春、おぼろ
      其の五      >>>其の六




  暗く、ひんやりとした空気に、乱太郎は目を開けた。
「此処は…?」
「裏山のお堂だよ。乱太郎も良く雨宿りで使うだろう」
 言われて見上げた天井は、確かに見覚えがあった。利吉の手が乱太郎を引き寄せ、膝の上に抱き上げる。
「乱太郎…」
 耳元で熱を帯びた声がして、利吉が優しく口付けて来る。乱太郎はその首に腕を回してしがみ付いた。口唇を舐められて口を開くと、利吉の舌が直ぐに入り込んでくる。温かなそれは、ゆっくりと歯列を辿り、上顎の内側を探っていく。それから、やっと舌を絡めてきた。舌で舌を探られる感触に乱太郎の体の芯が熱くなる。
「ふっ…、んっ」
 濡れだ音の合間に小さな声が洩れる。
「気持ち良い?」
 優しく聞かれて、頷く。
「舌、出して」
 言われるままに口を開け、舌を出すと利吉がしゃぶりつく。柔らかく噛まれたり吸われたりすると、そこから甘い快楽が広がって、頭の芯が痺れた様になってしまう。溢れそうになる唾液を夢中で飲み込んで。口唇が離れてしまうと、物足りずに利吉にしがみ付いていた。
「やっ、もっと…」
「もっと?何?」
「ん…、口吸って…」
 消えそうな声で言い、乱太郎は自分から舌を出して利吉の口唇を舐めた。求められるままに、乱太郎の小さな舌をしゃぶり、時折きつく吸う。その表情は切なげで、夢中でしがみ付いてくる。それが、堪らない。優しく背中を撫でながら、乱太郎の足を開かせて足を跨がせるように動かす。それすら夢現だったのに、利吉が足を動かしてそこを刺激してやると、乱太郎は腰を押し付けてきた。布越しの固い感触は、乱太郎の昂りを教えている。手早く袴の結びを解き、そこに触れる。
「あっ…!」
 その刺激に、乱太郎は驚いて身体を離そうとした。口付けだけを解き、逃げようとする身体を抱き締めながら、片手でそれを刺激する。
「此処、こんなになっちゃう位、気持ちよかったの?」
「い、や…」
「嫌じゃないんだろう?ほら、下帯が濡れてるよ」
 囁いて、それを教えるように濡れた布の上から先端をこする。
「あっ、あっ…」
 利吉の触れている所から快楽が広がる。引こうとした腰を、逆に押し付けるようにしてしまってから、乱太郎は慌てて身体を離そうとする。利吉に触れられて、気持ち良い事しか感じられない事が、どうしようもなく快楽を欲しがってしまうことが恥ずかしくて堪らない。けれど、久し振りの快楽に、押さえる事が出来ない。
「良いよ。達って。口吸ってあげるから、そのまま、ね」
 利吉の言葉に、泣きたい位の羞恥を覚えてきつく眸を閉じた。けれど、再び優しく舌を吸われると、もう駄目だった。舌を弄られて広がる快楽は、股間の昂りをも刺激している様で。思考が蕩けてしまいそうな快楽は、次第に切羽詰ったものとなって来る。布越しに与えられる刺激は幾らかじれったい程で、乱太郎はしきりに腰を揺すって利吉の手にそれを押し付けてしまう。優しく舌を吸われながらきつく扱かれた瞬間、乱太郎の昂りは弾けた。
「んうっ!」
 口付けの下で乱太郎が息を詰めた。下帯に打ち付けられたそれは熱く、乱太郎自身をとろりと包み込んだ。利吉の手は止まることなく、濡れた下帯ごと乱太郎のそれをもみしだいている。
「んっ、ふっ…」
 萎えたそれを弄られて乱太郎が腰を逃がそうとした。自分の放ったものだというのにぬるぬるとした感触は気持ちよく、呆気なくそれは昂りはじめ、乱太郎は困惑する。昂りが確かなものになると、やっと利吉は口付けを解いた。
「あっ…」
「いっぱい出たね」
 囁かれて恥ずかしくなる。そっと床に横たえられて、乱太郎は目を閉じた。床板の固い感触に、急に現実に戻されてしまう。利吉は汚れた下帯を解いて、欲情の証にまみれた幼い昂りに眸を当てた。下生えすらまだの滑らかな下腹に、桃色の先端を覗かせて勃ち上がっているそれは、酷く淫らで、利吉を誘うのだ。
「汚れちゃったね。いま、きれいにしてあげるから」
 そう言って、利吉は舌を伸ばして乱太郎の放ったものを舐め始めた。熱くぬめる舌が擽るように這い回る。くすぐったい様な快楽に乱太郎は肩を捩った。汚れた下腹も細い腿も清められたのに、昂りだけは避けられている。そうされる事の快楽を知っている体は、じきに物足りなさを覚え、僅かに腰を突き出してくる。
「あっ、ん」
 足の付け根を弄っていた舌が、一瞬、先端を掠める。その刺激に、小さな先端はねだるように蜜を零した。
「ふふっ、よだれ垂らしてるよ。どうして欲しいのかな」
