読書メモ
・「ブッシュのあとの世界 〜「甦る大国・日本」叩きが始まる」
(日高義樹:著、PHP研究所 \1,300) : 2008.04.19
内容と感想:
「日高義樹のワシントン・リポート」(テレビ東京)でよく知られる著者。
2007年2月に出た本。
2006年のアメリカ中間選挙でブッシュ共和党は大敗を喫した。
イラク戦争の長期化などブッシュ大統領の失政により、ブッシュ政権はレイムダック状態、つまり任期が終わりに近づき職務が果たせなくなっている、という。
そのイラク戦争でアメリカ軍は長すぎる戦闘に消耗しきっている。
そんなブッシュは北朝鮮問題でもやる気を失っている。
北朝鮮の核兵器開発は金正日の国内向けの政治宣伝で、開発を止めるときは金正日がトップの座を失うときだ。
それを止めさせる見込みがなくなったアメリカは六カ国協議を無視して勝手に直接対話を始めた。
まだまだ問題は山積である。
また、中国の経済成長はアメリカに巨大市場を提供しているが、一方で稼いだ外貨で中国共産党は軍備拡張を急いでいる。
アジアの周辺国だけでなくアメリカにとっても脅威だ。
その中国では各地で続発する農民たちの反政府運動や暴動、それに対する警察や軍隊の残虐な扱い。
共産党首脳に広がる汚職、銀行の不正融資や不良債権の増加、土地の不正収用、過酷な労働条件などが問題になっている。
国民のガス抜きのために、彼らの目を外に向けさせるよう反日活動を煽ったり、日本近海で艦船の小競り合いなど何が起こるとも知れない。
そして大国ロシアも息を吹き返してきた。
プーチンは強力な中央政治体制を作り始め、国家主義的、秘密主義的な体制で権力を強化している。
彼の当面の最大の敵は中国。中国がロシアの石油資源を狙っているからだ。
これらがいずれも日本のすぐ近くで起きていることを忘れてはならない。
次のアメリカ大統領選挙の話題もあるが、本書では民主党のオバマ氏はまだ登場していない。
そんな世界状況で日米安保も見直さざるを得ないことに日本の国民は気付いているだろうか?
本書は戦後のアメリカの傘の下で惰眠を貪って来た日本人に目を覚まさせようとしている。
アメリカの世界戦略は変わってきており、それに合わせて日本も変わって行かなければならなくなっている。
「北朝鮮が日本に攻撃をしかけてきたとき、アメリカ軍が日本に代わって報復する可能性は極めて小さい」という記述は衝撃的である。
その理由は本の中にある。
同盟国なら助けてくれるだろうと日本人の多くは甘く考えているはずだ。
「アメリカが今までのように日本を守るわけにはいかないという現実」に我々はどう対処していくべきか?
「日本の安全保障問題担当者のレベルの低さ、情報収集能力がない」とも言う。全てアメリカに任せっきりだったから
日本ひとりでは何もできなくなっているのが現実だ。
元国務長官のキッシンジャー博士は「日本が核兵器を持つのは当然で、持つことになるだろう」、
「日本のような大きな国が、長い間よその国に安全のすべてを頼るということ自体がおかしい」と言っている。
著者は「自らの身は自らが守る」という人類の常識を受け入れなければならなくなった、と最後を締めくくっている。
さて、憲法改正も口にしていた安倍首相は退陣し、もうすぐ小沢民主党が政権を取るのではないかと言われている。
果たして民主党は安全保障問題をどうしていくつもりだろう?
○印象的な言葉
・テロとの戦いで先制攻撃も辞さないという政策がドルの信用を高めた。強いドルのおかげで各国は輸出中心に好況を続けた
・好景気の恩恵を受けた国民と受けなかった国民との間に大きな落差。富の偏在。金持ちをますます金持ちにする政策
・アメリカ国内だけでなく世界中の投資家が手当たり次第にアメリカの不動産を買った
・世界のモノづくり人口が中国の参入により倍増
・毎年、数百万人単位で急増しているアメリカへの移民
・アメリカ民主党の手厚い社会保障政策、人権擁護政策
・アメリカのマスコミは孤立主義的、戦争が嫌い
・イラン政府の核兵器開発は中東全域の覇権を狙ったもの
・アメリカ軍の再配備:トランスフォーメーション
・軍事力の行使は外交の延長線上。
・日本国憲法は無責任。国際平和を実現するための軍事力を放棄している。
国の主張を実現するためには外交が必要で、それを推し進めるには軍事力が必要。国際的な常識。
・中国人は一人一人は優秀だが、協力し合うのが苦手
・「9.11」はクリントン政権の煮え切らないテロリスト対策の結果、起きた
・光学器械や通信機材などアメリカにしか売れない精密産業が(輸出で)日本経済を支えている
・中国国民は議会活動や他の手段によって政治的な意思を表明できない
・毛沢東の大躍進運動で2千〜5千万人が餓死。文化大革命と紅衛兵革命での犠牲者は2千万人
・インターネットや携帯電話の普及で中国の地下組織は増え続けてる
・日本はアジアの金融センターになりつつある。金融機関が立ち直った
・アメリカのドルを支えている資金は、オイルマネーと日本の貯蓄力。つまり世界を動かしている
・日本企業は世界の模範。着実にリストラを実行し、収益力を高めている。膨大な技術開発費を投じて新しい技術を開発しモノづくりに役立てている
・中国はアメリカに気を遣っており、アメリカを怒らせたくない
・変わりやすい日本人が「核兵器を作らない」という壁を簡単に乗り越えてしまうのではないか?日本の能力なら作るのは容易。
-目次-
第1章 なぜブッシュ大統領は失敗したか
第2章 イラクからの撤兵は難しい
第3章 アメリカはアジアで何もできない
第4章 日本は中国に敗れた
第5章 中国のミサイルと見えない兵器がアメリカを狙う
第6章 「甦る大国・日本」叩きが始まる
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