読書メモ

・「ユダヤ・キリスト・イスラム集中講座
(井沢元彦:著、徳間書店 \1,500) : 2006.01.14

内容と感想:
 
2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロ("9.11")ではイスラム原理主義者の盲信ぶりの過激さ・恐ろしさを知った。 それまでの私のイスラム教に対するイメージは、白装束で大挙してメッカ巡礼に向かう、あるいはモスクで床に付して礼拝する、 そういった静かなイメージであった。それが今やイスラエルやイラクでは聖戦(ジハード)と叫び、自爆テロが続発。 一部の宗派やグループなどの行動とは言え、攻撃的・好戦的なイメージを持たれても仕方がない情勢だ。 聖戦、それは異教徒を攻撃する戦いだ。なぜ宗教対立が起きるのか?それはユダヤ・キリスト・イスラム教などは一つの神を信仰する一神教だからだ。 それぞれ信じるものが異なるのだ。それぞれの正義も違う。だから生命尊重を無視して人殺しも平気で出来るのだ。
 本書は著者が日本の教育体系に宗教に関する基本的知識を得る部分に欠けることを認識し、本書の前身にも当たる「世界の[宗教と戦争]講座」を書いた。 アメリカ大統領選挙でもキリスト教の影響が大きいと指摘する。世界を知るには宗教を知らなければと著者は言う。
 第1部ではユダヤ・キリスト・イスラム教という一神教がどうして誕生したかを示す。
 第2部では各宗教を代表して、その信者の代弁者が著者のインタビューに答えている。
 キリスト教の面白いところは、ユダヤ教を信仰するユダヤ人の中から出たイエスが興したこと。その弟子たちがイエスの言葉をまとめたのが新約聖書。 旧約聖書はユダヤ教の聖典(トーラーという)でもある。つまりキリスト教はユダヤ教から生まれたとも言える。ユダヤ教徒から見れば”旧約”と呼ばれるのは、 古いバージョンと言われているのと同じで蔑視と映る。分かりにくいのが”三位一体”という考え方。創造神としてエホバがいる。 ”キリスト”とは救世主の意味だが(メシアとも言う)、イエスをキリストと見なすキリスト教では、イエスも神なのだ。一神教のはずなのに2つの神がいる矛盾を解決するのが、 三位一体という論理だそうだ(全然、理解できていないが)。
 著者は根本的な疑問を投げかけている。ユダヤ・キリスト・イスラムは天地創造の唯一の神を信じている点では共通している。 つまり同じ神への信仰を別の宗教としているだけで、皆仲良くできるのではないか、と。我々(多神教の立場)から見れば、もっともである。 しかしそれでも対立が起きるのは預言者が神から聞いてきた言葉(解釈)がそれぞれ異なるからだそうだ。
 また、著者は日本神道のような多神教的世界が世界の平和、宗教的平和に貢献できるのではないか、とも言っている。 これと似た意見は日本の仏教者や哲学者、心理学者などから聞いた覚えがある。 しかし宗教者が集まって会議したくらいでは世界平和は来ない。宗教家だけが世界を動かしているわけではないから。 欲望が対立を生む。権力者の欲望を抑えるのが宗教家の役目ではないだろうか?

○ポイント
・日本の神道は多神教と言われるが、ギリシャ神話・ローマ神話のヨーロッパ世界でもかつては多神教だった
・戦国時代にキリシタン大名がキリスト教を優遇したのは鉄砲火薬を輸入に頼る必要があったから
・ユダヤ人は原子の考えを一神教に導入したのではないか
・ユダヤ教はユダヤ人の民族宗教に留まっている(世界宗教とは言えない)。宣教師もいない。イエスをキリストとは認めていない。
・ユダヤ教の立場ではエホバはユダヤ人とだけ契約を結んだ。それを全人類に拡大したのがキリスト教。
・新約聖書の記述がユダヤを差別の根源になった
・グーテンベルクの活版印刷の発明で聖書、キリスト教の普及が始まった。聖書の普及もユダヤ差別を広げた。
・ユダヤ商人など悪いイメージで捉われがちだが、彼らが差別・迫害を受けるようになったとき、当時卑しい職業とされた金融業などしかやらせてもらえなかった
・ナチスのホロコーストをドイツ民衆は支持した。一政党の行為、戦争犯罪とだけで断じられない重大な罪である。ローマ教会は当時、ホロコーストを傍観していた。
・イスラムでもイエスをキリストとは認めていない。
・ダンテ「神曲」ではムハンマドを罪人としている
・「エホバとアッラーは別物」「イエス再臨に備えユダヤを支援しなければならない」(談:ロバートソン)
・「ユダヤは宗教・文化の多元主義を認める」「メシアがまだ来ていないことは外を見れば分かる」「ユダヤ道と神道の類似性」(談:トケイヤー)
・国連政策はしばしばオイルマネーで動かされている
・「信仰はもらうものではない。自分で持っている。いずれ自分で見つけ出す」「世界の対立に宗教は無関係。帝国主義、権力者の欲望:利権が原因」「神が宗教を一つにしなかったのだから、違っていい」 「”テロとの戦い”を始めたのは武器産業の景気が悪いから」(談:オマール)
・ナポレオンはユダヤ国家建設を提言した

-目次-
第1部 ユダヤ・キリスト・イスラム ◎一神教の世界はこうなっている
・ユダヤ教はこうして生まれた
・キリスト教はこうして生まれた
・イスラム教はこうして生まれた
第2部 ユダヤ・キリスト・イスラム ◎一神教それぞれの言い分
・キリスト教の言い分 代弁者 パット・ロバートソン
・ユダヤ教の言い分 代弁者 ラビ・マービン・トケイヤー
・イスラム教の言い分 代弁者 ムサ・モハメッド・オマール・サイート