読書メモ
・「「ニート」って言うな!」
(本田 由紀、内藤 朝雄、後藤 和智:著、光文社新書 \800) : 2007.02.25
内容と感想:
本書はそれぞれ専門も活動領域も異なる三者が今時流行の「ニート」論争を見事に斬っている本で良書である。
今まで私が疑問に感じ、頭の片隅でもやもやして漂っていたものをクリアにしてくれた。こういう本を多くの国民に読んで欲しいと心から思う。
本書が言いたいことは単なるニートだけの問題ではないということ。日本の社会の欠陥を見事に言い当てており、普遍性をもっているのだ。
今後の日本をよい方向に導くためにも多くの人が理解し、目覚めて欲しいと思う。そしてマス・メディアのあり方も問われている。
インターネットが普及し、普通の人が自由に発言、発信できる時代になった。お粗末なメディアは間違いなく淘汰されるであろう。
下らない娯楽番組や間違った方向に国民を煽るような報道機関はスポンサーも付かなくなるであろう。
そうしてより成熟した、真の民主的な国、国民になれると考える。
あとがきにも書かれているようにニートは流行性のイメージ商品にされている。いつかは消えていくだろうとも言っている。
ニートと言われる層にはバブル崩壊後の不況時に就職難に遭遇し、働きたくても働けない状況に置かれた人が少なくない。
仮に卒業後すぐに就職できず、その後就職できたとしても、新卒として就職できなかった事実が入社後に不利に働くという理不尽な事実を
「若者はなぜ3年で辞めるのか?」は指摘していた。
本書を手に取ったのはそもそも若者の雇用問題や(自分も含めた)働き方に興味を持ち始めたからだ。就職氷河期の被害者はわりを食って可哀想だ。
我々のようなバブル時代に就職した世代よりも遥かに彼らは優秀だと思っている。氷河期を乗り越えるためにたくさん勉強しているからだ。
それだけに勿体無い。能力はあるのに希望をなくしてしまったりしていないか、と心配までする。
少子高齢化が進んで、若い世代への福祉負担が今後ますます大きくなるのに、彼らに働く場所も提供しないで、
どうやって国は社会保障システムを維持していくつもりなのか?こちらの方が危機的なのだ。
本書は3部構成でそれぞれの章をそれぞれの著者が書いている。
「はじめに」によれば3人が出会ったのはブログ上でのことだそうだ。そこで本書を出すことになったそうだ。
ここでもインターネットが貢献している。
第1部では日本でのニート問題の論じられ方に疑問を投げかけ、その問題点を指摘する。
ニートは本来は若年雇用問題であるのに、それが本人や家族の問題にすりかえられていることの方を問題視している。
そして国は間違った認識のまま間違った対策を施し、間違ったところに税金をつぎ込んでいるのだ。
ニート対策、若年雇用問題対策について提言もされている。こちらも興味深い。
第2部ではニートが大衆の憎悪と不安の標的されていくメカニズムを明かにしている。そしてそれを全体主義に逆戻りしかねない
法案を通そうと政治が利用する危険性を指摘する。
第3部では学生でもある著者がニート世代と同じ目線で様々なメディアにおけるニート論議の検証を試みている。
そして視座を本来あるべき就業の問題として捉え直すことを求めている。
○印象的な言葉
・ニートのイメージは間違っている
・青少年ネガティブ・キャンペーン
・ニートよりも若年失業者やフリーターの方が増加しており、そちらに焦点が当てられるべき
・若年就労問題の最大の要因は労働需要側にある
・新卒採用を抑制したために希望を失った若者が元気をなくし、それを見た企業は採用意欲をなくす、という悪循環
・ニート利権
・新卒者の特権を弱めよ
・非正規雇用でも社会保険に加入できるようにせよ
・高校専門学科の再評価と復権が必要
・ドイツのデュアルシステム
・現代の若者は凶悪化していない。それどころか大人しくなっている
・出鱈目な発言をする専門家ほど発言力が大きくなる
・精神医学や臨床心理学が針小棒大に捻じ曲げられ、濫用されている
・ニート問題を労働分配問題として捉え直せば、日本社会の働き方を根本から問い直すチャンスになる
・凶悪なのはマス・メディア
・相手を教育することは攻撃でもある
・社会の不透明さに耐えられない弱っちょろい年配者
・ニート対策の美名を借りた管理統制主義
・競争一辺倒でやってきた社会こそ問題
・雇用や労働条件を悪化させ、働く意欲を低下させた企業の社会的責任
-目次-
第1部 「現実」―「ニート」論という奇妙な幻影
第2部 「構造」―社会の憎悪のメカニズム
第3部 「言説」―「ニート」論を検証する
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