読書メモ

・「シリコンバレー精神 〜グーグルを生むビジネス風土
(梅田 望夫:著、ちくま文庫 \640) : 2008.10.06

内容と感想:
 
1996年秋から2001年夏にかけてのシリコンバレーを描いた本。 もともとは著者が親しい日本の友人や自分自身に向けて月に一通「シリコンバレーからの手紙」を書いたのが始まり。 その60通ある手紙を4つのテーマで再構成し2001年に出した本の文庫化。
 サブタイトルにあるグーグルの名は元の単行本にはほとんど出て来ないが、 この文庫向けに2006年に加筆された「文庫のための長いあとがき」で登場する。 その後のグーグル社の成長振りは誰もが知っているとおりだ。また2001年はネットバブルが崩壊した年であるが、同年にはiPodも登場している。
 そのシリコンバレーという場所をいろんな言葉で表現している。
・天才たちが夜を日に継いで働き、富を創り出している場所
・一握りの成功企業とたくさんの敗残企業
・メジャーリーグのような思想と環境
・ギアがトップに入りっぱなしの休まらない人生
・ハイリスク型の研究開発と市場創造はベンチャーの激烈な競争に任せ、その淘汰の挙句に生き残った強いベンチャーのみを強い企業が買収
・ナード(nerd)を大切に扱ってきた、同時にナードを利用してきた
などなど。
 アメリカ国内でも特殊な場所というから、我々日本人が想像しても夢のような別世界に感じてしまう。 私にはイノベーションを起こし続ける場所というイメージjが強いが、日本も今後はシリコンバレー型のイノベーションを刺激する政策を強化していくべきだと思う。 また日本でもナード(geekとも呼ぶ)を大事にしていく風土が必要だろう。
 「文庫のための長いあとがき」の中で「未来がどうなるのかは全くわからない」現在のような環境でどう生きるべきかについてこう記している。 「限られた情報と限られた能力で、限られた時間内に拙いながらも何かを判断しつづけ、その判断に基づいてリスクをとって行動する」と。 その「未来志向の行動の連鎖を引き起こす核となる精神」をタイトルにある「シリコンバレー精神」と呼んでいる。 その他には底抜けのオープン性、実力主義、アンチ・エスタブリッシュメント的気分、開拓者精神、楽観主義、、行動主義などが交じり合った、 とも表現している。腕に自信のあるものには挑戦しがいのある魅力的で刺激的な町だ。
 当の私には憧れはあっても、そんな大それた自信も意欲も足りなかった。情けないが日本を飛び出すほどの気概にも欠けた。 本書からはシリコンバレーの香りを嗅ぐことができ、今後の生きる糧や刺激になった。
 著者自身の文章表現について「その時点その時点で自分なりの判断を下し、苦しくても断定する表現を心がけてきた」と書いているように 断定表現にこだわっている。そこには自らに緊張を課し、反省を促すためだとしている。それが人を成長させると考えているからだ。 モノを書く立場としての覚悟を感じた。

○印象的な言葉
・世界の片隅にあって小さく輝いていた「天気のいい田舎町」
・産学一体の伝統・スタンフォード大学
・価値を生み出すのは会社でなく個人
・起業家主導型経済
・Linuxが資本主義に飼いならされていく。期待感は失望感へ
・グローバル化とIT革命により個人が市場に直結する厳しい時代に
・Quality of life
・日本企業を支える中堅技術者に疲労の色が濃く、新しいことに対する感受性の衰え
・新しくて面白い事業や技術の種
・ビジネスというルールのある世界でのゲーム
・いい加減な遊び感覚
・皆、自己責任の原則で集まってきている
・アメリカの無邪気な進歩主義
・知識集約型産業、頭脳至上主義
・IT革命:IT化が進行して、ある臨界点を超えたとき、ITインフラが爆発的な破壊エネルギーを生み出す土壌に変化
・公開企業の存在意義:成長性と収益性を維持し続ける強い経営力
・意味のあることを成し遂げた人物として記憶されたい
・社会主義の良質な部分を信じる自然な気持ち
・Microsoftのコア・コンピタンス(企業の核となる競争力の源泉):大規模ソフトウエアを組織的に開発する力。同社だけが持つ
・ビジョナリー:将来についての洞察に優れたオピニオン・リーダー
・会社規模の成長よりも仕事の質を重視
・シリコンバレーの会議は短い。会議は非生産的で必要悪。次の会議までの宿題を受け取るのが目的
・自分の思い通りにならない現実を乗り切っていく逞しい実力
・アングロサクソンの「マドル・スルー」の状態をプロセスとして楽しむ骨太の行動文化
・自分ひとりで物事を判断して行動することに慣れ、行動の責任さえ取れば大抵のことなら何をやってもいい。自由を得た

-目次-
1 シリコンバレーの基本を体感する
2 ネット革命とバブル崩壊 ―同時代体感的ネットバブル考察
3 マイクロソフトとリナックス(Linux)
4 シリコンバレーは私をどう変えていったか