読書メモ
・「アメリカの新国家戦略が日本を襲う」
(日高 義樹:著、徳間書店 \1,400) : 2008.05.24
内容と感想:
タイトルだけ見ると、アメリカが日本を攻撃するようにも読めてしまうが、そうではない。
ブッシュが作ったアメリカの新国家戦略とは「国家安全保障戦略2006」。冷戦時は「NSC68」という政策を基本としていた。
ブッシュの任期も終わりに近づき、イラク戦争も長期化し、アメリカは世界の安全保障におけるリーダーとしての立場を放棄しつつある。
いまや自らの軍事力によって世界を動かそうとは考えていない。
現在、アメリカの世界戦略に占めるアジア極東地域の部分は極めて小さくなっている。
関心は中東・アフリカにある。戦う相手はテロリストになっている。
本書は日本とアメリカとの関係を中心に、日本の周囲で起きている安全保障上の問題をリポートしている。
先日、読んだ同じ著者の「ブッシュのあとの世界」からも話が繋がっている。
極東地域の占める部分が小さくなっているとは言え、アメリカの対中国戦略、極東戦略には我々も関心を持つ必要があるだろう。
本書では中国が西太平洋の支配を目指していることや、台湾問題、日本の領海侵犯の問題、
中国製自動車が世界を席巻しつつある問題、特許の盗用、WTOの取り決めに対する違反行為、軍部の暴走の危険性など、が取り上げられている。
また、未だ未解決の北朝鮮問題もある。
核兵器開発、拉致問題、偽札作り、麻薬問題、化学兵器・生物兵器製造、権力の継承問題など。
中国や北朝鮮と今後どのように付き合っていくのがよいか考えさせられる。
こうした情勢の中、著者は日米安保の見直しを強く訴えている。
日本はもはや「アメリカの子供」ではいられない。これまでのような安易な生き方は許されなくなっており、独り立ちのときが来ている、と。
安保が消滅するときが、アメリカの日本占領が終わるときである。そのとき日本は丸裸とは言わないが否応なく危険に晒されることになる。
そのとき日本は核兵器を保有すべきだろうか?
日本はアメリカに対する最大の債権国である。
極端な話、アメリカが軍事的に日本を攻撃して、あるいは他国に攻めさせて日本を潰せば、日本への借金を踏み倒せる。
日本が今すぐやるべきことは経済力があるうちに世界戦略を打ち出すこと。優れた技術力も活かせるだろう。
しかしそれを過去のように侵略に使うのではなく、国際社会の平和に貢献し、人類の未来を作るために行使しなければならない。
自己犠牲の精神も必要になる、犠牲が伴う活動も覚悟しなければ信頼は得られないだろう。日本人は腰抜けだと笑われる。
国家指導者は有事の際に国民に犠牲を求められるだろうか?政治不信は続いている。
リーダーシップのない指導者についていく国民はいないし、そんな人のために血を流そうなんて思わないだろう。
ちゃんとした国の指導者を選べないのがもどかしい。
戦争というだけで反射的に反対するのでは思考停止だ。
「日本をどう守るか決めるのは日本人自身」。
「自国を自分の力で守ることができない日本は一人前ではない」。
「アメリカとの関係は同等の立場の同盟国として、互いに補完するような関係が望ましい」。反米なんてとんでもない。
中国と同盟?それこそありえない。そんなことをしたら大国・中国に呑み込まれるだけだ。
徹底して非暴力主義で行く?核兵器を撃ち込まれても抵抗せずやられっぱなしで日本人が全滅しても構わない?
