読書メモ
・「サブプライム後に何が起きているのか」
(春山 昇華:著、宝島社新書 \648) : 2008.08.10
内容と感想:
「サブプライム問題とは何か」の続編。
前作が「サブプライム問題という事件の解説」に重点が置かれていた。
本作はより掘り下げ、また新たに噴出した問題や、グローバル経済の将来展望などにも触れている。
2007年8月のサブプライムがきっかけの株価暴落から一時は立ち直ったかに見えたが、
翌08年1月にアメリカ景気後退懸念が広がり再び暴落。
そこで新たな言葉が登場。モノラインという金融保証専門の保険会社の損失拡大だ。
これも重なってお金の流れが鈍くなり欧米の金融機関への貸し手もいなくなった。
そこへ登場したのがアジアや中東の国富ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド)。
特に潤沢なオイルマネーを持つイスラム諸国が世界経済の中で発言力を増し始めた。
危機に陥った欧米の金融機関に資金提供して救済することによって、彼らが破綻せず復活すれば、
それらの会社の現在の株価はかなり割安だ。更に彼らの経営に影響力を行使することで最新の金融技術を習得でき、
政治的な恩も売れる。
そうした原油産出国は原油輸出で積みあがった貿易黒字(外貨準備)を国内で吸収するだけの大規模な投資案件は少なかった。
だから資金は自然に海外に流れていく。
第5章では覇権国家の盛衰についての話がある。
古くはローマ帝国、次が大英帝国、そして今のアメリカ。そのアメリカの覇権がいよいよ縮小し始めた。
「歴史のセオリーからすれば、アメリカの資金と技術によって開発され発展をとげる国・地域が次の覇権国となる」と言う。
それはアジアか中東地域だという。「インドや中東諸国は資金援助と内需の開放の両輪がまだ揃っていない」というから、
そうすると、それは中国ということになる。果たしてどうだろうか?
○印象的な言葉
・格付けと証券化の暴走、格付けへの疑問
・信用創造メカニズムの終わり
・モノライン保険会社の格下げ
・クオンツ信仰の崩壊。価格の歪みを目ざとく見つけて、それが自然に元に戻る動きを利用して儲ける
・売れ残り商品の再出荷だった再証券化
・次の覇権国はアメリカによって開発され発展を遂げる国
・サブプライム問題が招いた3つの危機:信用危機(証券化商品への信頼低下)、流動性の危機(買い手不在)、(金融機関の)資金繰りの危機
・米国の住宅価格が下落し各州の税収の柱である不動産税が激減
・住宅や自動車は多くの企業が関わる裾野の広い製造業
・預金や短期市場から低い金利で資金調達し、金利の高い長期で貸し付ける銀行は、長短金利差が利益の源。これは中央銀行かあ銀行への利益供与
・欧米の金融機関はリスク管理上許される最大限のレバレッジをかけていた。簿外の投資活動が増え、投資に伴う資産を帳簿から切り離し「オフバランス化」していた
・ドルの下落が続けば、原油価格のドル建て価格は自動的に値上がりせざるを得ない
・日本のバブルの時、住専問題で金融危機が始まる。海外の金融当局から早急な救済措置を要望されていたが「税金を使った金融機関救済に否定的」で、公的資金投入に5年を要した
・80年代の日本は貿易黒字が国内の需要だけで吸収できなかったのにも関わらず海外へ流すことができなかった。それが国内の資産価格(不動産)を上昇させた
・イスラム地域は莫大な資金を必要としている。経済発展は民生の安定につながらう。結果的にテロは減少するはず
・イスラム金融では金利を認めていない(不労所得だから)。リスクを負って投資した結果として得られる収益は認めている。
イスラムの社会規範というフィルターを通過したビジネスにのみ資金が流入する。これは社会的責任投資(SRI)に近い。
・マレーシアはイスラム金融の中心になろうとしている
・アメリカは膨大な貿易赤字を海外からの資金流入で埋め合わせるという自転車操業をしている経済大国
・アメリカにおいては経営者に待ちは一切通用しない。撤退のためのコストは前向きなコストと見なされ、巨額損失も厭わない。それが評価される
・モノラインの役割:本来は信用力の異なるローンや債券をまとめて支払い保証しパッケージにして証券化することで品質が標準化、均質化した商品となり売りやすくなる
・格付け:その算出方法は多くの定性的な判断が占めており、基準は公開されていない。責任を負わないもので、単なる意見表明にすぎない
・証券化商品のほとんどがトリプルA格付けだった。
・毛沢東の大失敗政策「文化大革命」。1978年から超現実主義者・ケ小平の改革開放路線。社会主義市場経済
・コモディティ労働者:誰が作業しても同じ、単純作業従事者
・日本人は中途半端に豊かなため危機意識が国民のコンセンサスとして醸成されない
・日本経済のピークが1988年、1人辺り国民所得の世界順位のピークが93年、労働人口のピークが96年、総人口のピークが2004年。これらは日本の緩やかな衰退を示す
-目次-
プロローグ 「借金をして利益を嵩上げ」する手法の終わり
第1章 窮地に陥った金融機関
第2章 突如として表舞台に登場した国富ファンド(SWF)
第3章 レバレッジ・バブルの「正体」
第4章 モノライン―格付けの「罪」と、投資家のレバレッジ信仰
第5章 世界金融維新
第6章 日本は昇るのか、沈むのか
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