読書メモ
・「昔話の深層 〜ユング心理学とグリム童話」
(河合隼雄:著、\880、講談社+α文庫) : 2004.02.26
内容と感想:
子供の頃、絵本で読んだり、TVのアニメなどで日本昔話を見たりしたことは誰にもあることだろう。たくさんの短いお話の中には、大人から見れば非現実的なものも多いが、何らかの戒めだたり、示唆を与えるようなものもあったと感じる。それらの物語は、筋も結末も様々である。しかしそれらが遠い昔から語り継がれ愛されてきた理由を深く考えたことはなかった。本書は著者がスイスのユング研究所へ留学中に研究した昔話における心理学的な側面を解説したものである。まえがきに書かれているように、この研究はユングの愛弟子フォン・フランツ女史の説による部分が多いと、著者自身が受け売りを記すことに「気がひける思いもあった」と言うが、日本の昔話との対比という試みもあり、著者なりのアレンジが加わっている。本書で取り上げられている昔話は西洋のもの、グリム童話からの引用であり、巻末には翻訳したものが全文引用されている。「ヘンゼルとグレーテル」のような馴染みのある童話集である。本書は昔話の深層を理解し、大人であっても「昔話を通じて人間の生き方を考えるように」という意図をもって書かれている。
-目次-
第一章 魂のおはなし
第二章 グレートマザーとは何か
第三章 母親からの心理的自立
第四章 「怠け」が「創造」をはぐくむ
第五章 影の自覚
第六章 思春期に何が起きるか
第七章 トリックスターのはたらき
第八章 父性原理をめぐって
第九章 男性の心のなかの女性
第十章 女性の心のなかの男性
第十一章 自己実現する人生
昔話や童話は単純な話が多いだけに一体何を伝えたかったのか、表面だけでは実はよく分からないことも多い。ユング派は昔話を「人間の内的な成熟過程のある段階を描きだしたものとして見てゆこうとする」といったユニークな研究をしてきたようで、著者もその影響を受けている。いずれの章も興味深い解説で面白かったが、最後の章ではユングの言う「自己実現」のためには結局、個々人が自ら「葛藤のなかに身をおいて正面からとり組んでゆく」ことで、その人なりの人生が拓けて来るものとまとめている。
自己と自我の関係、人間と自然との関係、意識と無意識、西洋と日本との関係などと同様、人生には二者択一式にどちらかに白黒はっきりとは決められない問題がたくさんある。それらの相互作用の中で葛藤し、もまれることでその人なりの個性が出来上がっていく。それを「第三の道」と呼び、これを発見するよう努力するのが自己実現の過程である。
更新日: 04/03/02
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