読書メモ

・「3年で辞めた若者はどこへ行ったのか 〜アウトサイダーの時代
(城繁幸:著、ちくま新書 \720) : 2008.05.03

内容と感想:
 
若者はなぜ3年で辞めるのか?」の著者。 我々多くの日本人が「若者はただ上に従うこと」、「女性は家庭に入ること」など22の「昭和的価値観」に囚われていることを 著者が「3年で辞めた若者」(本書では彼らをアウトサイダーと呼ぶ)を取材し、「平成的な生き方」を探ろうとした本。
 一度就職した彼らがアウトサイダーとなったことで見えてくる昭和的価値観。それは日本に深く根付いている。 古い昭和的価値観をもつ企業や職場に希望を見出せず辞めていく若者たち。就職したはいいが「騙された」と思っている。 これまでの昭和的雇用システムの限界が来ている。終身雇用、年功序列を頑なに維持しようとする企業が多いせいで 非正規雇用が増えた若い世代との世代間格差が広がっている。それが若者の閉塞感や既成企業への絶望を生んでいる。 そうした状況を変えるために著者は、あとがきでこう書いている。

 「労働者が適正な報酬を得られるシステム」を確立し、次世代をにらんだ利益配分システムを作り上げること

 あとがきにもあるようにバブル後の就職氷河期を越えた今、近年の学生は企業に対して「安定性、終身雇用」を求めているそうである。 「昭和的価値観のゆり戻しが起きている」と指摘している。若者自身にもまだ昭和的価値観が刷り込まれていることを示している。 著者は本書を通じて、そうした若者に対して「再び昭和の夢にまどろむことのないよう覚醒を促」そうとしている。
 実際、企業も終身雇用、年功序列を維持できなくなりつつある。だから成果主義だのいろいろ人事制度をいじ繰り回しているのだ。 まだ次の雇用システムへの過渡期、試行錯誤の時期なのかも知れないが、「安定性、終身雇用」を求めても与えてもらえるとは限らないと 認識すべきだろう。
 著者は最後に搾取され希望も持てない若者へのアドバイスとして、会社に対して「ポストを寄こせ、あいつの給料をこっちへ回せ」と主張すればいい。 それが受け入れられなければ転職すればいい、と言っている。ただ文句も言わず真面目にやっていれば出世できる時代は終わった。
 本書に登場する若者たちはごく一部の若者で、現時点でも成功者でも何でもない。 こういう人もいるんだ程度に思っていい。私もかつては「3年で辞めた若者」の口だが、 本書に刺激されて何も考えずに辞めるのは利口ではない。
 厳しい時代になっている。ただ昭和的な選択肢の少ない時代ではなくなったと思う。 多様な価値観が尊重される時代だ。社会や企業のシステムが時代遅れなら、 著者が言うように下の世代がどんどん主張して自ら作り変えていかなければいけないだろう。

○印象的な言葉
・日本中、大して変わり映えしない町並み。人間も同様。もの言わぬサラリーマン。平面的
・自分の市場価値を高める
・他人に人生を任せられるのか?
・自分の意志でキャリアを積み上げるという主体性
・自由を手に入れるためには義務を担う決意が必要
・日本のIT企業はリスクのある開発より仕事を請け負い、SEを派遣することで安定した利益を得ようとする
・命をかけられる仕事、仕事中に死んでも成仏できる。そこが死に場所
・長く抑圧されてきた最大のマイノリティが女性。キャリアパスが見えない強い閉塞感
・退職金の積み立てを止め、ボーナスに上乗せ支給(松下電器)。定年までつなぎとめておくメリットがない。
・大学の推薦制度を利用する学生が減っている
・転職は「何をやってきたか、何ができるか」が大事
・今や中国は世界最大の留学生派遣国
・かつて寺は村のサロン、公共スペース、学校だった
・現代人の心の空白
・回り道や畑違いの経験を積み重ねることで(スコッチのように)後から風味(個性)が出る。
・搾取階層と被搾取階層の階層化社会。格差固定化。封建制度と同じ
・官僚は日本で最も強固な年功序列組織。査定も存在しない。競争相手の不在
・天下りは官僚の新陳代謝システム。組織拡大できないため外部にポストを用意する
・役割と成果に応じて年俸が上下する職務給システム
・日本は老いた。制度疲労を起こしている
・リクルートのCV(Career View)システム:原則3年の有期雇用契約の採用。契約期間終了は「卒業」
・中部・東海地方には南米出身者の街が出来つつある。彼らの受け入れコストは自治体が負担。彼らの子供が不就学児童となっている
・希望は努力が報われると感じるときに生じ、報われないと感じれば絶望が生じる
・アメリカの自殺死亡率は日本の半分
・自助の精神:天は自ら助くる者を助く
・江戸末期に日本人は覚醒した。戦後昭和の眠りから覚められるはず
・今の20代はそれ以前の世代よりはずっと努力しており、優秀
・女性管理職比率はアメリカが42.1%、日本は5%
・マスメディアの唯我独尊的なエゴイズム。世論を導いてやる。誰からも価値を決める権限は与えられていないはず。
・速報性、多様性に限界がある新聞
・一紙の新聞だけ読んで分かった気になっていた世代
・正社員、中高年の既得権に気を遣い、若年層を踏み台にしてきた既存左翼。世代間格差の拡大に労組・左派が一枚噛んでいる

-目次-
第1章 キャリア編
第2章 独立編
第3章 新世代編