読書メモ

・「爆発するソーシャルメディア
(湯川 鶴章:著、ソフトバンク新書  \700) : 2008.05.10

内容と感想:
 
最近流行のSNSは「Social Networking Service」というくらいだからタイトルのソーシャルメディアの一種である。 ソーシャルメディアの特徴は、表現(クリエイティビティ)、つながり(コミュニティ)、などにある。 「ソーシャル=社会的な」と捉えるなら従来の新聞、ラジオ、テレビもソーシャルメディアと言えそうなものだが、そうではない。 従来のマスメディアは既にソーシャルな立場にないと否定されているのかも知れない。
 ソーシャルメディアというと広い意味になるが、ブログやポッドキャスト、WikiPedia、動画共有サイトYouTube、3D仮想空間のセカンドライフ、なども それに含めることができるらしい。写真共有やソーシャル・ブックマークなんていうサービスもある。
 第五章ではGoogleを図書館に、ソーシャルメディアを公民館に例えている。 そこではカルチャー教室がいくつも開催され趣味のサークルがいくつもある。そう言われると何となくイメージできるだろう。
 そういえば米国大手SNS事業者であるFacebookは5/19に日本語版サービスを開始したばかり。 同サービスは登録ユーザー数が7千万件を超す巨大なSNSサービスだ。既に日本ではmixiなどが大きなシェアを持っているが 果たして成功するだろうか?
 こうしたソーシャルメディアは放送局、映像ジャーナリズムとしても機能し、時には政治も動かす大きな影響力をもつだろうと言われる。 台頭するソーシャルメディアが権力の一極集中に対する安全弁になる、とも指摘している。 既存のマスメディアが権力側に付き世論を操作し、広告主の機嫌を窺いながら、既得権益を守り、 国民の目線とはズレた報道をしていることに対する不満が ますますソーシャルメディアに向かうことは必至だ。
 ケータイを初めとするモバイルデバイスからのブログやSNSへのアクセスも増えているという。 個人が発信する手段の拡大でますます個人の発言力が増し、従来のマスメディアによる情報操作は困難になっていくだろう。 政治不信が続く中、政治家も自らを律しないと、国民の支持は得られないと自覚する必要がある。 悪い噂はネットですぐに広まる。嘘をつけば、また悪事をなせばすぐにバレるものだ。 お天道様は見ているというが、国民がどこで目を光らせているか分からないと知るべきだろう。
 著者はタイトルにあるソーシャルメディアの爆発が、人々のクリエイティビティまで爆発させるという思いで本書を書いた。 Webの進化で個人が自己表現する場が広がった。個人が力を得て、個人にパワーがシフトしている。それがより高度な作品作りに発展していくのではないかと著者は期待している。 それは彼自身が「人間は表現するために生きるものだ」と考え実践してきたことが大きいようだ。
 興味深かったのは新聞もソーシャルメディア化しようとしているというもの。 産経新聞は参加型Webの仕組みを取り入れている。 記事をブログ化しトラックバックも受け付けている。新聞社も紙媒体の定期購読者のみに依存するビジネスモデルからの脱却を模索しているようだ。 新聞社や記者にはどこに自らの価値を示していけるかが問われている。

○印象的な言葉
・その道の通の薀蓄 ・ソーシャルメディア運営者の役割:ある程度の「表現の枠組み」を提供し、ユーザが表現しやすいようにテーマや選択肢を与える
・mixiでも荒しや炎上、コミュニティ乗っ取りなど問題を抱える。招待制だから安全とは言えなくなっている
・米マイスペース:音楽系SNS。インディーズやアマチュアミュージシャンの交流の場。チケット販売と連動させたり、プロモーション活動にも活用
・LinkedIn:求人求職に特化したSNS。職歴や得意分野を公開。リクルーティングに利用
・細分化する専門SNS。議論を深めたり、新たな知見を得たり
・タグクラウド:文字の大きさで視覚的に人気度が分かる
・公開範囲のコントロール
・地域の中核を新聞が担う
・ケータイ名刺で名刺交換
・モバイル向けサービス:PC向けでは提供できないサービス
・ビデオコメント:動画でコメントを付ける
・消費者はマス広告を信用せず、その効果は低下している
・投稿者のインセンティブ向上のため、クリエイターに対価を支払う仕組み。高画質化
・ディープタギング:ファイル自体を加工することなく、本来テキスト情報のないところへタグを付けられる。ファイルは別のサーバにあってもよい
・IBMの「vビジネス」:Virtual reality(仮想現実)の「v」。運転教習所の3Dシミュレータのような教育分野での利用。 3Dが向いているアプリケーションをきちんと選ぶことが重要。2Dのほうが分かりやすいことも多い。
・セカンドライフの秩序:セカンドライフ内の住民が自治政府を作り法律を作るべきという意見も。新たな政治制度の実験の場にも。
・車両感覚:意識が自動車と結びつく感覚。車が身体の一部になった感覚
・近未来予測の手法:究極の姿を想定してから、近未来を予測する。究極の未来の予測は難しくない。既に方向性が見えていることが多い。 その方向性の延長線上に近未来の姿が見えてくるはず
・弱いニーズ:「そうなればいいなあ」
・マルクスの教え:労働には「人間の本質の実現」という性質がある。人間は3つの喜びを得るために生きている。 自分を表現する喜び(信条、生き方)、それを他人が理解し評価してくれる喜び、他人の表現を理解・評価できる喜び(一体感)
・近代化の3局面。威のゲーム(国家化。国家が主体)⇒富のゲーム(産業化。企業が主体)⇒智のゲーム(情報化。個人が主体)へ。
・人々は経済力よりも智の力による影響力の行使を求め始めている。財力によって人々を動かすことは難しくなる。 社会の中で影響力を持つために他人を説得し動かすための智力、他人に尊敬されるような智力が必要
・小説「1984年」(1949年作品):超管理社会の恐怖がテーマ
・便利さには抗えない
・「あちら側」で大きな存在感を示すGoogleに対して、「こちら側」の優位性を得る。日本は携帯電話や家電技術といった「こちら側」では世界のトップレベルにある
・具体的な個人情報を入手しなくてもユーザの属性は分かる。多くのユーザはプライバシーよりも利便性を選択している
・多様化する検索ニーズに応えるために無数のニッチな検索エンジンが開発される
・SNS世代は情報を調べるときに検索エンジンでなくSNSで詳しい人を探す

-目次-
序章 「表現」そして「つながり」のメディア
第一章 進化するソーシャルメディア
第二章 「動画共有」はソーシャルメディアのインフラになるか?
第三章 セカンドライフという衝撃
第四章 爆発するクリエイティビティ
第五章 グーグルvsソーシャルメディア