読書メモ

・「人生いたるところにブッダあり 〜ぼくの仏教入門
(立松 和平:著、ゴマ文庫 \619) : 2008.07.05

内容と感想:
 
著者はタイトルの「いたるところにブッダあり」ということを理解できるまで、「仏法を求めて遍歴を重ねてきた」とあとがきで告白する。 23歳の昭和46年にはインドを一人旅した。新婚で定職もないのに、 「将来への漠然とした不安」に心を囚われ、妻をおいて旅立った。 帰国後も「各地や書物の中を放浪し、自分が生きる場所を懸命に探していた」という。作家の夢は捨てなかった。
 彼が法隆寺や永平寺を初め、僧侶たちの修業体験や参禅をしていたことも「法隆寺の智慧 永平寺の心」で読んで知っていた。 しかし道元の「正法眼蔵」に出会った著者は、仏法がどこにでもあることを知った。 真理というものがどこにでも遍在するものだと分かった。 世界中、「仏法が届かない場所というのはない」、我々が「感じることができないだけ」なのだ。
 「どこにでもある」と言われても感じることが出来ないのが凡人。真理を生きる、仏性を生きる、と言われてもピンと来ない。 著者がそれを理解できるようになれたのも長い遍歴のお蔭なのかも知れない。感じ取れるまでには学習も時間も必要だったとも言える。
 著者がインドで毎日読んだ「ブッダのことば」という本には「犀(サイ)の角のようにただ独り歩め」と書かれている。 自燈明、自分を頼りに、自身を燈火にして歩け、というブッダの教えの根本を表している。 それを「世俗の生活の中にあっても志を高く掲げて歩むこと」と捉えた著者は帰国して就職し、妻子を養うことを決意できたそうだ。
 また、小説家となった後の、盗用事件にも触れている。自分が播いた種と反省し、その苦しみの中でも「地涌の菩薩」に助けられ、立ち直ることが出来たと言う。 本書は著者が仏法を求めて遍歴を重ねる内に学んできたことを自身の解釈で書いているのだが、それを書にすることの迷いについて第五章に書かれている。 「ぼくが一生懸命にブッダを語ることは、(略)逆にブッダを覆い隠してしまっているのではないか。ぼく自身が壁になってしまってはいないか」と。 それは「ある人物を介してしまうと、ブッダの教えそのものが変質してしまう、もしくは見えなくなってしまうという危険性がたくさんある」からだ。 だから本書に書かれていることには著者の誤解が混じっているかも知れない。真のブッダの教えを伝え切れていないかも知れない。
 しかし本書は著者が道を求めて懸命に歩いてきた記録だけに、全てではないかも知れないが普遍的な考え方は伝えられているのではないだろうか。 もとは大昔の人が語ったことだ。いろんな解釈があっても仕方がない。それを自分が正論だと言ったところで結論など出ない。 大事なのはそれを受け取る側の人間の心がけ。善とは何か、幸福とは何か自分の頭で真剣に考え、感じ取り、行動する。そういうことではないか。

○印象的な言葉
・己の心を耕す
・粗食打坐
・遊行
・「ブッダのことば - スッタニパータ」(中村元)。心に染みる言葉。わかっちゃいるけど出来ないことばかり。
・「ブッダ最後の旅 - 大パリニッバーナ経」(中村元)
・自然と一体になり、世間に背を向けることなく、一人で立ち、一人で生きていく
・煩悩の海を泳ぐ文学者
・行(ぎょう)は自分のためにするもの
・お釈迦様が好きだから信じる
・思索の旅
・真理に対する礼拝。仏像や仏画の無効にある法(ダルマ)を見ている
・生きさせてくれる全ての人が、自分にとっての菩薩。人間に対する根本的な信頼。世の中には菩薩が隠れて存在している
・苦しみは自分の心が招き寄せた。全て自分の心が決定していた。心の制御が大切
・心眼
・心の拠り所
・植物だって生きている。野菜にも生命がある。弱いものを食べている
・悟りは物に応じて形を現す。悟っても心は減りも増えもしない。真理は隠されていない。すべて現れている。我々が気付かないだけ。
・禅僧の所作の美しさ、舞のよう。
・高カロリー高蛋白な食品は栄養価が高いため消化器が一生懸命働かなくても生命を維持できる程度には栄養を吸収する。 そんな消化器に粗食を与えると栄養を十分に吸収できない。菜食中心で粗食してきた人ほど消化吸収がよい。
・自然と一体になる、己を虚しゅうする
・その人が思ったようにしか、全ての世界は存在しない。
・人生はいたるところが道場。己と向き合う。苦しみは道場。そこで修業をしている。だから全ての人は救われる。
・無名の、平凡で愚直で、陰日向なく一生懸命働く優秀な働き手、勤勉な働き手
・大きな生命システム、曼荼羅の中でしか生きられない。その恵みのお蔭で生かされている
・わざわざ欲望を刺激して新しい需要を作り出すのが現代資本主義
・行き倒れっていいな
・神様は童か翁の姿で現れる。自然に近い存在だから
・中庸:どことでも緊張した関係を保てる。自分を失わない。自分は「ここに在る」
・ブッダは全肯定の人:何でも美しく、楽しい。強くないとなしえない。根底にあるのは「慈悲の心」
・菩薩の実践:自利利他。自らは悟りを求め、人々に対しては救済し利益を与える

-目次-
第1章 インドで黄金の仏を見た
第2章 ぼくの仏教修行入門
第3章 国破れて、山河は残った
第4章 花に学び、鳥に学んだ、真理を見る
第5章 心がすべてを決める