読書メモ

・「資源世界大戦が始まった ―2015年日本の国家戦略
(日高 義樹:著、ダイヤモンド社 \1,400) : 2008.08.25

内容と感想:
 
序章にあるように石油をはじめとする天然資源の価格が高騰、ロシアは石油を政治的な武器にしてアメリカに挑戦し始めた。 著者はこうした状況を「国家利益が激しく対立した1930年代の世界を彷彿とさせる」と感じている。 ロシアだけでない。EUや成長する中国やインドなどとも資源をめぐり対立がある。
 サブタイトルの「2015年」というのはアメリカ国防大学の報告書で発表された「2015年とその後」についての研究から来ている。 そこには本書のテーマである世界的な資源獲得争いの激化が予測されているようだ。日本もそのプレイヤーの1つの大国として規定されている。 そんな大国と大国が衝突する中で日本は生き残れるのだろうか?資源に乏しく海外依存度が高い日本は資源を確保していけるのだろうか?
 著者はそれに関して、こう言っている。これまで「天然資源の争奪戦は軍事力によって勝ち負けが決まってきた」。 「これからは経済と科学の力で勝ち負けが決まる」のだと。 そこでは「お金が力」になり、「日本が大国としての立場を確立しやすく」なる。 まったく悲観することはないということで心強い限りだが、今のままでは危うい。 日本に出来ることは経済大国としての力を活かすことと、日本人の得意技であるモノづくりを活かすことだ。 日本国民がもつ膨大な貯蓄を技術開発投資に回し、それを武器に世界と渡り合うしか生き残りの道はない。
 タイトルは「資源世界大戦」とオドロオドロしいが、そこで日本が生き残るためには3つの選択肢がある、と最終章に書かれている。 1つは核兵器をもち軍事的に独立独歩でいくこと、1つはアメリカと対等な同盟国となること、最後の1つは中国に頼ることだと。 どれを選択するのも自由だと言うが、大国としての現在の生活水準を維持または向上させるためにどれが一番の選択かを国民もよく考えなければならない。 日本の指導者も国の進路を誤ってはいけない。 最後に「美しい日本」「とてつもない日本」というどこかの政治家の言葉を「空虚な主張」と言っているのは痛快だった。

