読書メモ
・「一夢庵風流記」
(隆慶一郎:著、 \667、新潮文庫) : 2003.05.25
内容と感想:
一夢庵とは前田慶次郎のこと。昨年の大河ドラマ「利家とまつ」を見ていた人なら、その名を覚えていることだろう。ドラマでは確かに傾奇者(かぶきもの)の一面(派手な外見)は現れてはいたが、本書の慶次郎とはかなりかけ離れていたな、というのが読後の印象。役者のせいか、演出のせいか、それほど重要な役割ではないと思われたか、どうかは知らないが結局はそれだけの位置付けでしかなかったようだ。だが、本書で私の慶次郎へのイメージは急上昇。これぞ男が惚れる男である(変な意味ではなくて)。
慶次郎のように生きられたらいいな、と思わせる、男の理想像のようなものを持っているからだ。しかしなかなか彼のようには生きられないのは昔も今も同じ。傾奇者には傾奇者なりの苦悩がある。それらを作者は見事に描いている。
そもそも本書を知ったのは、昔、少年ジャンプで連載された「花の慶次」(1990-93)の原作だったことを、つい最近知ったためだ。「北斗の拳」の作画の原哲夫氏のイメージが強すぎて、傾奇者というよりも、どうしてもケンシロウとダブってしまっていた。だから連載当時もそれほど面白いとは思えなかった。著者の名も作家活動が短くして、世を去った人物としての知識だけはあった。
慶次郎の傾奇者ぶりを読めば、真の傾奇者とはこうあるべし(?)、というのが理解できるだろう。傾奇者の定義をここで一言で書くのが難しいのだ。派手好み、奇矯な振る舞いだけが傾奇者ではない。慶次郎は更に「いくさ人」であり風流人でもあった。
彼の超人ぶりは「花の慶次」とさほど変わらないかも知れない。先に”男が惚れる男”と書いたが、この男の半端ではない傾奇者ぶりが、多くの登場人物を惹きつけていく。主命で慶次郎を暗殺しようとした加賀忍者・捨丸、これも忍者で暗殺者の”骨”、長鉄砲を武器にする刺客・金悟洞。皆、彼の命を狙うつもりが果たせず、逆に彼の護衛のように働くことになる。勿論そんな男を女が放っておくはずもなく、利家の正妻まつまでが彼に魅了されてしまう(史実はどうかは知らないが)。また秀吉の唐入り(朝鮮出兵)前の視察で向かった朝鮮の地では、遠く昔に滅んだ伽ヤ(人偏に耶と書く)という国の子孫・伽姫と出会い、彼女を保護し日本に連れ帰る。
前田藩を追われ浪人となった慶次郎だが、悲愴さは全く無い。彼は上杉景勝の重臣・直江兼続と出会い、男惚れをし、直江の京屋敷に勝手に出入りするようになり、後には越後上杉藩の佐渡攻めや、家康の会津(上杉)征伐に対抗するため自ら志願して、直江の直属で働く。無論、兼続も慶次郎を認めているからこそ、心を許している。
傾奇者の末期は悲惨だろうと思ったが、意外にも彼は米沢藩で天寿をまっとうしたらしい。
著者の慶次郎への想いは、本書のページ数(550頁)にも表われているが、何よりも著者のペンネームがそれを物語っていると感じるのは私だけではないだろう。
更新日: 03/05/30
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