 指先で軽く先端を擦ると、また、蜜が溢れて来る。乱太郎は何か言いかけたが、小さく喘いだだけだった。
「このままで良いの?私は構わないけど」
 蜜に濡らした指を奥へと滑らせ、固い蕾に触れる。乱太郎の体が強張り、蕾はますます固くなった。利吉の指は何度も先端から溢れる蜜を掬っては蕾に塗りつけ、そこを解し始める。初めは、少し焦らされた後にしてもらえるだろうと思っていたのに、そんな気配はちっとも無くて、先端ばかりを刺激されて乱太郎は泣きそうになった。そのやり方は刺激ばかりが痛いほどで、さほどの快楽が無い事は利吉だって知っている筈なのに。
「やっ、やだ、止めて」
「どうして?ほら、こんなに濡らしているのに」
 逃げようとする腰を押さえて、揶揄を含んだ声が言う。
「それとも、して欲しい事が有るのかな。だったら、教えてくれないと」
 わざと濡れた音をさせて先端を弄られ、上がり掛けた声を押さえた。久し振りの逢瀬だと言うのに、利吉は意地悪ばかりだと思うと涙が零れた。その涙を口付けで拭って、利吉は乱太郎を見詰めた。その、闇色の睛が愛情しか湛えていないのを見て、乱太郎の胸が苦しくなる。
「意地悪…」
「うん。知ってるよ。でも、乱太郎の可愛い声で、どうして欲しいのか聞かせて」
 優しく囁かれて、乱太郎は羞恥心を押さえ込んだ。
「口でして。私の、いっぱい舐めて」
 乱太郎の震える声は甘く上擦っている。
「良い子だ」
 満足げに利吉が微笑い、昂りに口付けた。熱く濡れた口腔に含まれて、乱太郎が溜め息を洩らす。
「んんっ…」
 半ば乾きかけた欲情の証を丁寧に拭ってから、舌を絡めてしゃぶり上げる。長い事先端を刺激されて過敏になっていた事と、焦らされていた所為で、乱太郎はあっという間に上り詰めそうになる。もう少しという所できつく付け根が押さえられ、口腔が離れた。
「あっ…」
「そうすぐに達ってたんじゃ、体が持たないよ。少し我慢して」
「だって…」
 ずっと欲しくて堪らなかった。もう二度と、利吉が触れてくれないのではないかと思うと、不安で堪らなかった。それなのに、利吉に触れられて安堵した今、欲しがってはいけないのだろうか。
「もっと一杯して、うんと気持ち悦くしてあげるから」
 まだ、足りない。もっと乱太郎に触れて居たかった。指で、口唇で確かめ、味わって居たかった。大きく足を広げさせ、秘められた蕾に口付ける。舌先で襞を擽ってからちゅっと吸い付くと、乱太郎が腰を逃がそうとする。
「やんっ…」
「本当に嫌なの?」
 囁いてなおも吸うと、強張っていた足から力が抜けて、利吉が押さえるままに広がった。指で乱太郎のものを優しく弄りながら、唾液を乗せた舌を押し込むようにして蕾を刺激する。快楽を知っているそこは直ぐに利吉の舌を受け入れた。
「ひっ、あっ…」
 温かく濡れた舌が動く度に、快楽が走って力が抜けてしまう。利吉の髪に指を絡めて掴まっているのが精一杯だった。くすぐったい様な遣る瀬無い快楽は次第に物足りなくなり、乱太郎のそこは舌を誘うようにヒクつき出した。それを見計らってゆっくりと指を入れる。
「ひゃっ、ああっ」
 突然の異物の侵入に小さな悲鳴が上がった。けれど、たっぷりと濡らされた其処は、嬉しげに指を飲み込んで行く。乱太郎の中は熱く、狭い其処が利吉の指を締め付ける。軽く指を揺らしただけで、乱太郎は甘い悲鳴を上げ、腰を捩って更に深く飲み込もうとする。
「んっ、あぁ…」
「気持ち悦い?じゃあ、こっちも、ね」
 乱太郎の媚態に、利吉の眸が甘く蕩けたような色を浮かべる。
「乱太郎が言った通り、いっぱい舐めて上げるよ」
 そう言って、幼い昂りを口に含んだ。小さな固い感触は、幾ら味わっても飽きない。ふっくらとした先端を擽ると、蜜が溢れて来る。甘いそれを味わいながら、指を動かすと泣き声が洩れた。
 身体に入り込んだ指は熱く、内側をかき回されるとどうにかなってしまいそうだった。それだけでもめい一杯なのに、利吉に昂りをしゃぶられて其処が蕩けてしまいそうに気持ち良い。
「ああっ、はぁっ、んっ」
 気持ちよくってどうして良いか分からず、ただ声を上げる事しか出来なかった。乱太郎の嬌声に指は深く、大きく抜き差しされる。
「やぁっ、くぅっ…」
 達ってしまいそうな快楽を与えられ続けながらも、達かせて貰えずおかしくなってしまいそうだった。指では届かない奥のほうが疼き出し、昂りの先端はわずかに痛みを感じ始めている。
「ああっ、も、やっ、だめぇっ」
 腰を逃がそうとしてしきりに捩るのだが、それは却って指の動きを大きくしただけだった。乱太郎の声に混じった苦痛の色に、利吉はずるりと指を引き抜き、ぐっと深く押し込んだ。同時に、昂りを強く吸う。
