読書メモ

・「ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか
(梅田 望夫:著、ちくま新書  \740) : 2008.02.11

内容と感想:
 
ウェブ進化論」の著者。 自らオプティミズム(楽観主義)を宣言してウェブの世界を見つめ続けている。 基本的に本書のスタンスも同じだ。 本書では自らの経験を語り、「ウェブ時代」の新しい自由な生き方、働き方を提唱している。
 本の中に「高く険しい道」と「けものみち」という言葉が多く出てくる。その比喩はどうやら専門志向と総合志向を意味しているらしい。 ネット(高速道路)を介して誰もが高速に学習可能な時代になったが、明確な出口はなく道路の先ではどこへ進むべきか分からず、 あるいは難易度の高い壁があって進むに進めぬ大渋滞のような状況になる。 その先に進むには「高く険しい道」を目指すか、道路を降りて道標のない「けものみち」を歩くという選択肢しかない、という。
 著者も言っているように、どちらに進むにせよそこでサバイバルするつもりなら、どちらかに進むしかない。 どちらもサバイバルに必要なのは「好きを貫く」ことだと言う。 従ってその先に進みたくない者は現状維持で我慢ということになる。
 著者の考えでは「けものみち」とは複数の志向性を意識しながら、複合技で歩んでいく道だそうだ。 それが「自分にしか生み出せない価値」を生む、と。 分かりにくいなと感じたが、著者自身も「誤解を招きやすい言葉」と断った上であえて使っている。 第3章ではそれを「専門性を活かしつつも個としての総合力を活かした柔軟な生き方」とも言い換えているが、やっぱり分かりにくい。
 そして著者自身は「けものみち」を選んだ。それが著者がいう「新しい自由な生き方」なのだ。 いまの若者の職業についての見方が枠にはまりすぎていることを心配しており、そういう道もあるのだと言いたいのだ。 では著者が実際にどうやってこれまでサバイバルしてきたのかについては本に書かれている。
 第4章では著者が「けものみち」で生きていくために著者自身が工夫した思考法について述べている。 要するに自分に合った「ロールモデル(お手本)」を見つけて、実践し、駄目なら捨て、新たなモデルを探し、引き出しを増やしていくというもの。
 第2章では非営利プロジェクトに没頭していても意義あるものであれば「飯が食える」ようにならないか?と書いているが、 Web2.0時代の新たなビジネスのあり方、個人の働き方についても考えている。
 著者の書いていることは時にいい加減にも聞こえるが、 この手の本が受けるのも、人々がそうした発言を渇望している証拠でもある。何かヒントをもらいたいと。 失礼な言い方かも知れないが、著者のような生き方もあるのだと、彼を「ロールモデル」にしてみるという意味で本の価値はある。

○印象的な言葉
・好きを貫く自由、好きなことへの没頭、好きということの凄まじさ、love、内面的な報酬
・人生をうずめている人
・知的で明るい大人:新しい事象を積極的に未来志向でとらえ、挑戦する若い世代を励ましつつアドバイスを与える
・ネットの特徴:小さな弱者との親和性、人々の「善」なるものや小さな努力を集積、全ての人々へ表現や社会貢献を開放、個性・志向性を発見し増幅、社会に多様な選択肢を増やす
・世の中には「これまで言葉を発してこなかった」面白い人たちがたくさんいる
・長く思索を続けてきた市井の知。真剣に生きている。潜在知
・グーグルは「知の基盤」を整備しようと目論む ⇒(広告仲介事業で)広告産業の中心を担おうと企図
・ネットとリアルの境界領域には「新しい職業」が生まれる可能性
・世界をよくするために働いている
・利用者にとって素晴らしく便利なものを作れば、ビジネスは後からついてくるだろう
・豊かな時代の究極の楽しみは「クリエイトすること」
・オープンソースの不思議:市場メカニズムに非依存、自律的な運営。豊かな先進国の若い知的階層が中心。国籍・性別・年齢に関係なく知的関心だけが人々を惹き付ける。 チームが共演する劇場的空間。イノベーションの連鎖。個の貢献が注目され、賞賛され、そこで得られる満足感が原動力
・目標となる人物像:尊敬されるハッカー
・リーダーの没頭ぶりがコミュニティ全体のエネルギーの核になる。コミュニティ内は実力主義、貢献度に応じた秩序が生まれる
・WikiPediaが広告掲載せず、非営利を貫くのは慈善事業で、高い理想があるから。これまで暗黙のうちに却下している広告からの収益は世の中のために役立つものに使える。
・「やりたかったこと」を貫く頑固さ、一徹さの凄み。スモールビジネス・オーナー
・「素晴らしい信頼の環境」利益を追求しすぎるとコミュニティの信頼を失う。外部からの投資も受けず、IPOや企業売却も考えない。 信頼を大切にする「不特定多数無限大」の「利用者兼情報提供者」。
・大きなお金とは切り離された空間には悪が介入するだけのインセンティブが小さい
・関心を同じくする真の仲間の発見
・一日五分の世界中の人の善意を集めて世の中を良くしよう
・自らの作品を世に問う
・マドルスルー(泥の中を通り抜ける)のプロセスを楽しむ
・自らをコモディティ化だけは絶対にしない
・価格の相場が決まっていないところで「能力の取引」をして稼ぐ
・「つながった脳」(他者の脳)を活かした仕事の仕方。個が一人で生み出す価値を大きく上回る可能性
・xxの世界でxxに関わって飯を食う可能性空間:連盟経営、普及や指導、解説、イベント企画・運営、執筆・編集、ソフト開発、後進育成、新市場開拓、次世代ビジネスの構想・執行
・生きるために水を飲むような読書
・構造化しようと苦吟する過程で発揮する創造性
・若者の思考回路がネガティブになっている?自分の悪いところばかりを探す。自己評価を低くしている
・シニア層はいずれ総表現社会の担い手になる。自らの経験を語る。若者にとってのロールモデルたり得る人。
・歴史上、過小評価されている人物や組織
・幸福とは好きを貫いて生きている状態
・本の間の関係付け、文脈付け、解説、再構成といったところに(群集の叡智が関与する)付加価値がある
・知的生活:絶えず本を読み続ける生活
・もやもやとしたことを相手に合わせて分かりやすい形に構造化してコミュニケーションする能力
・個が自己利益のためにやっていることが、結果として全体のためになる
・エンジニアにとっての理想的な環境:生活の些事に関わるロスを排除し、仕事に没頭できる環境
・ビル・ゲイツ:世界の不平等の是正に取り組む。世界全体を動かしている政治や社会のシステムは不合理で非効率で壊れたもの
・聞けば読めば心が萎える言葉ばかりをシャワーのように浴びている

-目次-
序章 混沌として面白い時代
第一章 グーグルと「もうひとつの地球」
第二章 新しいリーダーシップ
第三章 「高速道路」と「けものみち」
第四章 ロールモデル思考法
第五章 手ぶらの知的生産
第六章 大組織VS.小組織
第七章 新しい職業
終章 ウェブは自ら助くる者を助く