読書メモ

・「信長 秀吉 家康 〜勝者の条件 敗者の条件
(津本陽・江坂彰:著、 \495、講談社文庫) : 2003.02.02

内容と感想:
 
本書は2氏の3人物に対する研究をもとに現代にどう生かすかを語る。対話形式ではなく、信長・秀吉・家康の順に交互に持論を述べる形で構成されている。

 津本陽といえば本書の題名にある戦国3人の英雄を主人公とした小説(”夢”シリーズ)を世に出していることでもよく知られている。現在「下天は夢か」(信長)、「乾坤の夢」(家康)は読み終えているが「夢のまた夢」(秀吉)はまだ。本書はこれら3作品を執筆した後の1996年に刊行されたものだが、著者として氏が3人をどのように見ていたか、本音が聞けるものと楽しみにして読む。
信長については:
 ・目立たない特性と断った上で「負け戦が上手い」と述べている。戦さは負けでも致命的な打撃を受けないことが彼の躍進の要因の一つでもあったのだ。
秀吉については:
 ・天下統一を果たしながらも、その能力の限界が目に見えない「血筋」にあると見ている。晩年の悪行はビジョンのないまま最高権力者に上り詰めてしまった者の哀れとも。
家康については:
 ・信玄の七分勝ちという考え方を学ぶ
 ・徳川300年の泰平の世の礎を築いたが、日本民族の可能性という観点からの功罪が研究されてもよい

 江坂氏については全然知識がなかったが、なかなか面白い見方をしていると感じた。
信長については:
 ・城攻めも野戦も上手いとは言えないが大軍隊の動員力がずば抜けていたことが強みであった。
 ・彼が本能寺の変に遭わなければ日本から産業革命が起こったかも知れない。
 ・政教分離を決定的にやってくれた
 ・成功に学ばない、同じ戦さのやりかたは二度としない
秀吉については:
 ・戦争は政治の一手段、総力を上げての大決戦をやらない
家康については:
 ・日本人のスケールを小さくした

 信長あっての秀吉であり、家康である、という点では両者一致した意見である。
 さて、江坂氏がいうように現在の日本は幕末、戦後に匹敵するような大きな転換点に来ている。国民もそろそろ実感して来ているとは思うが、バブル崩壊後の停滞状況はいっこうに好転しない。そこで望まれるのが信長型リーダーの出現だが、この現代に彼のような発想を持った人物が果たして現れ得るのだろうか?変人・小泉首相が改革と叫べども空回りするばかりで、なかなか効果は目に見えない。と他人ごとのように言っていては駄目なのは分かっているのだが・・・。急激な変化を恐れるのは分かるが、恐れるべきは安定を望むばかりに、挑戦する気持ちや向上心を失い、諦めにも近い境地に小じんまりと納まってしまうこと。そうなると後は日本は沈没を待つばかり。もしかすると本書の3カリスマのような強烈なリーダーを望む時代ではないのかも知れない。そういえばピラミッド型の組織が見直されているとTVで見たことがある。ちゃんと見ていたわけではないが、組織を構成する個人が自分の役割をよく理解し、メンバーと連携し効率的に動くことで変化に適応できるというようなことだと想像する。よらば大樹とか、お上がなんとかしてくれる、という時代ではないのは事実で、ますます個人の能力が問われることになるだろう。

更新日: 03/05/30