読書メモ

・「グーグル・アマゾン化する社会
(森 健:著、光文社新書 \700) : 2007.03.11

内容と感想:
 
「Web2.0」という言葉が流行っているが、本書は先に読んだ「ウェブ進化論」や「グーグル」とスタンスが異なる。 それらが期待を込めて、明るい未来を語っているのとはスタンスが違い、本書では問題提起をしている。
 ロングテールというが著者は「ウェブで生き残れるのは、在庫スケールをもっているトップの企業、(ロングテールの対極である)ヘッドだけ」という。 ウェブで直販する小売サイトが増えたが実はほとんどは営業的に苦戦しているようだ。要はウェブビジネスにおいても在庫設備や営業力、宣伝力など事業スケールによる 体力差が現れてきているようである。つまりロングテールで成功したのはアマゾンのようなヘッド側の企業ということになる。
 また、ミリオンセラー現象を取り上げて、商品や情報などの多様化が進む反面、ひとつのところに情報やおカネが集中する実情を見ると、 多様化の反面で見られる一極集中的な現象に著者は疑問を持ち、ウェブを含む現在の世界を考察している。 フリードマンの著書「フラット化する世界」についても「本当にフラットなのか」と疑問を投げかけ、「巨大な一極とフラット化の社会」と言い換えている。 格差社会と言われるが確かにそれを表す現象ともいえる。
 一方で6章では「集団分極化」ということも述べている。同じ考えをもつものだけがネットに集いコミュニティを形成する。 それは一歩間違えるとテロリスト集団のような極端に偏った考え方になり、別の考えをもつ別の集団を排除する。著者はその点を懸念している。 価値観は多様化し、いろんな意見があってよい。それが民主主義であり自由ということだと思うが、それが集団となり、先鋭化し排他的になり極端に振れると危うい。
 注目は7章。世論調査とネット検索結果との意見の温度差、違和感について指摘している。 その原因はネットにおける集団分極化と沈黙の螺旋にあるのではないかと言う。 世論調査もそうだがグーグルの検索結果に時々疑問を感じるのは私だけだろうか?なんでこんなページがヒットするんだ、開いて見るだけ時間の無駄と思うような ページに誘導されることもある。グーグルも完璧ではないということだ。だからこそセマンティックウェブという考えも出てくるのだろう。 その7章ではネットにおける民主主義を実現について書かれているが、その実現にはかなりの努力が必要だろうと言う。
 ネットが広げてくれた思考の多様性を忘れると、ネットが一極集中的な思考をもたらす恐れがあり、逆の全体主義ともいえる方向に陥る。 ネットが多様な意見を民主主義的に集約しやすくするのか、発散させて収拾がつかなくさせるか現段階では分からない。 まだ多くの人はネットを使いこなせているとは思えないから。

○印象的な言葉
・金持ちほどますます金持ちになる
・ミリオンセラー:市場全体として売上が落ちているにも関わらず一極集中が起きている(映画、音楽CD、書籍など)
・多様化どころか人気サイトは固定化されている(グーグル、アマゾン、ヤフーなど)。ジャンルごとにほぼ固定化され、業界標準サイトが形成されてしまっている。
・ホリエモンの功績は世代間格差、ネットと既存メディアのあり方など様々な問題提起をしたこと
・WikiPediaはおおよその情報を知るには十分なほど発展。編集が自立的に繰り返され、精度が上がっていく。放っておいても最適解へ進んでいく。
・オープンソースの理念はもともとサイエンスのアカデミズムの世界で長く培われてきた姿勢と共通。それがネットに受け継がれた。 知的挑戦のためにコミュニティに入る。それにはしっかりした技術的な知識基盤やセンスが必要。
・タグ:写真や動画などコンテンツにテキストが含まれていないものに付けることで検索を容易にする
・アマゾンの成長を支えるもの:ユーザがアマゾンで得られる経験を常により良くすること
・ユーザを巻き込んでいくシステムづくり
・アマゾンはサイト内にはユーザへコミュニティ的な場を提供し、外にはアマゾンのDBアクセス用APIを公開して支店を出す権利を認めている
・グーグルは世界中のウェブデータを収集する。一種のパラレルワールドが出来ている。全ての情報を握ること
・六人を介せば、世界の誰とでもつながる。これは人脈だけでなく神経や航路などにも見られる構造
・フリースケールネットワークでは「魅力的な適応度」があれば後発でもハブとなりうる
・情報とマネーは親和性が高い。ものとしての実体がなく、データにたやすく変換できる
・セマンティックウェブ:単語のもつ意味やコンテキスト(文脈)から情報検索
・SNSの欠陥:パーソナライゼーションが進むあまり、偶然性による情報や人の発見が減る。嬉しい誤算や思わぬ発見がなくなる
・沈黙の螺旋:自分の意見が劣勢だと孤立を恐れて沈黙する。そのため優勢意見はますます勢力を増す。
・ネット空間は果たして平等か?自分の意見を発表できるが、それと影響力の大小とは別
・ウェブの情報の精度を保証する仕組みがない。情報を解釈する人間が飛躍的に賢明になることは考えにくい
・ウェブにある大量の情報のほとんどは見られていない
・アーキテクチャの仕様は人の振る舞いや思考までも規定することがある。検索結果を何ページも見る人は少ない。 上位にランクされる情報だけを見るとすればユーザの思考を誘導されはしないか

-目次-
第1章 多様化が引き起こす一極集中現象 ―巨大な一極とフラット化した世界
第2章 Web2.0の世界 ―「ユーザー参加型」「膨大なデータベース」
第3章 Amazon ―参加のアーキテクチャー
第4章 Google ―半強制的な参加のアーキテクチャー
第5章 スケールフリー・ネットワーク ―金持ちほどますます金持ちになる理由
第6章 個人への一極集中 ―タグとパーソナライゼーション
第7章 「民主主義」によってつくられる“主体性ある思考”