読書メモ

・「水戦争 〜水資源争奪の最終戦争が始まった
(柴田 明夫:著、角川SSC新書 \760) : 2008.08.15

内容と感想:
 
世界的な異常気象による水不足が小麦や大豆、トウモロコシなど穀物の生産に影響を与え、また穀物のバイオ燃料への利用も重なって 飼料穀物の国際価格を押し上げている。 国連によれば「2025年に世界人口の半分が水不足に直面する」そうである。
 「湯水のように使う」日本にいると分からないが、世界では水を奪い合う紛争も勃発している。 今後も世界人口は増えていくことが予想され、新興国の経済発展により水需要は更に拡大すると予想されている。 日本のように国境を接していない島国では気づかないが、複数の国家をまたいで流れる国際河川というものがある。 河川を共有する国々の間の水資源問題は政治問題化し、戦争の原因にもなりかねないのだ。
 今は原油高騰や食糧高騰でそれらの資源の方が目立っているが、水は「エネルギーや金属、食糧にも増して資源化している」のが実情だ。 そんな情勢の中、水関連ビジネスの急拡大しているという。 そこには日本にもチャンスがある。 例えば「水処理膜を中心とする海水淡水化ビジネスが日本が得意とするところ」なのだそうだ。 本書には水関連ビジネスを展開する企業も数多く紹介されていて、これから投資したいと考えている人には必読だ。 先の洞爺湖サミット前は太陽電池や燃料電池など電池関連銘柄が注目されたが、次は水関連かも知れない。
 第3章には日本で比較的豊富な淡水資源が「原油をもしのぐ戦略物資となったときには、事業として十分成立する」と書かれている。 資源国では資源ナショナリズムが台頭していると言われているが、資源争奪戦争の中では日本には「水」という資源が武器になることを実感させられた。 今後、資源外交の中で上手く活用できるのではないだろうか。
 「あとがき」には水とは直接関係ないが興味深いことが書かれている。 2007年に起きた北米の養蜂業者のミツバチが大量に失踪した事件を取り上げている。その原因は今のところ謎だそうだ。 それに対して「群を構成する同じ種の間で資源の配分があまりにも不公正になれば、群全体に危機が及ぶということなのか」と感想を述べている。 著者はミツバチも人間も社会的な動物である点で共通点を見出している。 この一文を読んで年金問題や介護・医療・教育・地方の問題を連想した。いわゆる格差問題だ。

○印象的な言葉
・淡水の分布が世界的に「地域的・時期的に大きな偏りがある」
・地球上の水のうち淡水は2.5%。しかもその大半は極地などの氷や地下水。我々が利用しやすい状態にある河川や湖沼にある地表水は淡水のわずか0.3%。
・日本は食料の6割を輸入。ヴァーチャルウォーター(仮想水)の形で大量の水を輸入
・日本の河川からの水資源の利用は2割
・砂漠化の広がり、水源の枯渇
・汚染水。開発途上国の50%が汚染された水を利用
・水道事業の民営化
・資源は戦略商品、資源外交。資源価格に市場メカニズムが働かなくなりつつある。資源ナショナリズム。資源国が資源を自国の利益のため政治的に利用
・水には代替物がない
・不衛生な水、水を原因とする疾病。
・農業は最も多量に水を必要とする産業。水田や植物の葉からは絶えず水が蒸発する。地球上の淡水の7割(アジアでは8割以上)を使う
・原油採掘の際に油田の油層内部の圧力を高めるために大量の水の注入が必要になる
・砂油(タールサンド)から石油を回収するために高温・高圧の水蒸気を吹き付ける。大量の水を使う
・石炭の選炭のためにも大量の水を使う
・水紛争が頻発しそうな地域は使用量が急増しているアジア
・灌漑農業では地下水が大量に汲み上げられる。農業の大半は自然の降雨による天水農業だが、灌漑農業は食料増産に大きく貢献している。
・日本は地形が急峻なため、せっかく降った雨のかなりの量が利用されないまま海に流れ出る
・地球は過去から温暖化と寒冷化を繰り返している
・大気中の二酸化炭素の増加による海洋の酸性化
・塩害:乾燥した天候のもとでは土壌から水が蒸発すると作物の根の張っている地層に塩類が残る
・海水侵入:沿岸地域の地下帯水層に塩水が浸入
・食糧1トンを生産するのに1千トンの農業用水が必要
・飲料水企業は中国やインドなど新興国市場で著しい成長
・水を治めるものが国を治める
・使用した水を再処理した中水。海水淡水化、中水や産業排水の再生利用をまとめて造水。日本の工業用水の80%近くは中水
・水は将来、原油のように取引所で取引される商品となる
・人口8億人弱の先進国と、30億人のBRICs
・日本が食糧買い付け競争で「買い負ける」可能性。市場メカニズムだけでは解決できない。穀物市場は「薄いマーケット」
・穀物を輸出する国も、輸入する国も偏りがある
・日本は昔から水害と旱魃に苦しんできた。河川の水量が年間を通じて安定しないから。安定化を狙ったのがダム。 ダムもいずれ土砂に埋没して使えなくなる消耗品。耐用年数は日本では20年

-目次-
序章 世界各地で起こっている水資源戦争
第1章 枯渇の危機に瀕する水資源
第2章 地球温暖化がもたらす水と食糧の危機
第3章 巨大な利権とビジネスが動かす水
第4章 資源大量消費時代の到来
第5章 穀物をめぐる3つの争奪戦と穀物メジャーの戦略
第6章 水の超大量消費国・日本はどうすべきか