読書メモ
・「おもてなしの経営学 〜アップルがソニーを超えた理由」
(中島 聡:著、アスキー新書 \752) : 2008.07.28
内容と感想:
Apple社の成功の要因を「おもてなしの心」と捉え、その「おもてなしの重要さ」をテーマにした本。
著者はMicrosoftの日本法人や米国本社で、Windows95/98やInternet Explorer3/4の開発にも携わっていた方。
その著者がライバルとも言えるAppleを考察している。
第1章はその「おもてなし」を理解するAppleおよびスティーブ・ジョブズを、著者のブログ記事をベースに考察。
第2章は著者がソフト業界に入ってからの経験談を交えながらITビジネスについて語る。「月刊アスキー」のコラムからの転載とか。
第3章では2ちゃんの「ひろゆき」氏やMicrosoft日本法人の元会長・古川氏、Web進化論の梅田氏らとの対談。
ひろゆき氏と鍋をつつく写真や古川氏とiPhoneを見せ合う写真は笑える。
iPodのAppleに出来て、なぜソニーに出来なかったかについて、こう書いている。
メディア産業を有し、ブランドがあり、ネットビジネスに抜群のセンスを持つ出井社長(当時)を据えたソニーはAppleより遥かにいい立場にいたはずだが、
スーツ族(文官)がギーク族(技官)の心を掴むことができず、出井氏のビジョンを実行できなかった、ギークを動かせなかった、と。
一方、エンジニアでないAppleのスティーブ・ジョブズはギークの心を掴むのが天才的にうまい、と。
その「おもてなし」だが、「user experience」の訳語として使っている(おもてなしを英訳したのではない)。
それを実現しているのはソフトウエアとサービスの組み合わせだが、ただの組み合わせではなかった。徹底していた。
user experienceを「今までになかったレベルにまで高めた」ことが勝因だ。
また、iPhoneを芸術品と讃えた上で、その素晴らしさは「ある意味では日本人が本来得意であった刀や蕎麦で実現してきた、
職人が魂を吹き込んで作るというものづくりの姿勢にあるのではないか」とも言っている。
日本のメーカーのエンジニアも分業化が進み、そのような職人気質を失ってしまっているかも知れない(そもそも継承されていない?)。
その著者はOffice製品を買わなければデータを表示できないようにユーザを束縛し続けるなんて、「いずれダメになると感じて」Microsoftを退社。
退社後は、組み込み機器向けのソフトウエアを開発する会社を立ち上げている。時代の「大きな流れ」をよく見極めている人である。
また、MBA取得にチャレンジ中とも語っているが、それを話題に取り上げて、
梅田氏との対談の中で自分に対して投資し続ける動機を「エンジニア30歳引退説」にあると言っている。
それが「人生のライバル」になっている、と。
最近はJavaScriptを書いて、オープンソースで公開し、自分を晒すことで自分を鍛え、今の技術から遅れないようにも努力しているそうだ。
向上心も維持し続けている人だ。
著者のブログには多くの人が集まりコミュニケーションがとられているらしい。それはかつての私塾に匹敵するのでは、というのは興味深い。
ネット時代の新しい教育のあり方を示唆しているように感じた。
○印象的な言葉
・ソウル(魂)のあるものづくり
・熟練工のクラフトマンシップ。仕事に対する誇りや愛着
・教室に通わなきゃ使えないようなものを作ってしまった
・Microsoftのカルチャー:目標は勝つこと
・設計者の自己満足のためだけに追加された機能、ありがた迷惑な過剰なサービス
・iPodやMacBookは台湾のQuanta ComputerやASUSTeK Computerが製造
・「ソフトウエア+サービス+デザイン+おもてなし+ブランド力」で徹底的な差別化。部品と製造は外部に頼る
・小さな感動、新鮮な驚きを与えよう
・ビジネスのことがわかる技術者、ITのことがわかる経営者
・新しいものをゼロから作ることに関しては米国にかなわない
・建設業界の場合、99%のクリエイティブな作業は設計終了の段階で既に終わっている。コストや強度をかなりの精度で見積もることができる。
ソフトウエアの場合、すべてが設計作業。
・Web2.0:インターネットの再評価。他の人とすながるためのツールとしての再認識。本当の価値は他の人たちにある
・縮小しつつあるパッケージ・ソフトウエア・ビジネス。OSのコモディティ化
・Webアプリ:流通コストはゼロ。試しに使ってもらうことが容易。簡単に試せる即時性
・NGN:ユーザのニーズが明確でないままインフラと技術だけが先に進む、典型的なイノベーションのジレンマ。
NGNを引くことが目的で、その上で何が走るのか考えていない
・アジャイル:市場が必要とするものを効率よく作りたいというエンジニアの叫び
・売り切り型ビジネスの厳しさ
・午後5時に帰ることができて、ちゃんと利益を上がられる会社であれば、それはそれで価値がある
・Microsoftのやると決めたら突き進む突進力。Microsoftの役割はベンチャー企業ができないことをやること
・知らないことは知らないとちゃんと書くか、調べて書く
・IT企業で上場する必要性のないところは多い。上場してお金を集める理由は少なくなっている
・時代を創っているという雰囲気
・ハードウエアがあってこそソフトウエアが進化する
・とんがった人に、そのとんがったものを何かにぶつけてごらんと促す
・上(上司)を見て仕事をする人。天(お客様)を見て仕事をする人。
・ユーザの満足度に応じて価格を変える。ユーザが得た利益の対価としてその何%かを還元していただく。ソフトウエアをサービス事業に変える
・企業が停滞すると政治的な動きが目立つようになる
・外資に対抗できる投資銀行を日本で育て、国内でお金を回して価値を生み出せるように市場を最適化
・どんなにいいプログラムを書いても市場で受け入れられなければどうしようもない
・全世界の人に使ってもらいたいという欲
・価値を生み出していないところに自分を置いていてももったいない
・目に見える個々の事象の間を補完して大きな流れを自分なりに目に見える形にして理解する
-目次-
第1章 おもてなしの経営学
第2章 ITビジネス蘊蓄(うんちく)
第3章 特別対談
Part I 西村博之 ニコニコ動画と2ちゃんねるのビジネス哲学
Part II 古川 享 私たちがマイクロソフトを辞めた本当の理由
Part III 梅田望夫 「ギーク」「スーツ」の成功方程式
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