読書メモ
・「YouTube革命 〜テレビ業界を震撼させる「動画共有」ビジネスのゆくえ」
(神田 敏晶 :著、ソフトバンク新書 \700) : 2008.01.20
内容と感想:
Web2.0を象徴するサイトの一つと言われる動画共有サイト「YouTube」。
グーグルにより巨額(16.5億ドル)で買収されたことでも話題となった。
この手のサイトが注目されるのもブロードバンド環境が整備されたことで、リッチな動画が楽しめるような環境が手に入ったことが大きい。
YouTubeは買収される側のメリットとして、グーグルの豊富な資金力と広告分野の人脈を活用できると、
言ってるらしいが著者はグーグルの技術力が大きいとしている。
動画共有サイトはYouTubeだけではないが、Web2.0的といわれるのもブログやSNSのようにユーザ参加型であることからも分かるだろう。
文章や写真の延長で、簡単に動画を投稿できる。ユーザが映像作品を発表したり、意見を主張する場になっている。
そういう意味では動画版の掲示板やブログと言ってもいいだろう。「革命」というのは大袈裟すぎると思う。
コンテンツの形態が変わっただけで従来あったモデルの延長線に過ぎないだろう。ただし、映像だけに分かりやすい。
YouTubeの収益構造は広告モデルのはずだが、その動画には最初に強制的に見せられるCMがない。
YouTubeの価値はサイトへのアクセス数にある。
投稿ビデオのファイル数も膨大で、ユーザのサイト滞留時間も増加しているという。
投稿ユーザも増え、それらのコンテンツが面白ければアクセスは増える。ユーザがコメントを書き込むこともできる。
ユーザの評価をモチベーションに更なるビデオ製作に取り組みコンテンツが増え続けることにもなる。
サイト運営側とすれば大容量の動画だから、常にサーバの増強を続けていかねばならなくなる。
買収してもらわなければ早晩、サーバ増強のコスト負担で潰れていたかも知れない。
動画共有サイトが面白いのは、悪ノリやパロディなど思わず吹き出しそうなものも少なくないことや、
作り手としてはアイデア次第で見る人を楽しませることができ、作る喜びがある。
ユーザが特定の商品を勝手CMで宣伝してしまう、なんてこともある。
米国政府がキャンペーンに利用することもあると言う。
マスコミが取り上げないような話題にも個人なら独自の取材で取り組み、多くの人に知らしめることもできる。
いろんな活用が可能な場となっている。
また、いつでもどこでも見られるというメリットもある。
サブタイトルに「テレビ業界を震撼させる」とあるが、その原因は動画共有サイトへの著作権無視の違法なビデオ投稿(TV録画など)の存在などではなく、
それよりもYouTubeなどにユーザを奪われて、TV自体を見てもらえなくなることのほうが影響は大きいだろう。
いまテレビ局のビジネスモデルの破綻を指摘する声も多い。
それはHDDレコーダーやDVDレコーダーの普及で「CMスキップ」するユーザが増えたこと。
CMを見てもらえなければスポンサーは付かない。それではTV局は経営が成り立たなくなる。
TV局は動画共有サイトを敵視するのではなく、うまく味方にして自らのコンテンツを有効活用する道をよく考えたほうがいいだろう。
動画共有サイトのビジネスはこの先どうなるか不確定要素のほうが大きい。ビジネスモデルとしては弱い気がする。
本書掲載の、ある調査によれば日本のネット広告費に動画広告が占める割合はわずか0.2%に過ぎない、とある。まだまだこれからだ。
面白ビデオといっても、全て面白いわけもなく、ブログ同様、玉石混交だろう。飽きられたら終わりだ。集客力を失う。
(誰にも見られないような下らないビデオをいつまでも保管しておかなければいけないサイト運営者も気の毒でもある)
グーグルはビデオ制作者を広告パートナーと引き合わせることで、クリエーターが収入を得る手助けをしようとしているらしいが、
そういう環境が整えばクリエーターも腕を競い合い、クオリティの高い作品も増えてくるだろう。
そうじゃないと単なるブームで終わるだけだ。投稿ユーザのモチベーションを維持していけなければWeb2.0としては失敗だ。
グーグルにしてみれば動画共有は数多いサービスの一つに過ぎないのかも知れないが。
○印象的な言葉
・より成長力のある相手に対し、無理に競争を仕掛けるよりも買収して仲間にしてしまったほうが合理的
・YouTubeはセコイアキャピタルというヤフーやグーグルを育ててきたシリコンバレーきっての目利きに認められた
・動画共有サイトのインターネットただ乗り論:インフラ業者が負担してきたインターネットの維持費をコンテンツ配信業者にも負担させるべきという議論。
日米間のトラフィックの1/6をYouTubeの映像が占める。
・動画ネタ:楽器の腕自慢大会、心温まる映像、教材、トリビュート(称賛・尊敬)、馬鹿馬鹿しくも興味深いチャレンジ、ナンセンス映像、オリジナルの外伝・連作、特技、一発芸、ものまね
・ファンがアーティストの魅力を語る、その楽曲を自分で歌う、それらがプロモーションになる
・素人の斬新な発想、新たな才能の発掘の場
・表に出ない不正や矛盾を暴き、市井の人の声を社会に届かせる
・コンテンツを開放することで新たなコンテンツビジネスが成立
・タギリ(TAGIRI):動画管理・再生ソフト。サムネイル画像をもとに好きな場面から再生可能。メタキャスト社のテレビブログと連携。
・日本の放送用語「1クール」を米国では「シーズン1」という
・米国のHDDレコーダー「Tivo」では既に「通信と放送の融合」が実現されている
・アップル社の「iTV」:Mac上に保存した映像を無線LANでテレビへ転送
・CC(Closed Caption):字幕放送。放送を全文検索可能。CCオペレータによるほぼリアルタイムな放送
・視聴率の価値は崩壊寸前。視聴率に録画分は含まれない。録画率や再生率も調査すべき。それより購買につながったか否かで評価すべき。
・有料放送でさえ、CMなしでは継続運営が難しい
・米国ではTV局のコンテンツを無形資産として時価評価し、貸借対照表に反映させることが義務付けられている
・一度TV放送し終えた映像をいつでも再放送してくれるサービスがあれば・・。ネットで再配信とか。
・日本人がYouTubeへアップする映像には他人をさらし者にしたり、揶揄したりするようなものが少なくない。
・ネットならCMから商品情報へパーマネントリンクを貼ることができ、ユーザの感心があるうちにアピールできる
・動画編集サイト「jumpcut」
・テキストや写真では十分に伝えられなかったことが動画なら伝えられることも。言葉や文化が違っても。
・勝手CM:商品について何かしら言いたいことを語る、魅力を深く探求、便利な裏技紹介
・違法なビデオ投稿には、ユーザによる通報システムもある。
-目次-
第1章 動画共有革命の衝撃
第2章 ユーチューブのメディアパワー
第3章 方向転換を余儀なくされるテレビ業界
第4章 動画共有が創造するビジネスモデル
第5章 著作権2.0を考える
第6章 ユーチューブ後の世界
巻末付録 すぐわかるユーチューブ
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