読書メモ

・「コミュニケーション力
(齋藤孝:著、岩波新書  \700) : 2006.08.12

内容と感想:
 
著者には「質問力」や「偏愛マップ」などの著書があるが、 本書にもそれらのエッセンスが取り込まれており、「あとがき」にも書いているように本書が著者のコミュニケーション論の「扇の要」と位置づけている。
 コミュニケーション能力の重要性は特にビジネスの世界でも認識されているが、では実際に能力向上のための施策がとられてるかというと、自分の会社でも最近は 社内研修も増えつつあるがまだまだであろう。メールなど便利なツールはあっても人間の信頼関係の構築はメールだけでは難しい。 ビジネスでのトラブルの原因が意志疎通の不足などにあることも多い。信頼度の向上には相手の感情を理解する能力が必要だ。
 人間理解という点で印象的だったのはコミュニケーションの余裕について第3章でこんなことを言っている。 死から逃れられないという公平さが、互いの存在の哀れみや切なさという見方に変わってくる。 愛することまではできなくても理解することは可能ではないかと。 最近、イスラエルとヒズボラ(レバノン)の戦闘で再び中東情勢が緊迫してきたが、 ユダヤとイスラムという宗教対立が根強く背景にあることは間違いない。 いまだ世界各地で対立が絶えないが何とか宗教を超えた相互理解を深められないものだろうかと思う。
 興味深かったのは著者が独自で行っている「全国頷き率調査」。頷くことはコミュニケーション技法の一つ。 意識せず自然に行っているはずだが、その調査によれば公演中に東京の人は地方の人より頷くことが少ないそうだ。 これだけを見れば都会人のコミュニケーション能力が低下しているとも言える。 別の見方をすれば、都会ではそれでも困っていないのであれば、 別の何らかの手段でコミュニケーションを補っているのかも知れない(それが何かは分からない)。

○印象的な言葉
・文字は文明を加速した一番の要因。文字の大いなる力。文字にすることで記憶が省かれ、確認も容易、思考も整理される。
・会議では最も重要な問題から始める。いきなり本題から入る
・コミュニケーションのない家族は一緒に暮らす意味がない。家族関係の本質に関わる。
・手紙は重みのあるコミュニケーションの手段。肉筆の訴えかける力
・和歌は制限された文字数の中で言葉の象徴性をフル活用する。思いを言葉に託す
・人間は言語という精緻な記号体系を構築したことで、高度な情報交換が可能となった
・中年以降の男性に「微笑み欠乏症」が多い
・恥ずかしがることはオープンな身体コミュニケーションの最大の敵
・小説の中の会話文が上手いかどうかは音読すれば分かる。人物のリアリティが違う
・ドイツ系は話をまとめる傾向、フランス系は散らす傾向がある
・自分の考えをはっきりさせるために相談をもちかけてみる
・心の過不足があるからコミュニケーションがおもしろくなる
・文化のレベルが上がるとコミュニケーションのズレやギャップを楽しむ余裕ができる
・戦争はコミュニケーションの拒絶
・相性は意外と強固

-目次-
第1章 コミュニケーション力とは ―文脈力という基本
第2章 コミュニケーションの基盤 ―響く身体、温かい身体
第3章 コミュニケーションの技法 ―沿いつつずらす