読書メモ
・「若者はなぜ3年で辞めるのか? 〜年功序列が奪う日本の未来」
(城 繁幸 :著、光文社新書 \700) : 2007.01.20
内容と感想:
世代間の歪んだ格差がテーマ。その格差が若年層のモチベーションを奪っている。優遇された高齢者と共に沈み行く日本への警告。
大学新卒で入社した社員の3割が3年以内に会社を辞めるらしい(離職率)。ニートやフリーター、派遣社員も増えている。
そして年金未納問題。その原因を探り、社会へ、そして若者へ働くことに対する提言をしている。
私も4年足らずで転職した口だから辞めたくなる人の気持ちは分からないではない。
著者は以前に著書「内側から見た富士通「成果主義」の崩壊」の中で、富士通が導入した成果主義の人事制度導入の
失敗の分析をしていた。1990年代半ばの富士通などが成果主義を始めた頃を第1ステージとすると、その頃は導入の主目的はポストや人件費抑制であった。
そのターゲットは一般社員であった。しかしそれらがうまくいかないことを反省し2000年あたりからは次のステージに入る。
組織そのものや管理職がターゲットになった。そして現在、多くの会社が何らかの形で成果主義的な人事制度を導入しているようだ。
しかし制度をいじったところで若者が辞めていくのは簡単には止められないだろう。
その根本原因は日本的人事制度であり、かつての高度経済成長を支えてきた終身雇用、年功序列に根ざした”昭和的価値観”にあると言う。
平成になって19年になると言うのに、まだ人々の頭には旧来どおりの価値観が染み付いている。それは若者にすらである。
バブル崩壊後、学校を卒業した若者には長い就職氷河期と言われる時代が続いてきた。私の就職活動時期とは大違いだ。
その中で就職戦線を勝ち抜いてきた若者は優秀な人が多いという。しかし、いざ就職してみると彼らが能力を発揮できる場がない、
下流行程ばかりやらされて、やりたい仕事もやらせてもらえない。その上、安い給与でくたくたになるまで働かされる(ミスマッチ)。
しかも成果主義の導入でかつての終身雇用、年功序列のような未来を保証してくれる仕組みも期待薄。
会社に入ってみて初めて自分の未来が見えてしまい愕然とする。そして退職していくのだ。
”昭和的価値観”のままで入社すればそういう現実にぶち当たるのだ。何も若者だけが悪いわけではない。
彼らの親も同じ価値観で生きてきた。子もその影響を受ける。社会の変化に人間はすぐには対応できないようだ。
経営者は目先の利益のために若者にツケを回している。既に年功序列のレールに乗っかって、経営側にいった人たちが
自らの既得権を守るために若者を踏み台にしている(これは国や官僚に対しても同じことが言える)。
そんな会社ではキャリアビジョンも描けず、人生設計もできない。
将来の不安から少子化や年金未納問題などが生じてくるのだ。年長者有利な国になった日本に若者が忠誠心を持てるだろうか?
(そんな企業に株主は価値があると思うだろうか?)
いつまでもこの国をそんな既得権層に牛耳らせておいていいのだろうか?国に対しては選挙を通じて声を上げることも出来る。
企業の中でも声を上げて、みんなで考えて組織を動かしていく必要もある。
今や高成長が望めない成熟した国になった日本で年功序列を維持できないことは誰もが認識している。
著者も言うように今、日本は分岐点にある。個々人が”昭和的価値観”を捨て、考え方を変えないと沈む一方である。
誰もが薄々と、漠然と閉塞感や、日本の将来への不安を感じていると思う。
我々は”心の鎖”を解き放つ必要がある。いつしか自分自身に枠をはめていたこと(固定観念)に気付いて、
「自分で道を決める自由」に気付き、幸せ(生き甲斐、働き甲斐)のために自分の足で立って歩いていかなければならない。
○印象的な言葉
・ただ働きさせられる若者たち
・(経営者側にとって)派遣社員ほど”使える”存在はない
・未来をリストラし、技術継承が途絶え老化していく企業。企業価値の低下。
・体育会系が好まれる理由:組織への自己犠牲の精神
・会社を利用して、自分の価値を高める。自分で方向性を決め、自分で伸びていく
・求められるのは組織のコアとなれる能力、一定の専門性をもつ人材
・職務給:能力が軸の給与制度。業務の担当範囲が明確。←→職能給
・ビジネスマン:自分でビジネスを動かしていく人
・成果主義の本質:働いた分の報酬はタイムリーにキャッシュで支払う。成果だけが重要。
・キャリアの複線化:マネージャの道かプレイヤーの道
・技術者はキャリアを重ねても必ずしも人材価値が上がると言えない。技術革新が早く、蓄積した技術がすぐに陳腐化するから。
・年功賃金をベースに職人を育てるような業種もある
・年金問題は将来の世代に問題を先送りしていることが問題。賦課制度から積立方式へ変えることも検討すべき
・消費額の多い世代に余力がない。
・採用者枠目標に”既卒”を入れることで就職の機会を与えて!
・年功序列制度は組織の成長が必要条件
・正社員と非正規労働者との格差
・日本の教育システムは要領のいい者勝ちの世界。しかし実社会には明快な答えのある問題のほうが少ない
・与えられるものはなんでも出来るが、特にやりたいことがない空っぽな日本人。従順な羊。
・日本人は予想外の事態に直面することをもっとも恐れる
・「サラリーマン道」に縛られて生きている。ただそこに仕事があるがために。
-目次-
はじめに 「閉塞感の正体」を見きわめる
第1章 若者はなぜ3年で辞めるのか?
第2章 やる気を失った30代社員たち
第3章 若者にツケを回す国
第4章 年功序列の光と影
第5章 日本人はなぜ年功序列を好むのか?
第6章 「働く理由」を取り戻す
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