読書メモ
・「甦る戦国城下町 〜一乗谷朝倉氏遺跡」
(天野幸弘:著、 \1,800、朝日新聞社) : 2003.04.24
内容と感想:
1991年から1992年にかけて朝日新聞福井版に計120回に渡り掲載されたものを単行本化したものである。福井県の一乗谷で四半世紀に渡って、行われた遺跡発掘作業の取材を元にした、戦国時代の一時期に賑わいを見せた城下町をテーマとしたレポートである。
越前・朝倉氏といえば、北近江・浅井氏と同様、信長によって滅ぼされた戦国大名である。朝倉義景、浅井長政、久政(長政の父)らの遺体はその頭蓋骨が、金の漆塗りの髑髏盃にされ、正月の挨拶に来た信長の家臣たちの度肝を抜いたという。
その朝倉氏は現在の福井市一乗谷にかつては本拠を構え、信長軍の焼き討ちに遭うまでの約一世紀を戦国大名として君臨した。狭い谷に築かれた城下町には約一万人の人々が生活したと考えられている。焼き払われた谷はその後、放置され、人を寄せ付けなかった。そのおかげもあって、その数150万点にも及ぶ貴重な発掘品が地底で程度よく保存されていたため研究者たちを歓喜させたという。”戦国のタイムカプセル”と著者は書いている。
本書では発掘品や地形調査などの結果から想像される、当時の人々の生き生きとした暮らしぶりを再現させている。
<目次>
T:発掘された戦国遺産
U:一乗谷の当主たち
V:武家屋敷跡の人間像
W:町屋跡に浮かぶ庶民生活
X:信仰心残したかたち
Y:鉄砲と刀
Z:多様な工芸品
[:戦国生活の中のゆとり
\:水路がつないだ世界
]:文化都市の人物往来
福井県生まれでありながら実は私はまだこの遺跡を訪れたことがない。最近まではそれほど歴史には興味がなかったのも一因だし、遺跡というだけでは古臭いというイメージで、ロマンも感じられなかった。それが偶然、手にした本書によって、急に訪ねてみたくなって来た。ここ数年で、戦国史に興味をもつようになったことが大きい。
敗者の歴史はあまり語られることはないが勿論、朝倉氏に関してもそうだろうし、勉強不足の私にも知識は乏しかった。一番の興味あったのはやはり朝倉氏の興亡の歴史であった。本書を読みながら、ふと朝倉氏は地元の一向一揆の脅威がなければ、十分に天下を狙えたと思った。一時期は後の第15代足利将軍・義昭を保護していたし、京にも決して遠くなく、武力でも応仁の乱以降の朝倉軍団は恐れられていた。しかし下剋上で越前一国を制覇した後は、領地拡大に走ることはなかった。著者が言うように「そこそこで安定すればいい」という旧来の発想が、新興勢力の信長の発想に敗れ去った大きな要因だろう。「天皇や将軍、宗教、文化の権威を否定できなかった」ため中世から脱却できず、滅びていったのだ。
更新日: 03/05/30
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