読書メモ
・「「玉砕総指揮官」の絵手紙」
(栗林 忠道:著、 吉田 津由子 :編、小学館文庫 \600) : 2007.03.04
内容と感想:
タイトルの「玉砕総指揮官」とは太平洋戦争の末期、旧日本軍が玉砕したあの硫黄島で総指揮をとった栗林忠道のことである。
玉砕戦については先に読んだ「散るぞ悲しき」が詳しい。その本の中でも本書で取り上げられている
絵手紙が掲載されていた。島から家族に宛てた手紙が多く残っていることも書かれていたし、本書も参考文献として取り上げられていた。
「散るぞ・・」でも栗林の筆マメさは特筆されていたが、本書では硫黄島で書かれた手紙はわずかしか取り上げられていおらず、がっかりした。
ほとんどがアメリカ留学時代のものである。「太郎君へ」で始まるものばかりだが、まだ幼かった彼の長男・太郎に宛てている。
構成は絵手紙の原文と、本文を現代仮名遣いで書き換えたものがセットになっている。そのため残念ながらページ数の割りに中身は薄い。
絵は決して上手とは言えないが、珍しいアメリカの景色や習慣などを太郎さんへ伝えたかったのであろう。
彼が軍事研究のために留学したのは昭和3年からの2年間だが、4年(1929年)にはNYで株価が暴落し、世界恐慌となった時期。
しかしそんな不景気な話は全く手紙には出てこない。恵まれた環境で留学生活を楽しんでいたようだ。
アメリカとの関係も悪化する前ではあったが、昭和5年のロンドン海軍軍縮会議では日本海軍が軍備拡張に向けてぎりぎりの交渉をしていた。
留学時代のものは子供に宛てた手紙だがら政治的な内容は無い。
女中さんが刺青をしていたり、その彼女が中古で車を買って彼に見せたり、亭主とは財布は別にしていることを話したりと、
笑ってしまう一方で、当時のアメリカは今の日本ほど進んでいたことに感心する。
帰国後、翌昭和6年にはカナダの公使館へ武官として単身、駐在している。
硫黄島からの手紙は打って変わって、緊張感のある手紙になる。留学時代と比べれば天国と地獄のような落差である。
「たこちゃん」とは次女の「たか子」さん(当時9歳)のこと。
生きて還れないことを覚悟した内容で、本土の空襲を恐れる家族を心配する一方で、戦場で飼っているヒヨコの話題もあったり
心を和ませることも忘れない文面もある。
アメリカ留学でアメリカの国力を十分に知り、そのアメリカを敵として迎え撃つ立場に立たされるとは皮肉な運命である。
-目次-
太郎君へ ―昭和3年3月〜昭和5年4月アメリカより
たこちゃんへ ―昭和19年6月〜昭和20年1月硫黄島より
妻子供達へ ―昭和19年6月25日、昭和20年2月3日硫黄島より
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