「ひっ!」
 その衝撃に、乱太郎のものは弾け、利吉の口腔に熱いものを打ち付けた。熱くとろりとした味の薄いそれを、利吉は咽喉を鳴らして飲み込んだ。乱太郎はまだ、しゃくり上げるような荒い息を吐いている。
「乱太郎…」
 名前を呼んで抱き締めると、乱太郎が力の入らない指で弱々しく掴まってくる。久し振りで、加減が出来ず、きつく責めてしまった。それをほんの少し申し訳なく思ったけれど、本当は、これからなのだ。
「大丈夫かい?」
 乱太郎が必死で息を整えながら、小さく頷いた。けれど、利吉の指が再び動き始めると、嫌々をする。
「もう嫌なの?欲しくない?」
 そう聞いては見るけれど、止める気はないし、止められる自信も無い。乱太郎は小さく頭を振り、途切れ途切れに言った。
「ちょっと、息、苦し…」
 見れば薄い胸は大きく弾み、鼓動は早鐘の様だった。息が整うまでの間も待てない程、性急ではない。利吉はそっと髪を撫で、汗を滲ませた額や頬に幾つも口付けを落として、待った。愛しくて堪らない。小さな身体も、滑らかな肌も、すべてが利吉を魅了するのだ。
 やがて呼吸が落ち着き、乱太郎の方からもそっと口付けが返るようになると、利吉は其処からゆっくりと指を抜いた。
「あっ…」
 ずるりと、抜けていくその感触に、乱太郎の背中がゾクリとした。指の抜けた後が物足りなく、蕾は閉じて行きながら、押し広げられることを求めてヒクついた。
「ちょっと冷たいよ」
 囁いて、利吉が其処に何かを塗りつける。もう、そんな事をしなくても乱太郎の身体は利吉を受け入れることが出来るのだけれど、そうした方が乱太郎の負担が軽い事を知っているのだ。利吉の指が其処を押し開き、襞の細かな所まで、それを塗り込める。
「あ、んんっ…」
 押し広げられて擦られ、広がる快楽に乱太郎が甘い声を上げてしがみ付く。その口唇を優しく啄ばみ、囁く。
「気持ち良い?此処、ヒクヒクしてるよ」
 もう一本、指を挿れ、蕾を開かせる。その開かせた蕾に、左手の指を深く入れて中を掻き混ぜる。
「やっ、あっ、あっ…」
 別々に動く指の快楽に、泣きそうな声を上げて乱太郎が腰を捩る。開かせている指はそのままに左手だけを動かすと、乱太郎の其処はしきりに締め付け、緩めては奥へと誘うように動き始める。そうなるともう、指では足りない。
「やぁっ、ちょうだいっ、利吉さんの、入れて」
 堪えきれずに乱太郎がねだる。
「もう、入ってるよ」
 そう入って指を動かすと、乱太郎は嫌々をして利吉の肩に頭を擦り付けた。利吉が何を言わせたいのか知っている。それを言うのは何時だって恥ずかしいのだけど、それ以上に、利吉のものが欲しかった。焦れったさにおかしくなりそうだった。
「嫌っ、指じゃな…、利吉さんのっ…」
「もう大丈夫?辛くない?」
 優しい声で聞くのは、焦らす為だ。乱太郎はしきりに頷いて、利吉に口付けた。形の良い薄い口唇を舐め、誘われるままに舌を差し入れる。痛いほどに舌を吸われてから、指が抜かれた。代わりに熱いものがあてがわれ、乱太郎は思わず息を詰めた。其処が濡らされている事を確かめるように入り口を擦ってから、ゆっくりと入ってくる。
「ああっ…!」
 甘い声を上げて乱太郎が身体を震わせる。ほぐれてはいても狭い其処に、利吉は僅かに眉を寄せ、快楽を耐えた。潤み出した熱い内壁に包まれて、蕩けてしまいそうだった。
「すごく熱いよ、乱太郎の中」
「利吉さんのも熱い…」
 狭い其処を押し広げ、体の中を一杯にしている利吉のものは灼け付きそうに熱くて、その感覚だけがすべてになってしまう。利吉が動くと其処から広がる快楽に翻弄されて、それしか分からなくなってしまう。
「ああっ、ひっ…、い…」
 突き上げられ、乱太郎が悲鳴を上げる。乱太郎の幼い痴態に、次第に押さえが利かなくなっていく。ずっと押さえていたものを、乱太郎が外そうとしているように思えてならず、利吉は一瞬動きを止めて囁いた。
「気持ち良い?これが好きなんだね?」
「悦、い…。好…き、利吉さんが好き。だからもっとして…!」
 乱太郎は何時だって、本当に利吉の欲しい答えを知っているのだ。苦しい程に乱太郎を愛しく想いながら、利吉は快楽に溺れた。

>>>其の六
                               TEXT:利太郎様   
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