読書メモ

・「齋藤孝のざっくり日本史
(齋藤孝:著、祥伝社 \1,500) : 2008.10.19

内容と感想:
 
著者が意外にも日本史を取り上げて書いた本。 歴史に登場する単語をただ受験用に覚えるだけの授業が日本史を学ぶ面白さを失わせている、と著者は感じている。 歴史の流れを理解していなければ、それらの単語はなんの意味もない。受験の手段として割り切って暗記させるのは確かに合理的だが、 それだけではつまらない。
 プロローグにもあるように著者は、日本人は欧米人に比べて論述能力が劣ると感じている。 また、ある歴史上の事件を意味をちゃんと説明できることが「知的素養、能力の証」(教養)と考えている。 歴史から学ぶ、とよく言われるが、そのためには過去の出来事の「意味」を理解しなければいけない。
 本書では著者の勉強法「すごいよ!シート」を紹介している。 日本史の勉強法として編み出したという。 そのシートでは、ある一つの物事について3つのポイントを挙げ、それを他人に説明できるようにするそうだ。 ポイントに挙げるのが「すごいよ」と思えることであり、シート自体は単なる紙のようだ。 「すごい」と感動できてこそ、学んだ意味があると著者は考えている。
 取り上げている話題は古代、幕末のものが多いが、それぞれ現代日本人のアイデンティティにつながるテーマであるから、 その文脈が分かると「そうだったのか」と思えることだろう。 タイトルのとおり(一部ではあるが)日本史を「ざっくり」学ぶことができるから、歴史を学ぶ面白さが分かってくるのではないだろうか。
 鎖国について面白い考察をしている。 今、日本に必要なのは他国の物真似ではなく、「一人鎖国状態」だと。かつての江戸時代の鎖国のプラスの面を意識している。 鎖国のように世の中の情報を遮断し、あるテーマに没入する。 それを突き詰めていくうちに、それがやがてはじけ、すごい市場価値を持つのではないかと。 別に鎖国をしろと言っているわけではない。独自のものを創造するにはそれくらいのことをしないと駄目だと言っている。 日本国民全員がそんなことをする必要はないと思うが、それが出来る、周りから見れば変人のような人も大切にしたほうがいい。 方向性がポジティブなら引き篭っていてもいいじゃないだろうか。世界を変える何かが生まれるかも知れない。 でもたった一人だけで世界を変えることは出来ない、ということは知るべきだろう。

○印象的な言葉
・日本人の「言いなり」性分。従順。忘れやすい。
・日本人の「歌」心
・母系社会だから成立した摂関政治。藤原氏は自らを安全な場所に置いたまま、権威・責任の所在は天皇に帰属させ(責任は取れないのに)、実権を握り権力を奮った
・日本人の曖昧さの根源:天皇制。名と実を分ける
・「ご利益」に弱い日本人
・禅マインド。自然の中に宇宙を見る。自然・宇宙との一体化
・無常観を好む日本人。あるがままを静かに受け入れる静寂な心。あきらめのよさ。
・鎖国で200年間煮込まれた国、鎖国で溜まったパワー。内へ内へ向かったエネルギー。発酵。
・「モノ」ではなく「システム」を輸入した日本。システム好き。システム全体の根幹を見抜くのが上手い
・一つ前例が出来ると、将棋倒しのように一つの方向に傾き、倒れていく日本人。大勢に流されているようで、流れを見誤っていない。
・日本人の開明性(開明的な感性)
・変わり身の早い日本人。最も日本らしい町・東京(くるくると姿を変える)。立ち直りも早い
・江戸時代末期、一般の人は天皇の存在を忘れかけていた。外国があることも忘れかけていた
・明治維新は武士による自己革命:市民革命であるフランス革命とは違う。支配階級である武士が自分たちの社会が時代遅れだと気づき、自らの身分を終わらせるように動いた。
・文明の発達が「情報ツール」の発達:言葉→文字→印刷技術→・・→インターネット→??
・やまとことば:日本に文字が取り入れられる前から存在した話し言葉。中国から漢字を輸入し、やまとことばに当て字したのが「万葉仮名」。 万葉仮名には音だけ当てたものと意味から当てたものがある。どんな字を当てるかは書き手に任された。文字を選べる自由。
・本質をパッと切り取る俳句。研ぎ澄まされた言葉、選ばれた言葉
・平仮名は女性文化(女文字)、漢字は男性文化
・明治に生まれた翻訳語:外国文化の概念を日本の文字で置き換えた
・国家や体制とは対極にあるはずの仏教。ご利益を与えるような宗教でもない。とことん譲ってしまおう!穏やかさ
・リビドー:フロイトが説いた概念。無意識の中に渦巻いているエネルギーの総体
・子供を喜ばせる文化では他国の追随を許さない
・座の文化:庶民のネットワーク
・変に細かいところにこだわるのが得意な日本人。異常なほどの細分化。技巧派。格付けもピンからキリまで。繊細な心遣い。
・島国根性。ムラ社会。一体感、連帯感

-目次-
プロローグ いまこそ、日本史を学びなおす
第1章 「廃藩置県」と明治維新 ――なぜ前代未聞の大革命が成功したのか
第2章 「万葉仮名」と日本語 ――和洋中の粋を集めて発展した「世界言語」
第3章 「大化の改新」と藤原氏 ――ナンバー2が支配する日本統治の始まり
第4章 「仏教伝来」と日本人の精神 ――「ゆるさ」が可能にした神道との融合と禅の進化
第5章 「三世一身法」とバブル崩壊 ――日本の土地所有制度はどこから始まったか
第6章 「鎖国」とクールジャパン ――「日本的」なるものを煮詰めた二〇〇年
第7章 「殖産興業」と日本的資本主義 ――なぜ日本は資本主義競争に勝ち残れたのか
第8章 「占領」と戦後日本 ――採点! GHQの占領政策