読書メモ

・「非連続の時代
(出井 伸之 :著、新潮社 \1,500) : 2007.06.09

内容と感想:
 
著者がソニーの社長に就任した1995年から2002年に至るまでにソニー内外で行なった8本のスピーチをまとめ直した本。 経営者としての立場でのスピーチであるから各章の見出しには「マネジメント」という言葉が埋め込まれている。 グローバル企業のトップとしてビジョンの伝達の一環としてたくさんの場でスピーチをしてきた著者。 聴衆の心にメッセージを残すためには明確なビジョンを示すキーワードが重要だとプロローグに書かれている。
 既に社長を退任した現在、自ら立ち上げた会社「クオンタム・リープ」を率いておられるが、 本書の表紙には既にその社名のもとにもなった「QUANTUM LEAPS」の文字がさりげなく入っている。 先に読んだ著書「迷いと決断」の中ではクオンタム・リープを「連続線上にないジャンプ、飛躍的な成長」と 表現していた。混迷の時代(実は同名の著書もある)であるとともに、クオンタム・リープへの期待も込めた時代認識がタイトルに なっているのであろう。
 非連続といえば、第7章では連続の改革と同時に、「非連続の改革」という過去の経験あるいは現状にとらわれない、全く新しい発想に基づく改革の必要性を 社内に訴えている、と書いている。
 第6章で「レクサスを追求しつつ、オリーブの木を大切にすることが企業の一番の強さになる」と言っている。 レクサスは最高の技術水準を具現化した象徴、進歩の象徴であり、トヨタの高級車から取ったもの。 オリーブの木は人間として一番大切にしなければならないアイデンティティであり文化の象徴である。 トーマス・フリードマンが「レクサスとオリーブの木」という本で、それらのバランスを取ることの重要性を指摘している。 そこから引用したものだがグローバリゼーションが進み、世界は小さくなっている。 急速なグローバリゼーションにより格差が広がり、反グローバリゼーション活動も毎年のように見られる。 ソニーのようなグローバルな企業でなくとも、何らかの世界との関わりは不可避の時代。
 変化に対応していくことも求められる時代だが、変化の過程で全く違った会社になっているかも知れない。企業の寿命も短くなっていくだろうという話も聞いたことがある。 ソニーのようなブランド企業でもそのブランドを守りながら変化に対応していくことは、かえって難しいのかも知れない。

○印象的な言葉
・ソニー・スピリットの原点:自由闊達にして愉快なる理想工場の建設
・楽しい商品、夢のある商品、わくわくするような商品
・ルールブレイカー:創造的破壊の担い手。常識を打ち破り、新たなルールを創造する
・ネットワーク上でサービスを展開する側にお金が入っていく時代。ハードウエアを販売する価値はだんだんなくなってくる
・ルネサンス(15時代世紀)のヨーロッパ、都市国家が栄え、人口が少ないフィレンツェやベネチアが大国と堂々と渡り合っていた。 知的生産力が高い知識集約型の都市であり、頭脳集団として組織され、頭脳の掛け算で成果を出していた。
・ポートフォリオ・カンパニー:本社を投資会社と見立て、グループの様々な事業をポートフォリオと見なす
・メトカーフの法則:ネットワークの価値は利用者の二乗に比例して増える。ネットワーク効果
・個人のクリエイティビティが重要な時代、個人へのパワーシフト、個人のレベルでチャンスが増える
・人間が存在することそれ自体によって地球の汚染は免れない
・現在の環境問題に関する活動があまりにお手軽に考えれている(再生紙で作った名刺、など)
・国外の安いコストで作った製品の寿命がきた場合、リサイクルのコストが製造コストより高くつく
・ソニーの製品の場合、製造段階よりも使用段階でのエネルギー消費が大きい
・様々な機器がネットワークにつながり、常に作動している時代になったとき、エネルギー消費量はどうなるか
・国、企業、個人、これまでの境界が溶解していく混迷の時代
・ゆとりが出てくると思いもよらないアイデアや活気が出てくるもの
・日本の景気低迷は単なる不況ではなく、工業化社会から知識社会への転換に乗り遅れたことによる構造問題
・30度の法則:テレビを見る姿勢は30度後ろに寄りかかり、反対にPCでは30度の前傾姿勢
・日本は安全面でまだまだ優れている
・冷戦の終結は(対立軸がなくなったことでかえって)世界に不安定をもたらしたのではないか。
・クオリア:数字や数式では表せない「質感」
・ローマ帝国滅亡の理由は結局、ローマ人の気力の衰えに帰すのではないか。最後は心の問題

-目次-
第1章 リ・ジェネレーションのマネジメント
第2章 複雑系のマネジメント
第3章 統合と分極のマネジメント
第4章 ネットワーク時代のマネジメント
第5章 IT戦略のマネジメント
第6章 「レクサスとオリーブの木」のマネジメント
第7章 「新しい混迷の時代」のマネジメント
第8章 「クオリア」のマネジメント