読書メモ

・「あなただけができることをやりなさい 〜ソフトウエア界の偉人23人の名言集
(細貝俊夫:著、翔泳社 \1,680) : 2004.04.30

内容と感想:
 
副題にあるようにソフトウエア界の偉人23人の名言集である。正確にはソフトウエアのみならずコンピュータのハードそのものの開発にも貢献している人も多く含まれている。故人・現役の業界の偉人たちの言葉は同じ業界の片隅でひっそりと生きている我々にも勇気を与えてくれる。23人の中には知らない名前も多いがTRONの(ユビキタスの?)坂村健ら日本人もエントリーされている。
 コンピュータの歴史の勉強にもなる。先人たちがどのようにして、現在のコンピュータの姿にまで発展させていったかの過程が面白い。業界そのものの歴史は新しいと思われるが、コンピュータの原型となる計算機は解析エンジンという名前で、既に19世紀前半には存在していたのだから驚きだ(これは巻頭、第1章のバベッジの項に詳しい)。
 本書の題である「あなただけができることをやりなさい」と言ったのはダイクストラ(第4章で登場。構造化プログラミングの草分け。アルゴリズムの大家)だが、この言葉には流行に流されるな、自分自身のスタイルを持て、というメッセージが含まれている。ダイクストラの生き方そのものだったようだ。
組織の一部になってしまうと、「自分だけが出来ること」を見出すのは難しい。誰でも出来ることをルーチンワークでこなすのは楽だが面白くはないし、長続きしない。個性を否定されている気にさせられる。かといって勝手気ままでは組織は成り立たないし、仕事は成し遂げられない。要は夢のようなことを言うだけではなく、自分の生きる道を見出し、そこに専心できることが本人にとって幸せだろうし、ダイクストラの言葉にも沿うことだろう。
 著者があとがきで述べているように、ソフトウエア開発は創造的な活動である。これには異論はないだろう。しかし最近つくづく感じるのは創造的でない仕事が多いことが苦痛で、達成感もなく、ストレスも溜まる。無駄な人生を送っているのではないかという疑問である。また愚痴になってしまった。本書を座右の書として置き、この業界が嫌になったら、ときどき偉人たちの言葉に耳を傾けることにしよう。

-目次-
第1章 すべては彼らから始まった
第2章 どこでもコンピュータの時代が来た
第3章 こうしてソフトウエアは誕生した
第4章 あなただけができることをやりなさい

更新日: 04/05/09