読書メモ

・「サブプライム問題とは何か 〜アメリカ帝国の終焉
(春山 昇華:著、宝島社新書 \700) : 2008.07.12

内容と感想:
 
米国のマイノリティ層にも住宅が取得できるようにと生まれたのがサブプライムローン。 サブプライム問題とはローンそのものに問題があったわけで起こったわけではない。
 悪質な金融機関がこの仕組みを食い物にした。 到底返せないような支払い条件でローンを組ませていた。 最初は低率の固定金利だが、固定期間終了後は金利が跳ね上がり、支払い継続不能となる者が続出。 サブプライムが拡大する内に貸す側にも借りる側にもモラルハザードが生じ始めた。 住宅ローン・ブローカーは斡旋手数料で生活し、契約数をこなすことが至上命令であり、 顧客が破綻するのが分かっていても契約させていた。 そしてローン支払いに行き詰った者は最後は家を取り上げてられてしまうところから「略奪的貸付」とも言われた。
 ローンを貸す側は証券化によりローン自体は他人に売却するため、貸し倒れリスクから逃れられる。 そこで得た資金を別の人にローンとして貸し付ける。理論的にはこれを何回も繰り返すだけで儲かる。こんなオイシイ商売はない。 しかし金利上昇局面でローン支払い延滞が急増すると、住宅ローン専門銀行などはローンの転売による自転車操業が立ち行かなくなり、 倒産も急増し始めた。 証券市場からは資金が引き上げられ、流動性を失った。 ヘッジファンドなどは投資家から解約を迫られ、資産を投げ売りし現金化。更に資産価格は低下、在庫の証券を抱える業者は評価損を抱えるようになり、 信用収縮から企業の株価も急激に低下。金融不安が広がった。アメリカの実体経済にも大きな影響を与えることが懸念された。
 証券化によりリスクが世界中に分散され、全体の損失も把握できないため疑心暗鬼を生んだことも大きい。 2008年7月現在、NYダウ平均株価は2007年につけた最高値から3,000ドル近く下落しており、景気は後退局面にある。 世界経済にも影響は広がっている。
 そもそも2000年のITバブル崩壊で不況が訪れると、FRBは超低金利政策を採用。 これに伴って住宅ローン金利も低下し、ローン貸し出し競争が激化する。 世界的な金余りもあって資金は不動産市場へ移動。住宅価格も上昇。住宅バブルの発生だ。 しかし2004年以降の金利の急上昇でサブプライム利用者が支払い不能になるケースが多発。バブルは弾けた。 FRBは未然には防げなかったのだろうか?
 借入者はローン支払いに窮したとき、交渉する相手はローン債券の保有者(投資家)となるが、彼らは世界各地に散らばっていることもある。 事実上交渉の道が閉ざされ、即、住居から追い出されてしまう。せっかく家を持つことが出来た人々は再び昔の生活に戻らなければならなくなった。 景気が後退してくると企業のリストラが始まり、更にローン支払いに窮する人が出てくるだろう。 せっかく誰もが住宅を持てる政策を進めてきたのに、また昔に逆戻り。治安の悪化も懸念される。そうならないために米政府は救済策も検討しているという。
 ここに来てファニーメイ、フレディマックの経営にも懸念が出始めた。一旦、落ち着いたかと見えたサブプライム問題だが、新たなステージを迎えるかも知れない。 そうなるとサブタイトルにある「アメリカ帝国の終焉」も現実味を帯びてくる。日本も少なからずその影響を受けるだろうが、再び「日が昇る」チャンスでもある。

○印象的な言葉
・住宅転がし
・リスクを他人に押し付け、モラルを喪失
・アメリカの貿易赤字は周到な戦略
・資源価格高騰がアメリカ帝国主義を崩壊させる
・円キャリー・トレードの手仕舞いで円の買い戻し、円高へ
・日本でも消費者金融業者が不動産担保ローンに注目
・米政府系住宅金融機関:ファニーメイ、フレディマック。住宅ローンを民間金融機関から買い取る機構。買取資金は債券を発行して調達。政府に次いで信用力があるとみなされている。
・住宅優遇税制:住宅ローンの支払い金利を所得から控除できる。期間は無制限。セカンドハウスにも適用可能。これを利用した不動産投資は株式投資より有利
・アメリカではお金をどれだけ借りられるかで人を評価する
・アメリカでは福祉よりも自助努力が優先。税金投入は日本以上に政治的に神経質
・住宅バブルのときは住宅ローンブローカーが急増。資格不要
・バブルのピーク:浮かれ、悪乗り、非常識
・バブル期の日本の住宅価格は年収の10倍近くまでいった
・証券化:将来受け取れる配当の流れが予想できるものは何でも証券化できる。小分けにされるため流動性が高い
・ABCP:CP(Commercial Paper)の一種。短期の運転資金調達に使う。コストが低く、現金にもっとも近い安全な債券投資とみなされる。 ABCPの担保にサブプライムが含まれていた。ABCPへの信頼低下から金利が上昇
・SPC:特別目的会社。ABCPを発行する会社。銀行と一体であり、銀行は資産をSPCへ移して、オフバランス化する。資金はABCPで調達。
・法的には格付け機関の格付けは何の責任もない一つの参考意見に過ぎない
・格付けはアメリカが牛耳っている
・中南米の金融危機の度にアメリカは高金利で資金を供与し、各国を借金でがんじがらめにした。最近の資源高騰により各国に借金返済、経済自立の光

-目次-
プロローグ
第1章 住宅バブルを生んだ社会的な背景、時代的理由
第2章 サブプライムが略奪的貸付に変質した理由
第3章 サブプライム問題の露呈〜歯車が逆回転を始めた
第4章 サブプライム問題への対策と現実
第5章 サブプライム問題の今後
第6章 終わりのはじまり〜アメリカ帝国の終焉
あとがき