読書メモ

・「日本の社会戦略 〜世界の主役であり続けるために
(稲盛 和夫、堺屋 太一:著、PHP新書  \740) : 2008.03.20

内容と感想:
 
稲盛さんと堺屋さんの対談集。
 始章で堺屋氏は現在の日本の問題として 組織倫理の退廃、ものづくりにおけるリコール・不具合の増加を指摘している。 それは日本の将来像、国家のコンセプトが不明解なため、人々が夢と誇りをもてなくなったせいだと言う。 日本の政治家には「日本をどうするか」というビジョンがないから、国民は国の行く末に自信が持てない。 何でも政治のせいにするのが日本人の悪い癖だが、その国民が政治に期待していないことも事実。
 ではどうすればよいのか?本書で二人は多くの提言を行なっている。
 第7章で稲盛氏は不当な増税は国家崩壊を招くと警告する。「国の上も下もお互いが誤魔化しあい。騙し合い、官吏と国民が敵対して、 ついには国が分裂して崩壊するようになる」と危惧する。社会福祉を維持するために消費税増税は既定路線のようになっている。 しかしその前に国民が納得して納税できる環境にすること(税金の無駄遣いを止めさせること)が先決だろう。
 第8章では堺屋氏が外務官僚の問題について述べている。 中国は周辺諸国との三十数ヶ所もの領土問題を全部解決したが、日本は中国との海底油田開発問題すら解決できていないと言う。 それは外務官僚が妥協をしないためであり、 まるでそれは太平洋戦争に至った道と同じだという。 戦争直前に日米間にあった12の課題すべてに対して日本は譲歩できず結局、泥沼の戦争に突入したのだ。 官僚主導の状況は戦前も、今も同じなのだ。実に危うい。
 今後、少子高齢化が進んで、かつてのような経済成長は望めないことは自明だが、 日本が資源をもたない国であることを踏まえた上で、国の将来を考えれば、 それは世界各国との友好という基盤の上にしか成立しない。 そのためにも有形のハードによる強制力(ハードパワー)では他国との良い関係は築けないから、 無形の人間的魅力や人格といったソフトな力(ソフトパワー)で心に訴えかけることが効果的だ、と終章で稲盛氏は言っている。 そのソフトパワーの源泉こそが東洋思想にある「徳」(仁、義、礼)であり、日本が長い歴史の中で育んできた普遍的な価値観だと。
 国益を最優先するばかりに他国との不協和音を募らせるのではなく、世界の平和と繁栄に貢献していかねばならない。 国民も無責任に文句だけ言って、その一方で国に依存するばかりでなく、個人として自律し人間性を高め、外交も民の力で地道に推進するくらいでなければいけない。

○印象的な言葉
・工業社会から知価社会へ(知恵の値打ち)
・これまでの(構造)改革は「皮膚のぬり薬」程度のもの。「部分」の改革に過ぎない
・「命も名も官位も金もいらぬ人」こそ真の改革者
・改革は旧体制に冷酷なほど徹底して断行せよ
・倫理観と美意識
・体制に歯向かわない大人しく優しい日本人、調子がよく素直すぎる国民性、人がよすぎる、大勢に巻き込まれやすい。理不尽なことに声も荒げず、唯々諾々と従順に従う。
・官僚迎合派の政治家・経営者の増加。「権力の味」を知ってしまった官僚
・シンクタンクのない政党は官僚だのみになる
・個性を伸ばすのは倫理・道徳を教えてから
・労働を通じて人間性を高める、人間として何が正しいか?やっていいことと悪いこと。
・経済界も義務教育に協力せよ。(教育の)消費者に受ける学校を!
・個性や理念がない「労働者教師」ばかり。教師は聖職者である
・人生観や宗教観を確立してこそ真の科学者
・定年後の団塊世代は若者たちへの技と心の教育係に
・投機で生き残れる人はごく少数
・企業の内部留保を狙う外資系ファンド、企業の存続より株主利益を優先するファンド
・利己心は恥
・倫理観なき経営はテクニックだけに終始する
・(西洋の)覇道ではなく(東洋の)王道を進め
・20世紀に衰退した宗教が復活、熱心な信者が激増
・日本は貿易競争にさらされる製造業だけが猛烈に合理化しているのに他の分野は非効率
・日本中みんなが無責任になっている。仲間内の機嫌だけを窺っている
・明治維新は「武士はダメだ」と皆が思ったときに成し遂げられた
・族議員がいなくなったことの弊害。各分野に詳しい政治家がいなくなった
・理想の国家像は、理想の人間像
・アメリカはインフレにさえならなければ財政も国際収支も赤字でよいと考えている。財政赤字、貿易赤字ともに年間5,000億ドル。
・株主の、従業員による、社会のための会社
・武士は自らを「選ばれし者」だと自覚していた。崇高な使命を担うという気概。自らを律し自己犠牲も厭わない
・自分を超えた偉大な存在のご加護があればこそ
・たとえ生活が苦しくなろうとも、いい加減な生き方はしない
・国家・地方自治体の運営は企業の経済活動から得られた税金という「上澄み」があってこそ。企業人が国家・社会を支えている
・靖国問題は国の面子よりも、近隣諸国にかけた迷惑を直視すべき
・日本の報道は官僚主導
・官僚には(国有地など)国有財産(を効率的に活用して)から利を得るという発想がない
・敵を攻撃する闘志よりもっと強い、怒りや怨みを抑える克己心。真の勇気で「怨みの連鎖」に歯止めを!

-目次-
始章 日本の未来は「選べる社会」
第1部 日本にしのびよる「滅亡の危機」
第2部 世界から尊敬される経済大国へ
終章 世界から尊敬される日本へ