読書メモ
・「日本進化論 ― 二〇二〇年に向けて」
(出井 伸之:著、幻冬舎新書 \700) : 2007.12.22
内容と感想:
プロローグで著者は本書の趣旨についてこう述べている。
「日本再生への筋道を、国際的な企業を長年経営していきた私自身の経験から、大胆な仮説とともに述べてみたい」と。
日本を覆う「漠然とした不安」、悲観論、日本の将来の姿が見えず、未来に希望を持てない。
著者はそれでも日本人は自信と希望を取り戻せると信じ、本書を書いた。日本人に元気を与えてくれる一冊である。
エピローグで著者は、これからの日本がめざすべき道を「共創」資本主義と名付けている。
語呂合わせで「競争」から「共創」へ。
「共創」とは「共に価値を創り出す」という意味だそうだ。競争を否定しているわけではないが、平和国家として世界の国々と協力していく姿勢が大事としている。
また「日本は小さくても、全世界に影響を与えうる技術・産業・文化の伝統を持つグローバルな国」とも言っている。
領土も小さい日本はアメリカのような大国をめざしての量の拡大はもう無理だ。「大国と補完的な関係を築き、知識・技術を力にしていくべき」というのも
日本の進むべき道として頷ける。
第二章では、日本は「21世紀型」産業のトップになることを考えたほうがいい、と言う。時代は変わり、「20世紀型産業」のままではいけないのだ。
経済成長は長く停滞気味の日本だが「いまは先の時代のために、知識や基礎技術をしっかり仕込み、どのように日本を経営するかを長期的な視点で考えておく時期」、
と言うように政府も国家運営を経営者の視点で考えないと倒産する。既に日本の「国の借金」は800兆円を超えている。
日本経済が良くなって税収が増えなければ借金の完済なんてありえない。借金を返すどころか増える一方だ。これも国民が元気をなくす一因でもある。
著者は自分は政治のプロではないがと断った上で、次のような提言をしている。
行政府の長は強い決裁権をもった、大統領的な公選首相にする。
企業のCEO的な決裁権を持たせる、と言う。つい先日、お隣・韓国では建設会社社長からソウル市長に転身した李明博氏が次期大統領に選出されたばかり。
日経新聞では韓国経済の再建を期待してか早速、「CEO型大統領」と呼び始めている。日本にも経営センスのある、そんなリーダーが誕生する日は来るだろうか?
また、現在の二院制を一院制にしてしまえ、とも言う。民主党が参議院の第一党となり、そのため現在の立法府では法律も決められず「ねじれ国会」とも呼ばれている
長らく自民党一党独裁の日本では参院は追認するだけで存在価値がなかったから一院制にしたほうがよいという意見も以前からあったが、
現在の状況は別の意味で一院制にしたほうがよいと言う意見も出てきそうだ。ねじれ状態で国民生活は放ったらかし。
だから自民・民主の大連立なんて話が出てくるのも仕方がない。
せっかく出井さんが元気付けようとしてくれているのに・・。独裁者はいらないが、やはり日本の将来の展望を示せる、志のあるリーダーがこの国には必要だ。
○印象的な言葉
・これからの10年、初心からやり直すくらいの覚悟と我慢強さが必要
・適度に楽観的であれ
・自然と伝統文化は日本の誇る資源
・グローバル経済のもとでは、どこかの国で異変が起きると、その影響が連鎖的に世界経済に及ぶ
・新興国が成功する反面、必ず敗者が出てくる。一部の国で保護主義が台頭する可能性もある。貿易摩擦のリスクも。
・世界史上稀に見る複数大国の時代の始まり。超大国同士のエゴがぶつかり合う時代
・アメリカのすごさは金融資本主義
・シンガポールは国自体が一種の世界的な投資機関。アジア全体に影響力をもつ巨大ファンド
・香港はアジアの資本市場のハブ
・中東は日本の技術と教育方法を欲しがっている
・「官・学・民」の関係が全ての許認可産業ごとにあることが、発展を阻害する
・日本は資本・人・通信システムなどが「鎖国」状態
・日本経済が失速した理由は金融資本主義やIT化、グローバル化など世界の変化に適応していけなかったことにある。それを気にしすぎて落ち込んでいた。
・日本経済が復調しているのは世界同時好況のおかげ
・戦前、世界中で進んだ保護貿易主義とブロック経済の動きに対応した結果、日本は無謀な戦争に突入していった
・戦後、GHQは自国で出来なかった理想主義を日本に持ち込んだ
・日本にもアメリカのSEC(証券取引委員会)のような機関があるべきなのに、SOX法を先に取り入れてしまった
・日本には株式市場が多すぎる。政府は証券取引ルールを整備もせず、会社を作らせることだけに熱心。安心して経営できない。
・日本は究極の社会主義が封建制度と結びついたような社会
・日本政府はアメリカ国債を大量に買うことで、アメリカ経済を支えている
・アメリカの財政・貿易の双子の赤字がアメリカドルを長期的に弱体させ、金融資本主義が破綻する可能性も。
・インターネットはこの先、どのように成長していくか予測できない、ビジネスの実験場
・勇気のあるルールブレイカーが新しい時代のルールメイカーになれる
・世界平和は日本の国家存立のための基本的条件
・東京一極集中は日本のリスク要因
・文化のある国には必ずお酒の文化がある
・ODAは援助ではなく、投資にしていく。投資ファンドになる。
・様々な国際機関が様々な理由で機能不全になりつつある。世界経済秩序を維持できなくなっている。新たな地域保護主義の恐れ。
・20世紀の地域間、国家間の争いは石油をめぐるものだった。21世紀の争いの種は水、食料になる
・熟練の経験や知識、ネットワークと、若いエネルギーや技術を掛け合わせ、新しい価値を生む。
・勉強会:問題意識の共有
-目次-
プロローグ 新しい時代の到来
第1章 世界からみた現在の日本
第2章 金融資本主義がやってきた
第3章 ネットワーク社会が産業社会を変化させた!
第4章 見えてきた二〇二〇年の日本社会
第5章 日本再生への提言
エピローグ 「共創」資本主義へ
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