○印象的な言葉
・経済大国日本は大国の自覚をもつことができない。自ら過小評価してきた
・北極圏の石油争奪戦。海底に眠る石油は世界に埋蔵されていると推定される全石油の1/5
・北極圏は国際慣例では公海。いまだ測量も十分に行われていない。
・地球温暖化で北極圏の氷が解けて流れ出し、ヨーロッパの海域の温度が急速に下がっている。 氷がなくなり航行が容易になった。北極圏航路なら欧州から日本にいたる距離はスエズ運河を経由するより5千海里短縮される。 海上輸送運賃は1/3になる。
・核施設や放射性物質の貯蔵施設の攻撃は核攻撃と同じ軍事的効果。世界には430余りの原子炉があり、全世界の電力の16%を作り出す
・日本は国土が小さいため「被害吸収能力」が極めて小さい。核ミサイル攻撃の被害を吸収して生存することがほとんど不可能。 国民の1/3が関東の一角に密集している。
・アメリカで新聞を読む人の数が国民の35%にまで減少(2006年)。新聞が二流のメディアになってしまった。権威のあるものの見方がなくなった
・アメリカ民主党は「戦争反対」と言うだけでは国民の支持を得られない
・「9.11」の後、CIAは格下げされ、国土安全省を中核にすえた
・安倍元首相や麻生元外相が言う「戦後レジームの解体」とは戦前のような政権を作ることなのか?説明不足によるアメリカの猜疑心
・科学技術の時代には人口が多いことが国として有利は立場を維持することにつながらなくなっている。戦争のやり方も人口数で決まらなくなってくる
・日本はその場しのぎで移民を入れるのではなく、税金や国民の貯蓄を無駄遣いせず、新技術に投資すること。 日本には莫大な技術開発費と投資をまなかう貯蓄がある。新時代の始まりに備える
・マーケットの時代:マーケットは軍事力では決まらない。技術と製品で決まる。モノづくり、かつ整然とした組織作りに優れている日本には有利
・アメリカ人はアイデアを出すことが得意。そのアイデアを具体的な形にするのは日本人の指先とモノ作りの才能
・日本の軍事力は世界一流だがそれを全世界に展開する能力はない。防空体制はアメリカに次ぐもの。日本近海で行動する限り原潜は不要
・日本の政治家は中国の諜報機関にいくつかの弱みを握られている
・戦いで亡くなった人々をまつる靖国神社が政治まみれに。靖国は日本人の心の問題
・第二次大戦前、ドイツは共産党勢力が強くなり続けていた。アメリカは共産党に対抗するヒットラーを支援した。
・中国によるアメリカの不動産投資がアメリカの好景気を推し進めた
・かつて毛沢東はスターリンの命令で韓国を潰すために北朝鮮に朝鮮戦争を始めさせた。このとき中国軍の主力は共産党に降伏した国民党の兵士
・人民元が安すぎると非難するアメリカも、安い人民元で儲けているのがアメリカ企業という事実
・中国の地方自治体が中央からの統制を受けずに経済活動を強化。鉄鋼の生産過剰
・資本主義を取り入れた中国は、かつて「平等」思想をもとに統一されたが、いまや平等が成り立たなくなった
・アメリカは中国にアジアを独占させたくない。中国の力が大きくなればバランスを取るために日本との関係を強化するはず。 人民元を基軸通貨とする経済圏が東南アジアにできることを恐れるアメリカ。
・アメリカは長期的に国際関係を考えることが不得意。客観的に国際情勢を見るよりも自己中心的に考える
・中国はイランを経由してアルカイダに武器を提供。ブッシュはこれを知りながら不問に付している
・胡錦濤主席のやってきたことを見れば「非情の官僚」
・サウジアラビアはアメリカの技術を使って安く石油を産出し価格競争を行った結果、ソ連は敗退し国も滅びた
・EUが消費する天然ガスの半分はロシアから。ドイツの石油ガス産業はほとんどプーチンに買い上げられている。リトアニアの製油施設も。
・ロシアが石油施設を攻撃したというキルギスタンやカザフスタンの抗議は国連では取り上げられていない
・2015年、ロシアは大混乱し、資源の豊かな中央アジアが独立する。中国辺境の民族グループを中心に。
・かつてロシアはアジアにまで領土を拡大し中国の一部まで呑み込んだ。中国はそこを取り戻したがっている。 現在、ロシア国境に戦略基地を作っている。今のロシアの軍事力では防衛能力がない
・かつてソ連が有人宇宙飛行を行ったとき、それはドイツで捕らえた科学者たちの功績であった。弾道ミサイルなどの兵器もKGBがアメリカから技術を盗み出した
・アメリカ経済は借金をしながら経済を拡大し、拡大することで借金を帳消しにするというやり方。世界も拡大を信じてアメリカに投資してきた
・ベトナム戦争でアメリカの財政が破綻しそうなときサウジアラビアはアメリカの不動産や連邦債を買い、アメリカを助けた。日本も円切り上げでアメリカを助けた
・サウジの王族や首脳はアメリカを見下している。石油マネーの力であらゆることができると考えている
・経済のグローバリズムの中核にあるのはアメリカの大企業。アメリカの力を背景に勝手気ままな行動をとっている。世界中を貧しくしている
・国連が世界の安全を守ったことはない
・情報化の時代、国民は豊富な情報を手にすることができる。情報をもとに判断する能力をもつ多くの国民の存在

-目次-
序章 二十一世紀の新しい世界戦争が始まった
第一章 世界は変わる
第二章 日本は「世界の大国」になる
第三章 米中の兵器なき斗いが始まる
第四章 ロシアの石油戦略が日本を襲う
第五章 石油高がドル体制を終焉させる
第六章 「永田町」の時代は終わる
最終章 日本には三つの選択がある