読書メモ

・「中国は敵か、味方か ―21世紀最大の市場と日系企業
(莫 邦富:著、角川oneテーマ21 \686) : 2008.09.07

内容と感想:
 
著者は上海出身のジャーナリスト。 本書は日経BPのサイトで連載が続くコラム「莫邦富の中国ビジネス指南」がベースの本である。 タイトルだけ見ると、日中の対立を煽るような内容かとも思われるが、きっと出版側が読者の注目を引くために付けたのだろう。 本書の内容は中国ビジネスをテーマにしたもの。著者は日系企業の中国進出をウォッチし続けてきた。 その中国でのビジネス事情を知ることができる一冊。
 先日、北京五輪が終わったばかりだが、急速な発展で力を付けて来ている中国。 外交や軍事で独自色を打ち出していることから日本でも中国への警戒心が高まっている。 しかし著者が言うように「中国を敵視するあまり、本当に敵に回してしまう恐れ」がある。 私は日本のリーダーたちがそんな愚かなことはしないと楽観視しているが。
 第二章の最後では「日本は依然として中国の学ぶ対象である」と言ってくれている。 「日本には学びきれないほどの経験、ノウハウ、成功体験がある」からだ。 しかし、ある調査によれば中国日系企業の存在感は低下の傾向にあるという。 中国市場では日本製品が急速に減っているらしい。 家電製品は安い台湾製や韓国製、中国製にシェアを奪われている。 日本メーカーの製品がブランドだけで売れる時代はとっくに過ぎ去っているようだ。 「政冷経熱」という時期は過ぎ、「経済分野にも寒波の近づく足音が聞こえてくる」と言っている。
 一方で著者独自の調査では中国人の「日系企業のサービス(服務)の質の高さに対する評価」は高いらしい。 まだ中国企業には「サービス」に対する意識が低いのかも知れない。しかし彼らも貪欲に日系企業に学び、すぐに追いついてくることだろう。
 また、中国では急速な経済発展と引き替えに深刻な環境破壊が進んでいる。 これは「省エネ、クリーンエネルギー、環境保護関連分野の日系企業にとって大きなビジネスチャンス」であると著者は見ている。 地球温暖化問題などで世界的に環境問題意識は高まっているが、家電で市場を失った日系企業が中国で存在感を示せるとしたら、あとは環境ビジネスしかないのだろうか?

○印象的な言葉
・2007年春の中国・温家宝首相の訪日は、中国の首相としては7年ぶり。日中間にできてしまった「氷」(政治的空白)
・対中ビジネスを政治的地震から守る「耐震型構造」にする企業努力
・日中のアジアの主導権争い。二強時代
・東アジア経済共同体、アジア連合、アジアの共同通貨
・東芝の企業市民活動:植林、学校建設、奨学金設立、恵まれない学生に辞書を寄付、環境保護基金設立、テレビ番組や音楽祭のスポンサー、ごみ拾い、学校への寄付。 嫌味なく、さりげなく、しかし消費者の目に見える形で。
・中国在住の日本企業社員の自殺:日本本社の無理解、不勉強、でたらめな指揮
・一葉落、知天下秋:小さな兆候から全体の形成の変化を見て取る
・谷歌(グウコー):Googleの中国語訳
・中国労働者の権利意識の向上、増える労働争議事件
・春節の時期には一週間以上休暇をとる。地方出身者のほとんどが帰省し、大移動が起きる。5/1のメーデーからの一週間、10/1の国慶節の一週間にも休暇をとる
・中国の大学生は就職氷河期。卒業生が急増。大学定員拡大の影響で大学教育の質も低下
・地方都市への企業進出のメリット:安定した労働力の供給。地元の人は安易に会社を辞めない。安定した仕事を求める。安心して社員のトレーニングに取り組める
・支払日をきちんと守る日系企業
・日系企業の下請けをすることで製品の品質管理や納期管理の意識が変わり、それが評価されると利益率の高い欧米企業から受注するように方向を変える。
・ただコストダウンを求める日系企業とは長く付き合えない
・会社の制度や規則の制定と実施においては性悪説が基本
・監督されない権力は腐敗する
・日本の金融機関の外国人に対する根強く陰湿な差別
・食にこだわる中国人。香港ディズニーランドの評価の低さの原因は食事のまずさも
・同じ製品を作るために中国では日本の7倍の原材料を費やしている
・2006年に海外旅行した中国人のうち日本に来たのはわずか2〜3%
・製造技術は人類の資産。一社のものではなく人類共通の資産と考える
・日本の対中国投資の大半は長江デルタ経済圏に集中
・創新:中国語でイノベーション
・UAE(アラブ首長国連邦)のドバイはフリーポート。石油産業依存からの脱却を目指す。中東における金融と流通および観光の一大拠点を目指す

-目次-
第1章 日中「二強時代」の幕開け
第2章 日経企業は「耐震型ビジネスモデル」をつくれ
第3章 中国経済と労働市場のトレンド
第4章 中国における日経企業の評価
第5章 日系企業の勝機はどこにあるか?
第6章 大きく塗り替えられる海外進出の地図