それではご先祖様に申し訳が立たない。
世界から尊敬されなくても、軽蔑されてもいいのならば自衛隊は解散しなければいけない。
そんなこと出来やしない。全人類が同じ人種になるか、同じ宗教の信者にでもならない限りは、平和を願うだけでは世界平和は来ない。
(国際結婚がごく普通になり、あるいは新たな宗教が生まれ、そうなる時が来るかも知れない。ややSFチックだが)
さて、アメリカ大統領選挙の民主党の候補者選びではオバマ候補が勝利に近づいた。
著者は第六章で「民主党の大統領が選ばれることはアメリカだけでなく、世界にとって極めて危険」と書いている。
共和党は早々とマケイン氏にまとまったが、高齢を不安視されている。どちらが選ばれても、アメリカはより内向きとなり
世界はより不安定になるかも知れない。アメリカの力が弱まっているときは、日本にはチャンスである。
国際社会に貢献し、発言力を高め、一人前の尊敬される国になるチャンスだ。
○印象的な言葉
・ベトナム戦争終結のためアメリカは中国の手を借りてソ連を牽制した
・国際社会は騙し合いの場。理屈が通らないところ。暴力がまかり通っている。
そうした場では国連、経済援助、人道的外交では対処できない
・中国は石油を世界各地からあらゆるやり方で買い入れるべく軍事力を強化。石油確保のためスーダンやチャドといった国民をだんな圧する国と取引している。
石油国家へ軍事援助も行なっている。
・中国海軍は特に潜水艦隊を強化している
・海外駐留のアメリカ軍は大幅に減った
・従来のように核兵器のみにより抑止力を行使できるとは限らなくなった
・アメリカは従来のような古典的な戦争を止めたいと考えている
・アメリカ軍のトランスフォーメーション:空軍が日本に常駐する仕組みを変え、有事駐留、ローテーションの形となる。
日本本土にいるアメリカ戦闘部隊は第七艦隊のみ。
・日本に核兵器を持たせないことが最大の対日政策だった。憲法も変えさせないよう監視してきた
・安保は日本が破棄すると決めれば破棄できる
・小泉の郵政民営化は郵貯の巨大資産を狙うアメリカなどの金融機関を喜ばせた
・安倍首相はアメリカには期待外れだった。反米ともとれる動きをした。訪米した際は国賓待遇にされなかった。
・アメリカのリベラル派は日本の保守政治家が大嫌い
・アメリカ国務省には歴代、中国寄りの人が多い。国務省官僚にはリベラル派、革新派が多い。革新的な方向に独走することがある。
エリートだが出世の道に直結しておらず、屈折がある。反権力的な行動に走ることが多い。それが義務と特権だと考えている。
・中国が経済拡大をめざすのは共産党体制強化のためであり、民主主義国家になるつもりなどない
・イランが核装備すればサウジも核兵器を持つ。その前にイスラエルがイランを攻撃するかも知れない
・アメリカのマスコミは保守嫌い。「弱い者の味方」を任じている。リベラル派のマスコミは中国に近い。
・政治家は国際社会の変化に敏感であれ。日常の仕事に埋没している官僚達に全てを任してはいけない
・中国が北朝鮮への経済援助を絶てば数日のうちに金正日政権は崩壊するが、中国にはそうするつもりはない。
朝鮮半島が統一された場合、経済上の強力な競争相手となるため
・北朝鮮は第二次大戦後、亡命していた朝鮮共産党が作った国。そのグループに入れなかった人々がアメリカ軍の力を借りて韓国を作った。
・アメリカは朝鮮半島をまるごと中国に取られないために北朝鮮と国交を結び、中国に対抗するテコにしてもいいと考えている
・アメリカが台湾問題の処理を誤ればドルの権威は落ちる
・中国には数千年にわたる権謀術数の歴史がある
・アメリカ共和党は地方社会が基盤。現実派の人々が政治的な柱。まとまりがよく力の政策を進めやすい。
民主党はリベラルで、理論派。国際問題を力で解決しようという現実的なスタッフを欠く。
・中国の胡主席や温首相などの若手官僚は資本主義化や近代化を進めるためアメリカで教育を受けた。国際的な感覚を持つ優秀な若手が抜擢されている。
それに対して守旧派の地方官僚や軍人が対立。中国経済はバブル化し、崩壊の危険も強まっている。経済が崩壊すれば政治の暴走が始まる。
軍部が自らの利益のために独走をする危険性。
・世界最強と思われたアメリカがテロリストの核攻撃に晒され、超大国だった国が普通の国になってしまった。同等の立場で助けてくれる同盟国を必要としている。
・独立国家であるはずの日本を戦後、アメリカは占領地、植民地として使ってきた。それを何の疑いも持たずに来た日本人。あまりに過酷な戦争の後遺症のせい。
・中国は日本とアメリカの分断を目指している
・政党は地元に密接しているべき。地方の政党の連合が全国組織になるべき。今の日本は逆である。
-目次-
第1章 アメリカの戦略が変わった
第2章 アメリカの極東戦略が終焉した
第3章 アメリカは歴史的な大転換点に立っている
第4章 アメリカは北朝鮮問題を解決するつもりがない
第5章 アメリカは中国にだまされている
第6章 日本は「アメリカの子供」ではいられない
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