読書メモ
・「御手洗冨士夫「強いニッポン」」
(街風 隆雄 :構成、朝日新書 \740) : 2007.12.23
内容と感想:
キヤノンの元社長で会長の御手洗冨士夫氏のインタビューや講演録、対談をまとめた本。
経団連の会長として、日本の産業の大半を網羅する経団連が、全産業をまとめて立案する政策で、日本の転換期を乗り切ることで「強いニッポン」にしたいとの
意気込みが満ちている。
「イノベート日本」がキャッチフレーズ。これは2004年のアメリカでまとめられた「イノベート・アメリカ」と題する報告書のパクりだが、
「パルサミーノ・リポート」とも呼ばれるその報告書に影響されていることも確かだ。産業競争力の強化には人材の強化、教育が重要というのは日本も同じ。
専門教育の充実、次世代の技術革新をリードする人材の育成が課題だ。
長くアメリカでビジネスをしてきた方だけあって、いいことも悪いことも外から日本を見ることが出来た。
そのグローバルな視点、経営者の視点で「強いニッポン」にするためのあらゆる提言をしている。
御手洗さんの認識では今の日本は「失われた10年」から「飛躍の10年」へ、という段階。次なるステージへの飛躍の準備の時。
また、日本には消極的な将来予測が蔓延し、どんなことも悲観的に受け止め、思考が萎縮していると言う。
元ソニーの出井さんも「日本進化論」でこれらと同じようなことを書いていた。
また日本人の「自立心」の欠如と「依頼心」の強まりに危機感を感じている。国や会社に依存する、甘えが広がっているのではないか?
それが日本人の弱点で、様々な問題を生んでいるのだと。これは日本の成長の阻害要因にもなる。国民も意識を変えていかねばならない。
さて、「イノベート日本」のために御手洗さんは「国家的プロジェクトの立案と推進」が必要だと言う。
ここでいうプロジェクトというのは世界で競争力をもつ産業の強化のためのプロジェクトのことだ。技術革新により世界をリードする、引き離す、という戦略だ。
アメリカのレーガン大統領の印象が強いらしく、日本にも未来のための国家的な総動員、国民の団結が今こそ重要な時期なのだと。
自国の危機を察知し、団結して取り組む。それが愛国心だ。そこには強い政治のリーダーシップも、資金も必要だ。
復調してきた日本経済も外部要因もあって、ここに来て変調を来たしている。日銀の景気判断も減速気味だそうだ。
ようやく自信を取り戻せそうな日本を腰折れさせないよう、イノベートできる日本にするためにも政治もスピード感をもって、優先度を決めて課題に取り組んで欲しい。
強力なリーダーシップは期待薄だが、リーダーが出てこないのも御手洗さんのいう教育における「悪しき平等主義」の結果かも知れない。
○印象的な言葉
・春風を以って人に接し、秋霜を以って自らを粛む(佐藤一斎)
・首相を頂点とした内閣主導で政策を立案、実施する体制の定着
・希望の国
・平等から公平へ
・日本流「第三の道」
・現在の日本経済の再生の源泉は経営の効率化と合理化に過ぎない。新たな地平を切り拓き、十分な成長には辿り着いていない
・民主主義とは結局、大衆政治。国民政治
・トップがぶれない
・大変革を行なうとき、前例は何の役にも立たない。前例は今から俺がつくる
・政治にもスピードを。非効率な縦割り行政
・三自の精神:自発、自治、自覚
・経営資源:ヒト、モノ、カネ、情報、ブランド
・日本のGDPの過半はサービス産業が生むが、外貨を稼げない
・産学のダイナミックな交流。大学を独立行政法人にしただけでは足りない
・悪しき平等主義によるバラまき予算をやめる。年次単位の予算でなく、長期で。
・職務ごとの役割給。年齢には無関係。中途採用しやすい
・人生は2ラウンド制:第一ラウンドは学生。記憶力の勝負。第二ラウンドは社会人。気力、体力、人格、運、仲間、統率力など人間の全存在を賭けた戦い。
・技術系の企業OBを学校で活用
・セルフメイドパーソン:自力で道を切り拓く人
・三方よし:売り手よし、買い手よし、世間よし
・国際人:文化的なマルチ人間。日本では一流の日本人として、日本流の行動。海外ではその国の文化に適合。
世界で通用する見識、国際社会で人的ネットワークを構築できる能力。
・技術の目利き。技術者として諦めない執念
・失敗の歴史が財産。失敗の上に成功が稀に出てくるような世界
・デュポン社:204年の歴史。常に世にないものを生み出してきた。メーカーの生き方のモデル。
・若年層が減るような社会は、危険なほど革新的でなくなる
・力を結集し、道を切り拓くリーダーの育成。無私の人。自信と勇気と謙虚さ。
・途上国の模倣品を振り切るには前進を続けること
-目次-
第1部 希望の国へ
第2部 平等から公平へ
対談 「失われた10年」から「飛躍の10年」への伝言(中村邦夫(松下電器産業社長=当時、現・会長)
第3部 21世紀の日本像
第4部 「強い日本への道」
対談 日本の「モノづくり」と中国(西室泰三(東芝会長=当時、現・東京証券取引所社長)
|