読書メモ

・「空海の思想について
(梅原猛:著、\380、講談社学術文庫) : 2004.03.22

内容と感想:
 
空海という名よりも弘法大師のほうが知られているかも知れない。”弘法も筆の誤り”で知られるように書道(毛筆)の方でも有名であるが、日本の仏教界・思想界に一体どういう功績があったのかほとんど理解していなかった。歴史の授業で空海と最澄が同時代を生き、2人とも唐で学んだことまでは覚えているが、空海の始めた真言宗は現在はメジャーな宗派とは言えないし、密教のあの加持祈祷に見られる呪術性が素人目にも胡散臭く感じられ、損をしているというイメージ。それでも全国各地に弘法さまの奇跡の伝説が数多く、残されていたりして昔から人気はあったようだ。その超人さ故に神様のごとく祀り上げられてしまった感がある。川崎大師の大師とは弘法様のことらしい。ある宗派の開祖が神仏になってしまった例はないのではないか?
 最近この手の本を読むようになったのも自身、相当迷いを感じているのだと自分でも理解している。果たして本書は私を救ってくれるのだろうか?
 著者は初め西洋哲学を学んでいたが、次第に日本の宗教にも興味を持ち始め、特に空海の真言密教の思想に強く魅かれるようになったそうである。さてその理由は?

-目次-
一 空海の二つの面
二 日本のインテリにきらわれた空海
三 空海の再発見
四 空海における密教思想の発展
五 空海の思想形成
六 密教の思想的特徴と全仏教の位置づけ
七 『即身成仏義』
八 『声字実相義』
九 『吽字義』

 空海はその生涯に膨大な著作を残した。著者はその量だけではなく、それが幅広い分野に渡ることに驚きを感じている。並みの人間でなかったことは確かだ。空海の生きた時代は密教ブームだったらしく、彼が唐から持ち帰った密教の教えはライバルの最澄も欲しがるほどのものであった。20年の遣唐使としての留学期間を僅か2年足らずで切り上げて勝手に自国したことは本書で知った。
 真言宗は真言というくらいだから、言葉を大切にする宗派である。呪文に使われる言葉は梵字(サンスクリット語)という文字で表される。漢字に似てるが誰しもどこかで見たことがあると思う。神秘的な特徴をもった字体をしている。51種類の文字があり、阿(あ)から始まり、吽(うん)で終わるのだが、日本語の50音順と何か共通点を感じるのは私だけはないだろう。
 七〜九章は空海の三部書と言われる書物の解説だが、非常に難しい。
 新鮮だったのは密教は現世を否定しないことを知った点であった。多くの仏教の根底には世俗を否定する理論がある。極楽浄土へ行くには現世で善行しなきゃいけないとか、現世で苦しんでも来世は救われるとか、仏教をそのように私は感じて来た。著者が密教に興味を持ったのもまさにこの点であったようだ。「世界は素晴らしい。(略)汝自身のなかにある、世界の無限の宝を開拓せよ」と密教は説いているらしい(読解力がないので残念ながらどこに書かれているか読み取れなかった)。この世は素晴らしい、人生は素晴らしい。能天気なだけではないと思うが、きっと悟りの境地とはそういうものなのだろう。その境地に達すれば全てを肯定できるのだろうが、煩悩の塊のような凡夫の私にはまだまだ悟りは開けそうもない。

更新日: 04/03/27