読書メモ
・「独眼龍政宗 (上・下)」
(津本陽:著、 各\476、文春文庫) : 2003.06.21
内容と感想:
戦国末期の奥州で、四方を敵対する大名に囲まれながらも、これらを攻め、版図を拡大していった政宗。幼い頃に病で失った右目から、独眼龍と仇名され、名を轟かせた。
その伊達政宗の誕生から死までの一生を描く。
先だって読んだ「史伝 伊達政宗」で彼の一生はほぼ知ることができたが、”津本版”政宗では如何に描かれるかと楽しみに読む。
基本は家康を描いた「乾坤の夢」の路線。史料をもとに編年式に淡々と一生を語っていく。「日記」も引用されている。
巻末の奥州地図が地理的な理解も助けてくれる。東北の地理には疎いから・・。
「史伝 ・・」で彼の一生の概要を示したから、ここでは触れない。特に印象に残った点のみに触れておく。
冒頭の梵天丸と呼ばれていた少年期のエピソード。失明した右目が飛び出し醜悪な姿を晒したくないと、近習の片倉景綱に小刀でその目をはねさせた場面では、子供とは思えないほどの胆力に驚かされる。
関白秀吉の惣無事令が奥州にも発せられている頃。摺上原の戦い(1589年)で蘆名氏を滅亡に追い込んで会津の地を手中にし、所領を一気に拡大した直後、秀吉から北条攻めのため小田原参陣を命じられていながらも同盟者・北条氏への義理や留守中の自国の安全への不安からぎりぎりまで参陣を遅らせる場面。催促や天下の情勢を伝える書状が次々に彼のところに送られる。遅刻しながらも結果的に秀吉に許されることになるが、ここらの描写は緊張感があり、一番の見せ場(読ませどころ?)だろう。
この後にも命を危うくする場面はある。奥州仕置き(秀吉が東北地方も完全に統治下に置いた)の後、葛西・大崎での一揆を裏で操っていたと疑念を持たれたとき。また、関白・秀次謀反疑惑に連座したとの疑われたとき。しかしこれらの危機をも乗越えるが、いずれも戦場を舞台とした命のやりとりとは異なる次元の危機。既に時の権力機構に組み込まれた感の伊達家。天下統一となった秀吉の世では、政宗ら分権派に対抗する勢力(中央集権派)らの陰険な策謀が、戦なんかよりも、勢力図を大きく変えていく。陰謀によって一国を失いかねないのだ。
朝鮮出兵、関ヶ原合戦前後の上杉への牽制役、大坂の陣などと、その後も戦場に向かった政宗であったが、いずれも自らの野望を賭けた戦いではなかった。江戸幕府が開かれ、家康とも仲のよかった政宗は完全に徳川政権下の一大名に押し込められた。乱世は終り、天下泰平の世となり、歳を重ねていく内に次第に政宗の心境も変わって行く。完全に爪牙を抜かれた独眼龍の胸中はどのようなものであったか。
各所に挿入された数々の政宗作の和歌が、各年代での彼の胸中を物語っている。
幕藩体制となった江戸時代初期、戦国時代の生き残り達は大きく意識転換を迫られたと思うが、そんな徳川政権下の日本を政宗はどう思って見ていたのだろう?。
更新日: 03/06/23
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