読書メモ

・「世界の[宗教と戦争]講座
(井沢元彦:著、徳間書店 \1,600) : 2006.03.21

内容と感想:
 
先に読んだ「ユダヤ・キリスト・イスラム集中講座」の前身ともなった本。 世界の宗教戦争がテーマ。”9.11”がきっかけとなったテロとの戦いも一種の宗教戦争だ。 盲目的なイスラム原理主義のテロリスト(アルカイダ)を標的に、また独裁者フセインの圧制からイラク人を解放するためアメリカは、 アフガン侵攻およびイラク戦争を始めた。未だにアメリカを主力とする多国籍軍がイラクに駐留している。 つい最近ではブッシュ大統領は任期中に米軍の撤退はないだろうと言っていた。 そのブッシュを支持しているのは保守的なキリスト教徒のアメリカ国民だ。テロをきっかけにイスラム教に対する、 見方が変わったアメリカ人も多いことだろう。しかし攻撃的なイスラム教徒はごく一部である。 イスラムが全て同じように危険だと勘違いされると状況は悪化するばかりである。
 イスラエルでも相変わらず、ユダヤとイスラムとの対立は続いている。 これらの三大宗教が互いに理解し合えれば、宗教対立や戦争はなくなるであろう。 しかし果たして宗教が対立の原因なのだろうか?ある人は”文明の衝突”とも表現した。 イラク戦争などは石油の利権をアメリカが得ようとしているだけ、という声もある。 結局、人間の欲が背後にちらつくのだ。それをイラクにも民主主義を広めようと言ったところで、イラク人にとっては押し付けがましく写るだけ。
 著者は「あとがきにかえて」で21世紀前半は現在は大きくまとまっている個々の民族が細かく独立を求めるようになるのではないかと指摘している。 その後は情勢が変化すると再びまとまろうとするのではないかとも言っている。興味深い見方である。
 本書では前出の三大宗教の他に仏教、神道、儒教についても取り上げている。 巻頭の章ではまず日本人の思想が「和」というものに規定されていると述べている。宗教ではないのだ。 聖徳太子が作った十七条憲法では「和」を第一条にもって来ている。仏教はその後だ。個人的には仏教徒であった聖徳太子だがやはり「和」が第一なのだ。 著者はこれを話し合い至上主義と言っている。なんでも話し合いで決める。キリスト教やイスラム教では話し合いでも変えてはいけない原則がある。 しかし「和」の社会、日本では話し合いでなんでも変えられるのだ。「原則のないのが原則」とも著者は言っている。これが日本の強い柔軟性につながると見ている。 なにか誉められているというよりは馬鹿にされている気がするが、そうじゃないと主張しても実際にはそうなのかも知れない。 和のせいかどうかは不明だが、日本人には原則・基準がない、というのは案外当たっているかも知れない。飽きっぽいし、周囲に流されやすい。 外国人から見れば何を考えているか分からないかも知れない。

○ポイント
・ユダヤ民族とは必ずしも血統(人種)を意味するものではない。ユダヤ教を信じる人。
・イエスはメシア(救世主、キリスト)と言われるが、ユダヤ人が考えていたメシアとは宗教的な指導者というよりアレクサンダー大王のような軍事的な聖王であった。
・ハリウッド映画には反ユダヤ的なものはない
・キリスト教は本来は一神教だがちょっと目には多神教に見える部分もある。マリアや聖人までが崇拝の対象になっている。
・皇帝を認定する権利はローマ教皇がもつ。ナポレオンは政治工作をして皇帝の冠をもらった。
・ラテン語:古代イタリア語、ローマ帝国の共通言語
・カトリックでは神父、プロテスタントでは牧師。牧師は結婚できる。
・中世に宣教師として世界に飛び出していった人たちはプロテスタントに信者を奪われたカトリック。それも人種差別的な問題で活躍の場が望めない人たち。
・野党のないところに民主主義はなし
・マルキシズム:無神論者はキリスト教徒から見れば、信仰心も持たない恐ろしい人間、人でなし、悪魔に写る。
・イスラム教は宣教に不熱心
・スンニ派が正統派で大多数。主体はアラブ人(セム・ハム系)。シーア派は分派でイラン人が主体(白人、ペルシャ人)。
・仏教の経典には仏になるやり方がはっきりとは書かれていない。悟りとはどういうものかは書いてあるがどうすればよいかが書かれていない。
・禅宗が一番釈迦の仏教に近い。自力=出家主義
・チベットは仏教を信じたために国力が落ちたとも言われる。優秀な人材がみな僧侶になってしまった。
・韓国語の「恨(ハン)」は「恨み」だけの意味ではなく、ファイト・熱意といったエネルギッシュな思いが含まれている
・日本人は罰則を決めるのが苦手。契約などでもペナルティを付け忘れがち。
・日本人の「水に流す」という思想は神道に基づく。失敗を水に流してみな忘れてしまうから、同じような間違いを繰り返す恐れがある。
・儒教でいう”天”は神のような人格をもったような存在とは異なる。人間を超越した意志をもつ何か。
・儒教では”孝”が第一義であるが、これが最大の欠点ともいえる。保守的、反進歩的になる。自らを変えられない。

-目次-
Lesson1 和の世界
Lesson2 ユダヤ教の世界
Lesson3 キリスト教の世界
Lesson4 イスラム教の世界
Lesson5 仏教の世界
Lesson6 神道の世界
Lesson7 儒教の世界