読書メモ

・「信長と十字架 〜「天下布武」の真実を追う
(立花京子:著、集英社新書 \740) : 2004.08.15

内容と感想:
 
著者の仮説は「信長の全国制覇は南欧勢力と密接に関連していた」というもの。ここでいう南欧とはスペイン、ポルトガル王国を指すが、戦国時代にこれらの国から来た宣教師や商人たちが信長ら戦国大名をはじめとした支配者層に接近していったことはよく知られている。異教徒の地・日本で布教のためには何らかの保護を必要とする。その教義だけで領主たちを保護者に仕立てるのは難しいだろうから、大名からすれば彼らを保護したのは、南欧などとの貿易を通じての利益が魅力であったからであろう。
 さて、本書で著者が論じる説は私がこれまでに目にしたものとは大きく異なり、ある意味で奇異に感じられるものである。簡潔に言えば、エピローグに書かれているように「イエズス会のために立ち上がった信長は、イエズス会によって抹殺された」ということだ。南欧と日本の接触により鉄砲が伝えられ、これは戦争の戦術にも大きな影響を与えた。武器だけでなく様々なものが貿易により伝わった。あわよくば日本を植民地化しようとしていたかも知れず、布教のためなら手段を選ばない南欧の王国に、信長や大名らがやすやすと手を貸したとは思えない。
 氏の説では信長はイエズス会に操られていたということになる。度々、宣教師に会っていた信長とイエズス会の間に関係がないとは言えないが、それほど大きな影響力があったのかという疑念を誰しも感じざるを得ないだろう。当然そういう反論も予想されるのだが、氏は様々な史料を駆使して、この仮説に到達している。勿論、イエズス会が単独で裏から糸を引けるわけもなく、多くの日本人の協力者がいたことを論拠としている。その筆頭は細川藤孝であるとし、その人脈はしっかりイエズス会に繋がっている。
 そもそも南欧勢力の最終目的は中国大陸進出であり、その拠点として日本を選んだようだ。日本も中南米やフィリピンと同じように植民地化されるかも知れないという脅威もあったかも知れないが、実際に彼らと大きな戦闘になったことはない。脅威よりも相互の利益になるような関係を望んだのだろう。日本国内でいつまでも戦乱が続くようでは布教も貿易も発展しない。いち早い国家統一がイエズス会にとっても有益であっただろう。信長もそれを利用した。相互依存なのである。結果だけを見ればイエズス会に操られていたと見えなくもない。ある意味では正解かも知れないが絶対的とはいえないだろう。
 著者は本能寺の変の黒幕としてもイエズス会の大きな力を感じておられる。デウスを差し置いて”神になろうとした信長”を支援者だったはずのイエズス会は見限った。光秀を操り、主殺しをさせ、秀吉にその光秀を討たせて信長の後継者に仕立て上げたと。朝鮮出兵までイエズス会の意志であったという。まったくもって論理的に思えてくる。しかし、その後のイエズス会や南欧勢力の日本における活動の変遷を見届けないとなんとも言えない、というのが私の感想である。結果的に後に徳川の時代になってキリスト教は禁教とされ、鎖国となり南欧勢力は排除された。彼らの策謀は閉ざされたが、ヨーロッパの新興勢力によって引き継がれていく。そして江戸末期、再び彼らはやって来たのだ。まさに植民地化せんとして。

-目次-
第一章 「天下布武」前史
第二章 「天下布武」の誕生
第三章 「天下布武」と決勝綸旨
第四章 「天下布武」の出発
第五章 「天下布武」と南欧勢力
第六章 「天下布武」の破滅
エピローグ

更新日: 04/08/16