読書メモ

・「なぜ社員はやる気をなくしているのか 〜働きがいを生むスポンサーシップ
(柴田 昌治:著、日本経済新聞出版社 \1,500) : 2008.09.29

内容と感想:
 
今の日本は「働くことと幸せになることが両立しない世の中」なのだそうだ。 仕事にやりがいを感じ、いきいきと働く人が増えてきたとは言いがたい、と著者は言う。 それは第1章に紹介されているアメリカの世論調査会社による会社への忠誠心の調査結果(2005年)にも表われている。 調査対象の10ヶ国のうち日本人の働く意欲は世界最低だ!
 これは企業にとってはチームワークや組織力を十分に発揮できず、生産性が低いことを意味し、 国家の国際競争力という点では国力を低下させる由々しき問題である。 そうした問題を制度やシステムだけで変えようとしても、「人」に対するかかわり方を変えないと、問題は繰り返されると指摘する。 本質は「人の問題、および組織の風土・体質の問題」なのだ。
 著者は企業風土・体質改革のコンサルタントを長年続けてきた方で、いろんな会社を見て、指導してきた。 環境と前提条件さえ整えば、働く人の内発的な動機を引き出すことは難しくない、というように本書では その環境と前提条件を整備して、組織風土・体質を変革する方法を説いている。 自分の会社や組織を変えたいと考えている人には是非読んでもらいたい。
 かつて「日本的経営のよさ」だった「コミュニケーションのよさ」「情報共有の密度の濃さ」を復活させる必要性があると言っているように、 簡単に言ってしまえば、それだけなのだ。 OJTが機能するような職場を作り上げ、価値観を共有していくことで働き甲斐を感じ、仕事への意欲や熱意が湧いてくるのだ。
 本書では新しいリーダー像を提唱していて、「スポンサーシップ」という言葉が出てくる。 従来のリーダーシップとは異なり、部下一人ひとりを主役にする演出や、黒子的・世話役的機能を果たす人だ。 部下と同じ目線で一緒に考え、答えをつくる。部下の主体性を強めて潜在的な力を引き出すようなリーダーシップである。 それが相互の信頼感を醸成し、モノを言いやすくし、社員個人個人が一歩踏み出す勇気を支える「セーフティネット」になる。
 第6章では「人の主体性を活かし、質の高いチームワークを機能させられるような会社へ変わるための5つの条件」を挙げている。 前出のスポンサーシップ、セーフティネットと、残り3つが世話人、参謀機能、コアネットワークである。 トップをサポートする「世話人」、その世話人がトップの思いを伝える「参謀機能」、その世話人たちのネットワークが「コアネットワーク」だ。
 また、第5章では「プロセスデザイナー」という風土改革のサポート役も登場する。 コミュニケーション不足の解消が変革の柱であるから、本業で忙しい中にも対話の時間が増える。それは覚悟しなければならない。 そのプロセスデザイナーの役割の一つは対話する場をコーディネートすることである。
・オフサイト・ミーティング(気楽に真面目な話をする場)
・スポンサーシップ研究会(幹部陣向けの場)
といった場を作ることを勧めている。そうした場を通じて組織の風通しをよくし、意思の疎通を良くする。 この変革により社員一人ひとりのモチベーションが上がり、能力を発揮し、また質の高いチームワークを作ることができれば、 その組織の競争力は高まり、価値が高まることが期待できる。
 また、変革しようとする組織の規模も様々だと思うが、「気軽に変革していくことにトライできる環境を整える」なら より小さな組織から始めてよいと述べている。小さな単位で低いハードルから始めればいいのだ。 日本人が自信を取り戻せば、日本はもっと元気になるはずだ。そのためにもまず自分の所属する組織から変えていく。すると会社が変わり、日本も変わっていける。

○印象的な言葉
・プロセスを作り込む:身体が覚え込むようにする。高品質のチームワークができるようになるまで反射的に動けるように鍛えていく。 作り込みに手間ひまかけた制度やシステムは生きている。
・明確に目指すものがあり、希望が目の前にあって、困難に立ち向かうだけの気力を奮い立たせる理由を見つけられたとき、 可能性を感じ、全人生をかけて必死になれたときに大きな力を発揮する
・気が付いたことは口に出し合い確認し合う。話し合いと学習の連続
・不平・不満はやる気の裏返し。健全な問題意識
・共感し合える場
・問題提起
・仲のいい喧嘩ができる組織
・善意で無意識のうちに悪事を働いている
・事実を直視し、現実と向き合おうとしない国に未来はない
・攻めの情報体質。オープンな情報。背景情報や周辺情報までも。
・経営と仲間に対する信頼感
・技能や知恵の伝承には対話が不可欠。分からないことを相談するプロセスが必要。
・問題が小さいうちにそれを見えやすくする
・夢を共有できる経営。現実を見据えて夢を語り合う
・仲間の掟。誇り
・西洋は「押す文化」、日本は「引く文化」
・外発的に人の意識が変わることはない
・互いにきちんと、厳しく向き合える関係
・変革の過程では対話の機会が増える。隠されていた問題が顕在化するため、最初は混乱が生じる。
・考える力は発散の中から生まれてくる
・仕事が考えることを省略した作業になっている

-目次-
プロローグ何によって人は動くのか ――「つくり込み」の変革
第1章 なぜ社員は主体性をなくしているのか ――内発的動機が失われた理由
第2章 閉塞感を打ち破る ――進化の「価値観」を共有しよう
第3章 不満分子の隠れたやる気 ――関心を内発的動機に変える
第4章 経営と仲間への信頼感 ――内発的動機が引き出される条件づくり
第5章 リーダーシップからスポンサーシップへ ――内発的動機を引き出すトップの役割
第6章 「仲のいいけんか」ができる組織 ――チームで内発的動機を喚起する
第7章 変革の新しい進め方 ――最小単位で成功例をつくる