読書メモ

・「日本型「成果主義」の可能性
(城 繁幸:著、東洋経済新報社 \1,500) : 2008.10.14

内容と感想:
 
「内側から見た富士通 −成果主義の崩壊」で日本の成果主義の問題点を指摘した著者。本書はそれに次ぐ第二作。
 成果主義の導入後、社員の評価への納得度が低下し、制度への不信感が高まった企業も多い。 結局、従来の相対評価へ逆戻りしてしまったという企業もあるらしい。 多くの会社が魅力を感じて競うように導入した成果主義は成功しているとは言いがたい。 その原因を分析し、日本で成果主義を機能させるために大事なこと、これからの人事制度のあり方などについて述べている。
 第2章では目標管理制度が機能するためには4つの大前提があると説く。 そのどれか一つが欠けてもいけない。 この制度が理論どおり機能しない理由はこのシステム上の欠陥にあると第3章で指摘している。 私の会社でも成果主義型の人事制度になったが、4つの前提すべてについて著者が指摘するような問題を抱えていることが分かり、 上手く機能していない理由の得心がいった。
 「目標の低レベル化と評価インフレ」が起きていることも想像に難くない。 目的も不明確なまま、ただなんとなく新しいシステムを導入してしまった企業は失敗するのだ。
 第4章では仮想企業をモデルに用いて、成果主義をうまく機能させるポイントをストーリー仕立てで描いてみせている。 また、実在するメリーチョコレート社を取り上げて、年功序列の良さを残しながらも、成果主義を取り入れて成果を上げている例を 紹介している。同社はキャリアパスを管理職と専門職とに分け、管理職は完全実力主義となっている。 著者は完全終身雇用に戻れない今、同社のシステムが日本型の成果主義的人事制度としての一つの解になると見ている。 年功序列でも成果主義でもない「第三の選択肢」として。
 成果主義に移行した企業では今、制度見直しを進めているところもあるようだ。 その方向性は「管理職自身の成果主義の徹底と、一般従業員の目標管理制度の緩和あるいは廃止」。 私の会社でも見直しをかけている最中だ。本書からはよいヒントを得た。

○印象的な言葉
・数値目標は一般社員には馴染まない。職種によっても違う
・管理職自身の評価を厳しく問う
・マネージャへ権限も責任も委譲する
・制度としては年功序列のほうが優れている
・成果主義が合う会社と合わない会社がある
・人事権がなければ評価できない。人事権を現場管理職に。
・出世払い方式から、成果に応じて一時金で支払う
・退職金を給与に含めて在職時に支払う
・ゼロ成長でも利益の出る体質へ
・目標は生もの。ビジネス状況が変化するとハードルの高さも変化。目標の調整が必要
・目標管理制度における管理職:厳正な評価者。業務目標達成のために部下にその目標を割り振る。難易度に差がないように。評価を部下にフィードバックし、 評価内容を説明し納得させる。
・成果主義の名を借りた若年絞り:将来の希望を見出せなくなる。少子化、消費低迷
・数字意外の要素も含めどれだけ組織に貢献したのか。それを評価できるのは現場で直接部下を管理する上司。
・従業員自身が異動を申請する機会を制度として設ける
・360度評価制度
・職務給:担当する仕事によって決める賃金。2005年からキヤノンが導入。
・評価結果を管理職以下、全社員にいたるまで社内に公開する
・技術職への「技術手当」
・高度な専門知識や技能は数値化できるとは限らない
・目に見えない組織への貢献
・チーム・ベースの評価

-目次-
第1章 年功序列制度とは何だったのか
第2章 成果主義の現状
第3章 なぜ成果主義が機能しないのか
第4章 日本型「成果主義」はどうあるべきか
第5章 成果主義がもたらすもの