読書メモ
・「迷いと決断 ―ソニーと格闘した10年の記録」
(出井 伸之 :著、新潮新書 \700) : 2007.05.19
内容と感想:
ソニーの前CEOの出井氏の著書。彼は1995年から2005年までの10年間に渡り、”怪物”ソニーの舵取りを勤めた。
CEO退任後はクオンタムリープ社を立ち上げている。本書は退任後に書かれたものであるが、
本書の目的として「はじめに」では、自分の経験したことを書き残すことが責務であり、企業経営を志す人々の参考になる、
と言っている。
最近、企業経営者の書いた本に興味を持つようになって、よく読むようになったのだが、
フィクションでなく、当の本人でなければ経験できないこと、考えたことなどが我々にも追体験できるのが面白い。
経営者としての考え方なども勉強になる。しかもソニーという一流ブランド企業ともなれば世間の注目度も高く、
経営者の責任も重い。
著者は「創業者グループの求心力とカリスマ性」の後を継いだため、最初はずいぶん苦労されたようだ。
著者の功績についてはよく知らないが、ネットを「ビジネス界に堕ちた隕石」と表現しているように、
早くからネット社会を見据えた戦略も打ち出していたようだ。今やソニーは単なるAVメーカー(かつてのウォークマンに代表されるような)
ではなく、レコード会社や映画会社も傘下に置くコンテンツ・ディストリビュータでもある。
ネットがハードウエアとコンテンツを結ぶパイプだと表現しているのは興味深い。
パイプ(メディア)がどんなに変化しても、その両側をしっかり押さえておけば、それらの変化に対応できると言っている。なるほど、である。
私には著者のCEO在任中に、ソニーらしい、これといったヒット商品があった記憶が残念ながらないのだが、
IT戦略会議の議長として日本のインターネット環境のブロードバンド化を推進していただいたことは非常に感謝する。大きな恩恵を享受できている。
最近、有機ELを使用した次世代薄型TVの2007年内の発売を発表したソニー。注目である。
○印象的な言葉
・技術としての経営
・表の仕事(日々のオペレーション)と裏の仕事(大局的な流れを見る作業)の二つが必要
・潜在的なニーズを先取りして、コンスーマーの心をキャッチするような商品に結びつけるセンス
・アメリカはピストルを速く抜ける男を信用する国
・日本の有力企業の多くは従来の垂直産業の思考に留まっている。日本の携帯電話しかり。水平産業への転換が必至。
・アメリカでは企業の失敗に対して、社長個人が批判されるのではなく、管理・監督できなかったシステムが批判の対象となる
・感動価値の創造
・企業のトップには成長と短期的結果という相反する課題を背負わされる
・バランスシート重視、キャッシュフロー重視
・短期的な損益を犠牲にしても健全なバランスシートを保つこと
・世界にまたがる大企業を経営することは猛スピードで疾走する車の運転席にいるようなもの。一瞬の判断ミスが大きな事故に。
・(失敗とならないために)自分の判断を信じ、成功するまでやめない。長期的な展望をもち、自分のはんだんを信じ続ける
・グローバル企業のCEOは心臓か脳のどちらかが悪くなる
・クオンタムリープ:連続線上にないジャンプ、飛躍的な成長
・掛け算の発想:掛け合わせることで、それらの総和以上のものを生み出す
・一つのことに集中したあるときに、閃きが訪れる
・資金調達の手段である株式上場後に目的を見失う経営者、使いきれないほどの資金をどうしてよいか分からない経営者
・貞観政要:帝王学の古典
-目次-
第1章 「CEO出井伸之」のできるまで
第2章 「生存率50%以下」の会社
第3章 手探りのコーポレート・ガバナンス
第4章 AV/IT路線とコンバージェンス戦略
第5章 CEOの孤独
第6章 やり残したこと
第7章 新しい夢と出発
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