読書メモ

・「内側から見た富士通「成果主義」の崩壊
(城 繁幸:著、光文社 \952) : 2006.06.03

内容と感想:
 
元・富士通の社員が書いた”富士通が導入した”成果主義の失敗の分析。 著者自身が成果主義の新人事制度の運用を先導する人事部に所属し、問題点を目の当たりにしていた。 1993年に「成果主義」を日本でもいち早く導入した富士通では、このシステムが裏目に出て、業績が悪化、 社員の士気の低下を招いたと言う。 システムをうまく運用できなかったのが原因だが、そもそも電気製品のように完成品を買ってきて、そのまま使えばうまく機能する、 というものではなかった。
 目標管理制度では目標があることで士気を上げ、実績に応じて給与に格差をつけることでやる気を出させる、成果が出せれば勤務スタイルは自由、 などよいことばかりが謳われていたが、富士通で失敗した原因は次のようなものだった。

・(段階評価ごとの)評価の配分が初めから決まっていた
・評価基準が曖昧で、評価のインフレが生じた(高評価の者が多くなった)。お手軽な目標になった。
・降格制度がなかった
・管理職の目標と成果が公表されなかった。責任も曖昧。
・評価者が評価のための十分な指導を受けていない
・上位層が設定した数値目標が下へブレークダウンされていくうちに、とりとめもない抽象的なものに変わっていった
・システムを運営する人事部の腐敗。現場を知らなさ過ぎた
・結局、成果主義は人件費抑制の方便だった。定期昇給の実質廃止が目的。
・短期的な目標に固執し、長期的な目標が欠落した

 これらの問題が従業員の失望を生み、目標管理が形骸化した。社員のモチベーションは低下していった。
 成果主義は営業など目標を数値化できる職種には適するが、開発部門など個々の作業が明確に分離されておらず 数値化が難しい職種には適さない。評価するのが難しい。 現在、日本の多くの企業で何らかの形で成果主義を導入しているようだが、ある調査によると 実際うまくいっていると考えている企業は1割に満たないそうだ(どういった立場の人が回答しているか不明)。
 私の勤務している会社でも導入しているが試行錯誤が続いている。自分自身、うまく目標が立てられていないと感じるし、 適正に評価できているのかと疑問に思う。
 著者はこれら内部の者だったからこそ書ける分析の後に、「改良型成果主義」なるものを本書で提案している。

・目標管理制度そのものを廃止し、目標設定せずに成果だけを評価する
・公正評価委員会の設置:評価の公正化。基準のばらつきをなくす。委員会自身も第三者に評価してもらう。評価は全社員に公開する。
・自由抜擢・降格システム

 要は社員が納得できる公平なものでなければ、うまくいかないだろう。成果主義のあまり会社全体として成果が出なくなるのでは 本末転倒である。さて、うちの会社では社員が会社とともに成長し、幸せを感じられるような成果主義に果たしてしていけるだろうか?

○ポイント
・電機メーカーの基盤は技術者の質と意識
・変化の激しいIT業界では目標を立てても、半年後に有効かどうか分からない
・日本人は本当の競走社会を心の底から嫌っている。人を公平に評価することが出来ない。人を評価することで波風が立つのを嫌う。
・アメリカでも「目標達成=結果重視」よりプロセスや顧客満足度を重視するようになった

-目次-
1 急降下した業績
2 社員はこうして「やる気」を失った
3 社内総無責任体制
4 「成果主義」と企業文化
5 人事部の暗部
6 日本型「成果主義」の確立へ