読書メモ
・「注文の多い料理店」
(宮沢賢治:著、角川文庫 \430) : 2004.10.09
内容と感想:
本書は童話集として賢治の処女作であり、かつ唯一の生前に出版された童話集である。しかも自費出版であった。千部売り出したこの本の売上は芳しくなく、うち300部を自分で買い取ったという。収められた9つの童話に込めた意気込みは当時の人々には広くは伝わらなかったようだ。本書は体裁こそ文庫版であるが、出来るだけ出版当初の形を大事に残し、復刻版といってもよい。賢治の序文も、挿絵もしっかり載せられている。
本書の題にもなっている「注文の多い料理店」はよく知られたお話だが、いずれも賢治の生まれ育った岩手の自然が舞台である。登場するのは人間だけではない。どんぐりに山猫、烏、鹿、柏の木や電信柱まで出てくる。いずれも人間同様、命を持ち、会話をする。童話だからと言えばそれまでだが、人間以外のものが語る言葉が人間くさく、これを読み聞かせてもらう子供たちの興味を引き、想像力を引き出すだろう。中には賢治が何が言いたかったか分からない話もある。賢治は「序」に書いている。「なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです」と。彼が感じたままを仏に背中を押されるように、とにかく書いた、といったところか。
「解説」で7つ下の弟・清六さんが書いていることも興味深い。家庭環境もあって早くから宗教に目覚め、同時に芸術にも情熱を注いだ。兄が書いた童話を自ら読んで聞かせてもらったそうだ。37才という若さで世を去った賢治であったが、その死の直前の様子についても書かれており、思わず涙が出る。有名な「雨ニモマケズ・・」が書かれたのは、まさに死の間際であった。
本編の童話の中で面白いと感じたのは、柏の木や電信柱、鹿たちが歌う歌である。本に書かれた歌だからどんな節、メロディーで歌うのかは分からないが、七五調でそのまま読み上げてもテンポがよい。歌の部分だけを読み上げるのも楽しいかも知れない。
-目次-
・どんぐりと山猫
・狼森と笊森、盗森
・注文の多い料理店
・烏の北斗七星
・水仙月の四日
・山男の四月
・かしわばやしの夜
・月夜のでんしんばしら
・鹿踊りのはじまり
更新日: 04/10/17
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