読書メモ
・「信長殺すべし 異説本能寺」
(岩崎正吾:著、講談社文庫 \780) : 2004.12.18
内容と感想:
「本能寺の変」の謎に迫る歴史推理小説。登場人物は現代に生き、その謎を解こうとする人々と、変の当事者である歴史上の人物たち。二つの時代を織り交ぜながら、推理を組み立てていく。現代のシーンでは信長の映画を撮影中に怪我で降板する羽目になってしまった役者・一太郎が入院中のベッドの上で推理を進めて行く。彼の仕事の関係者や担当女医らも推理の議論に加わり、変の首謀者が誰だったかを推理していく。戦国時代のシーンでは史実に沿った部分と彼らの推理が加わった歴史小説になっている。この組み合わせが本書を面白い構成に仕上げている。
光秀が本能寺に信長を襲ったことは史実ではあるが、変の後の光秀の行動が如何にも稚拙であり、天下取りのための計画的な謀反であったとは思えないというのが、登場人物らの共通の認識である。その上で、では変は単なる突発的な、激情的な犯行だったのか、そう仕向ける黒幕の存在があったのか、無かったのか?という点に焦点が絞られていく。
本書以外でも秀吉、家康、足利義昭、朝廷、など黒幕説は様々。そういった説を一太郎は次々に理路整然と否定していく。そして最終的な一太郎の結論とは?
彼は意外な人物(ら)を黒幕に挙げる。しかしその人物(たち)の意志は、すぐには成就しなかった。秀吉の中国大返しが予想できなかったのだ。その結果、彼らの思いがかなったのは秀吉の死後、ようやく家康の時代になってからであった。
キーワードは「山の民」である。山の民らは家康の世になることを願ったのだ。家康が彼らを直接操ったわけではないため、家康黒幕説というのは当たらない。家康を担ぎたいと願う人々の存在があったということだ。
山梨出身で山梨で文筆活動を続ける著者ならではの、甲斐の国の人ならではの推理である。
更新日: 04/12/19
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