読書メモ
・「もう、国には頼らない。 〜経営力が社会を変える!」
(渡邉 美樹:著、日経BP社 \1,300) : 2008.08.23
内容と感想:
タイトルにある「国」とは公の意味での日本国である。
つまり官僚主導で運営されている日本国家を指している。
頼らない、というより頼れない、当てに出来ない世の中になっている。
本書はそうして腐ってしまったこの国の「公」の仕組みにノーと言う日が来ていることも象徴している。
「和民」の社長でも知られる著者は現在、「民」の立場で教育、医療、福祉・介護、農業、環境といった、より公共性の高い事業に挑戦し、
一定の成果を上げておられる。本書はその中間報告書ともいうべきもの。
我々国民は公共サービスを誰もが等しく受ける権利を持っている。
そうした公的な事業が崩壊の危機にあるのが今の日本である。
原因は政治・官僚が手を出し、口を挟み、自由な競争を阻害している社会だからだ。
病院では医師不足、看護士不足、介護・福祉の現場では低賃金と過重労働、学校では教師が心身症、農家では後継者不足と高齢化、過疎化、生産調整、食料自給率の低さなど、
問題だらけである。国民の不満、不安はピークに達している。政治(政権)も有効な対策を講じられていない。
そうした状況に強い問題意識をもつ著者は、官僚任せでは日本の未来は暗澹たるものとの危機意識がある。
「官」に足りないのは経営力、経営センス、経営的思考である。
経営を知らない人たちが経営をしているのだから失敗するわけである。
「官」がコントロールする市場では競争は生まれない。経営努力のないところにはサービス向上は望めない。
つまり思い切って「民」に任せろ、と言っている。また同時に、著者のように志のある民間からの更なる公的サービスへの参入を促している。
著者は「消費者(=国民)主導による、直接民主主義」という言葉を使っている。
消費者には自分が必要としているものを、価値観に見合ったプライスで購入する能力がある。
当然、期待はずれな商品やサービスは二度と欲しくない。
公共サービスも消費者が選択できなければ、品質の良いものは生まれないのだ。
そんなサービスしか受けられない国民は不幸である。だから今の日本では不満が溜まっても仕方がない。
しかし今まで我々は「官」に頼りきりだったし、甘えていたとも言える。
不平不満、文句を言うだけでは何も変わらない。いま行動に移さねばならない。声を上げねばならない。
○印象的な言葉
・我々が預けた税金の使い道を官僚に恣意的に決めさせて良いのか。国民から選ばれてすらいない官僚
・官の役目は行き過ぎた市場経済にブレーキをかける枠組みを作ること。市場に不公正がないか監視。不幸な人が出ないようにセーフティーネットを設ける。
・消費者至上主義、お客様第一主義
・教育委員会の理念:教育の場で国の権限を小さくすること。教育が政治や政党にとらわれてはいけない。市民がガバナンスする。
・規制のない市場では消費者の要求水準は高くなり、消費者として成熟する。消費者が企業を育てる
・手を抜いたら、うちの商売は終わる。顧客は騙せない。顧客は最善の選択をする
・市場主義もお金もあくまでツールである
・会社の株価が上がるのは経営を認めてもらっている証拠、ご褒美のようなもの
・株主は経営理念に賛同する人であり、理念を共有する同志
・「公」の仕事をする資格:国民のことを第一に考える。国民から預かったお金を無駄にしない。仕事内容を国民がチェックできるように情報公開。
国民を裏切る行為には処罰する厳格なルールの存在。
・教育を受けることは消費よりも投資に近い。結果が出るのはあくまで未来
・将来幸せになるための最高の教育
・10万人は救えなくても目の前の1人を救うことはできる
・硬直した枠組みから一歩も出ることができない、決まったことしかやらない・やれない。究極のマニュアル人間
・再生のためにどこまで壊すか
・夢に応えてあげられる学校
・教師に子供が見えていないから「いじめ」が起きる。子供にも悪魔のような側面がある
・情報がないと人間は不安に思う
・ときには(理由を説明せず)ダメなものはダメだという。損得で脅かしてもいい。信念をもって言い切る。「お前が大切だから」
・腕のいい医師が病院の最大の経営資源。仕事をしやすい環境整備、設備投資も必要。
・秀でた才能を持った人間を見出し、その人をブランド化
・人生の先輩であるお年寄りの誇りを保ち、尊敬、思いやり、いたわりに欠ける介護・福祉現場
・要介護の高齢者が30万人も順番待ちする特別養護老人ホーム。一部自己負担。
・入居率70%以上で採算がとれる介護施設。支払いが安定しており、投資先としては安定
・国そのものがお年寄りを親として扱う
・鶏糞を原料にした有機肥料。循環型農業の可能性
・食料の安全保障。先進国が経済力にものを言わせて発展途上国から食料を巻き上げるべきではない
・官が守っているのは日本の農業ではなく、農協や農家。減反、転作奨励金が農家のやる気をなくす
-目次-
第1章 経営力が社会を変える!
第2章 経営力が、学校を、病院を、福祉・介護を、農業を、地球環境を変える!
ケーススタディ1 経営力が学校を変える
ケーススタディ2 経営力が病院を変える
ケーススタディ3 経営力が老人ホームを変える
ケーススタディ4 経営力が農業・地球環境を変える
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