読書メモ
・「世界金融経済の「支配者」―その七つの謎」
(東谷 暁:著、祥伝社新書 \750) : 2008.04.28
内容と感想:
タイトルだけ見ると世界金融経済を支配する特別な何者かの存在について書かれた本だと想像するかも知れない。
例えばユダヤ人が牛耳っている、とか富豪や財閥といった一部の家系による陰謀など謎めいた話がされることもある。
実際には何が今の世界経済を動かしているのか、誰が支配者なのか、に迫った本。
「証券化」がキーワード。
企業の資金調達が証券や債権によって行なわれるようになってきた。
これまで資本市場では取り扱われなかったものまで証券や債権とみなされて売買されるようになった。
例えば住宅ローンの証券化や債務・不良債権の債券化などだ。
あらゆる資産がこの証券化によって金融市場がバーチャルになった。様々な「権利」が分割可能な数字に変換され、経済がウェブ上に移って来た。
資産はリアルな世界から切り離された。そしてバーチャル・マネーは国家から金融の主権を奪った。
そのため国家が管理することが難しくなった。金融が経済を支配するようになった。
バーチャル・マネーは「規模と力が強大」である一方で、「気まぐれで移ろいやすく、噂や予期しない出来事に出会うと、簡単にパニックに陥ってしまう」。
現在の世界金融経済の主役は投資銀行だ。M&Aで儲けている。しかしそれもサブプライム・ローン問題で揺らいで来ている。
結局、それも証券化ビジネスの負の面が引き起こした結果だ。
執筆時にそれを考慮していたかどうかは分からないが、今後、世界の中でのアメリカの唯一の超大国の立場は後退し、世界は多極化に向かい、
それに伴って通貨も多極化、
今の「アメリカの圧倒的な優越性が動揺する」のは2020年ではないかと著者は予測する。
2020年頃には「現在のグローバリズムは後退し」、「ブロック化が模索されているだろう」と言う。
そのときの日本のイメージを著者はまだ描き切れていないようだ。それは未だ日本が政治的には「半主権的」な地位にあり、
そこからの脱却を図ろうとしていないからであり、政治・軍事について独自の見通しを持つことも困難だから、と言う。
つまり一人前の国家ではないから、ということだ。巻末に書かれているように「日本の国家としての在り方」が今、問われている。
第七章では日本政府が「事実上は売れない(アメリカ)財務省証券(米国債)を買い続ける不自然さ」に国民は疑問を覚えるべきだ、とも。
これは日本がずっとアメリカに貢いできたことを示している。それをアメリカに従属しているというのか、支えているというのかは別として、
本当にいつまでも続けていていいのか考える時期が来ているのではないか?
日本人は節約して家計を切り詰め、せっせとアメリカに送金し、アメリカ人は借金をして人生を謳歌している。そんな関係でよいのか?
そんな矛盾が爆発するのが2020年かどうかは分からない。その頃、経済の支配者は変わっているだろうか?
○印象的な言葉
・証券市場というカジノ。今のアメリカ人は射幸的で、投機的文化が根付いている
・旧日本長期信用銀行は清算してみると債務超過ではなかった。それをわざわざ潰して巨額の税金を投入し、外資(リップルウッド)に安く売却した。
しかもリップルウッドが新生銀行の上場の際に得た売却益に課税できなかった。
・M&では周辺ビジネスが寄って集って手数料やアドバイス料を手にする
・アメリカはカネを作って儲けている。そのカネはアメリカへの信頼だけが支えている危うい仕組み。政治力と軍事力で維持。
・GEのジャック・ウェルチの経営は単純な株高経営。グループで儲けが多いのは金融部門。家電製造業から多角的金融業になった
・独仏では外国企業による国内企業の買収には政府が介入する
・英国では買収は現金で
・ユダヤ人同士の利害が食い違うことは少なくない
・アメリカ民主党はウォール街と折り合いがいい
・アメリカは経済的損失を承知で、ドルを政治の道具として使っている。ドルが過剰に世界に流通してしまった
・アメリカは中央集権的な制度に対して、伝統的に警戒心が強い
・グリーンスパンはどっちにでも取れるような話をして、ウォール街の反応やマスコミの報道を注意深く観察した
・投資の民主化こそ、アングロ・サクソン型経済の強さ
・シリコンバレー型ビジネス:一般市民を巻き込んで投資資金を膨らませ、失敗すれば市民につけを回す。ババ抜きゲーム
・日本の戦後の経済成長は、戦後にアメリカの技術を多く譲り受けて初速をつけられたから
・中国の過去の歴史では200から300年ごとに矛盾が蓄積すると全面的崩壊に向かう
・シンガポールはリー一族の私有物のような国家。華人の中の客家系の人たち
・中国の国営4大銀行の総資産にはかなりの割合の不良債権を含む。
・ドルの7分の6はアメリカ国外で流通。アメリカ人は稼ぐ以上に消費している。ドルはいつ暴落してもおかしくない。日本は今も米債券を買い続けている。
・ドル暴落の危険があると阻止しようとする力が働く。ブラックマンデーのときにドルが暴落しなかったのは日本政府がドルを買い支えたため
・経済低迷を続けていたはずの日本は米国債を大量に買い続けている。買った米国債は実際にはアメリカ財務省に預けたままで、売却するのは政治的に極めて困難
・世界の経済は「ウォール街=アメリカ財務省複合体」に動かされている
・イラク戦争でアメリカは明瞭な勝利を得ることは難しい。自己満足的な撤退が待つだけ
・ピーター・ドラッカー:経営のグル(導師)。金融中心のグローバリズムには懐疑的だった。
市場に任せれば自由と繁栄が保証されるとは思わなかった。人々が知恵を出し合う産業社会を形成して初めて、自由と安定が得られる。
・それが何に使われるか分からない部品だけを作る企業で働くことは自由とは思えない
-目次-
プロローグ いま、世界経済では何が起こっているのか
第1章 M&Aは、世界経済を効率的に改造するか
第2章 世界金融を支配しているのは、本当にユダヤ人か
第3章 中央銀行という「世にも不思議な物語」
第4章 グリーンスパン前FRB議長は、「神さま」だったのか
第5章 アングロ・サクソン型経済は無敵なのか
第6章 中国経済は、アングロ・サクソン経済を圧倒するか
第7章 基軸通貨ドルが下落するのは、いつか
エピローグ 「運命の日」以後の日本経済
|