読書メモ

・「よくわからん?インターネット時代の法律入門
(松倉秀実、宮下佳之、寺本振透:著、\1,600、インプレス) : 2004.02.09

内容と感想:
 
日本のインターネット雑誌の先駆け的存在であった「インターネットマガジン」に、かつて連載されていた知的所有権(正確には知的財産権)に関する記事をまとめたもの。日本でのインターネット人口も現在ほど多くなかった頃から、ネット上での知的所有権問題を扱っていた点は評価が高い。
 実は知的所有権問題はなにもネット上だけの話ではない。PCが普及し、情報は全てデジタル化され電子情報として保存・管理・流通できる時代。デジタルなファイルは全く劣化せず、容易にコピー出来てしまう。違法コピーである。対価を払わずに使用できるのだ。とても便利な時代なのだが、それだけに容易にコピーされてしまっては当然困る人もいる。CDやDVDなんかも個人でコピー出来てしまうから、ネット上で海賊版CDとして流通したりして、表社会で商売している業者を脅かす。これは歌手や作曲者などクリエイターの収入に影響する。彼らの権利や生活を守るためにも知的所有権がある。
 本書は著作権や特許権など「人間の知的な精神活動の成果に関する権利」について解説し、主にWebページのコンテンツ(素材)の扱いを巡る話題をQA方式で構成されている。ネットユーザが日常、気になるような様々な疑問に対して3名の弁護士が答えている。
 ネットは情報発信、情報収集のツールとしてますます活用されていくだろう。商取引の場としてビジネスにも大いに利用拡大が期待されている。個人レベルでも好きなように、更には匿名でも発信できる。それだけに玉石混交、情報の選別が大変になってきている。危ない罠も仕掛けれているかも知れない。知的所有権だけでなく、利用するユーザを保護するような法律も整備されなければいけないだろう。ネット販売は法律上は通信販売の一種として捉えられていて、訪問販売法(!)によって規制されている、というのを知って妙に感じた。

-目次-
序章 知的所有権ってなんだろう
第1章 表現と他人の権利
第2章 出版と報道
第3章 ソフトウエアと特許
第4章 ドメインと商標
第5章 信用と貨幣
第6章 サイバービジネスと法規制
第7章 情報と規制
第8章 これからの知的所有権

 インターネットがかつての一部のマニアだけのものものでなくなり、社会全体のインフラとなり、なくてはならないものとなった現在、仮想世界としてのネットではなく、現実社会の一部として捉えなければならなくなった。匿名性を悪用して、ネットなら何をしてもいいというわけではなく、そこにも現実社会と同様の法律問題が発生しうる。ネットの法律問題といっても本書が取り上げているような知的所有権だけは収まらないのかも知れないが、現在のネット上の主なコンテンツとしてのWebページを巡る疑問だけでも、このように一冊の本になってしまうくらいに深い。著者らが語るように、法律は変化の早い現実社会のスピードには追いつけない、その上で現実的な解決方法を探るために、柔軟に矛盾なく既存の法律を解釈していく、というのが法律家の役目だという。
 ネットのコンテンツに限らず、「他人からの法的攻撃を防御」する知識をもっていないと、いつ訴えられるか分からない。特にビジネス利用の場合は、自社の製品等が他者の権利を犯してしないか日頃から注意を払う必要があるだろう。正しい知識をもって活動しないと、会社の存続すら危うくするかも知れないのが法律問題である。

更新日: 04/02/14