読書メモ
・「武田三代」
(新田次郎:著、 \340、新潮文庫) : 2003.06.01
内容と感想:
甲斐・武田家の信虎、信玄、勝頼の三代を題材にした歴史短編集。全7編。
・信虎の最期
天正2年。既に信玄はこの世になかったが、後継者の勝頼を盟主に武田家は威勢を保っていた。勝頼が徳川の高天神城を陥れた頃、彼の祖父にあたる信虎(81歳)と会見することになった。信虎は信玄の父であったが、粗暴な振る舞いが目に余るようになり、家臣によって追放された。嫡子・晴信(信玄)が後を継ぐが、甲斐を追われた信虎は今川を頼り、その今川が滅ぶと諸国を流れ歩いた。面会の席にはかつて自分の家臣だったものもいる。昔のことを思い出すと次第に信虎に変化が・・。
・異説 晴信初陣記
信州、千曲川沿いの海の口城は海尻城の出城ではあったが、佐久地方への進出を阻む要害であった。信虎の命で海の口城攻略は厳寒の冬に決まる。そうでなくても家臣団の信虎への不満は高まる一方。板垣信形はこの戦を嫡子・晴信の初陣にしてはと進言する。海尻城主・平賀源心を見事討ち取った晴信には、城攻略のヒントを与える陰の男の存在があった・・
・消えた伊勢物語
信玄の寝所から伊勢物語の原本が消えた。今川義元から借りたものだったが、既に義元は桶狭間で命を落としていた。信玄は忍びの組頭・大月平左衛門に調査を命じる。信玄の嫡子・義信の正室は義元の娘であった。平左衛門は輩下の女忍びを義信の館に奥女中として送り込む。果たして伊勢物語が発見された。奥女中の中に北条家の女間者が入り込んでおり、信玄父子の間を裂こうと企てていたのだ。
・まぼろしの軍師
天正10年暮れ、山城国・妙心寺の僧・鉄以は彼を訪ねてきた老武士に、自分の父が信玄の軍師・山本勘助であると告げられる。山本勘助のことを語り尽くすと老武士はほっとしたように息を引き取る。これをきっかけに天正18年、鉄以は父のことを調べるために諸国行脚の旅に出る。既に秀吉の世になっていた。鉄以の記した武田家の歴史は「甲陽軍談」と呼ばれる。
・孤高の武人
天正10年、甲斐の南、雨畑城主・桜井信久は徳川勢の猛攻にあっていた。既に武田の当主・勝頼は織田・徳川連合に攻められ、自刃していた。信久は村の豪士の娘りんを側室に迎えていたが、武田家滅亡に望んで、りんに暇を出す。側室に迎える前から彼女には佐十郎という許婚がいたのを知っていたのだ。戦で傷つき落ち延びていく信久を佐十郎が救い、身を隠すため山中へ連れて行く・・・
・火術師
勝頼が長篠合戦で織田・徳川に大敗した後、武田家の前途は暗かった。御前山の山頂にある烽火(のろし)台には火術師・鹿崎八郎がいた。この鹿崎は実は徳川家の富井半兵衛といい、越後へ出兵中の勝頼に誤報の狼煙を上げる。これをきっかけに北条氏政との同盟が敗れて、武田家は破滅への道へ突き進んでいく・・・
・武田金山秘史
甲斐の黒川金山は武田家の大きな財源であった。産出量は最盛期の半分にまで落ち込んでいた。堺の商人・塩屋三郎四郎は穴山梅雪(勝頼のいとこ)と黒川を訪ねていた。鉄砲に興味をもった梅雪は金山という見せ金で、三郎四郎から鉄砲を手に入れようとしていた。現金でしか取引しないと一旦は断る三郎四郎だが、金山奉行・依田信常の侍女つるを身請けするのを条件に最新式の鉄砲百挺を提供する。その鉄砲を長篠合戦の退却時にしか生かせなかった。この合戦で多くの有力武将を失った武田家は、領土を次第に他国から侵されるようになる。木曽義昌が裏切り、そして梅雪も。勝頼が死に、梅雪は信長の招待で家康とともに堺に滞在中。そのとき本能寺の変が起きる。三郎四郎の手引きで密かに甲斐へ戻ると、黒川金山へ向かう。そこには武田家滅亡前に隠した財宝があるはずだと・・。
更新日: 03/06/02
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