるものは石油、エネルギー。この安定供給がなければ国民福祉は成り立たない。
・海外の軍の法律にはやってはいけないことが書いてある。それ以外は何をやってもいいらしい。自衛隊法には「できる」ことが書かれている。
・自衛隊は法的にも処遇面でも軍とは言えない。しかし武力だけは持っている。いびつな状態にある。
・自衛隊の国際活動に関する一般法、恒久法の作成が日本の国連常任理事国入りの鍵
・大臣は志願制にすべき

-目次-
第1章 いまそこにある危機
第2章 イラク戦争とは何だったのか
第3章 「軍事オタク」の履歴書
第4章 防衛庁長官の日常
第5章 テポドンは防げるか
第6章 貴方も国を守ってください
第7章 自衛隊のユーザーは国民である
第8章 自衛隊の緊急出動
第9章 対米追随とならないために
第10章 また会う日まで