読書メモ
・「戦国武将の「政治力」 〜現代政治学から読み直す」
(瀧澤 中:著、祥伝社新書 \760) : 2008.08.11
内容と感想:
本書はタイトルからも想像できるように戦国武将を小説の世界のような色眼鏡で美化して見るのではなく、
「純粋に政治力学で眺めてみる」ことを試みている。
歴史家という人たちは歴史を政治史として見ているはずだが、(私を含め)一般の歴史ファン層というものは
多分にそこにロマンチックなものを求めて見てしまいがちである。
本書では戦国武将たちがとった行動がどのような「政治的判断」で行われたものかを読み解いている。
登場するのは信長・秀吉・家康といったご存知の面々だが、彼らに敵対する者、協力する者たちあっての3人だから、
脇役たちの政治力についても取り上げている。
現代の政治家との比較もあって、それはそれで興味深い。
第6章に「領民の協力なくして領主は成り立たない」とある。
これはいつの時代も同じだろう。現代日本は領主こそいないが主権は国民にある。
つまり国民の協力なくして国家は成り立たない。今、日本を不信感が覆っている。政権政党や官僚が領主ではない。彼らに勘違いしてもらっては困る。
北条早雲が伊豆を攻略するときの逸話が書かれている。彼は「領民の心が離れている国主など簡単に攻め落とせると踏んだ」から成功したという。
何か現在の民主党を後押しするような話であるが、人心の離れた自公政権も先がないだろう。
また「戦国時代は地方分権の時代」だったとも書かれているが、日本も「いっそのこと道州制にして各道や州が独自に税体系をつくるようにすれば、競争しながら
よい税体系をつくるはず」というのは、道州制導入のメリットとして賛同できる。
つまり競争原理が働き、税金は安くなり、行政サービスの充実が期待できることになる。
政治力からは外れるが第3章に関ヶ原合戦について興味深い記述がある。
合戦前に「もし早々に、豊臣秀頼の安泰を条件に多くの豊臣大名が徳川家康に従った場合、関ヶ原合戦の起こる確率は低い」。
これは合戦がなかったら家康は「反・家康派の大名を大量粛清する絶好の機会」を失い、豊臣潰しも実現できなかったことを意味する。
東西両軍の力が均衡していてどっちが勝つか分からない状況だったから関ヶ原合戦は起こった。
秀忠軍の到着が間に合わなかったことは有名な話だが、もしこれが間に合っていたとしたら戦わずして東軍の勝利になっていたかも知れない。
そうなると家康の構想は外れ、反家康勢力が生きながらえて、家康もどうなっていたか分からない。
秀忠軍の遅刻は計算の上での時間稼ぎだったのではないかとも思えてくる。
○印象的な言葉
・戦国時代、「家」は生きるための共同体であり、自分と家族と家臣と、それらの子孫の生命維持装置だった
・戦国時代は地方分権の時代。頼れない中央政府、失われた中央政府の権威
・将来有望な政治家=木下藤吉郎へ献金した堺商人
・家康:重い静けさが生み出す「偉大なる平凡」。日本人の好み、国民性とは縁遠い。超日本的な長所。情緒的でない。天才的なひらめきがない代わりに、
緻密に慎重に計算して行動する。無駄がなく無理がない。物語になりにくく最も大衆に受けないタイプ。
「皆の知恵を集めて良い結果を出そう」。
・意思なき100人よりも団結した5人のほうが力は強い
・政権が混乱するのは政権を代表する人物なり機関が機能していないから
・戦争は政治の延長線上にある
・光秀の謀反に至る原因は本人の政治力の低下にあった。彼の構想はあまりに自己中心的すぎた
・秀吉の政治手法はかなり近代的だった。後世に通用するほど生々しかった
・人の一生は重荷を負いて遠き道を行くが如し(家康)
・自分を表さないところに「自分」があった佐藤栄作
・西郷隆盛は短気だった。それを克服しようとした
・政治闘争では時にじっと我慢して体制内にとどまることも必要。時を待つ
・自由党の大野伴睦(ばんぼく)は戦前は藩閥、軍閥と戦い、戦後は官僚と戦った。インテリとは対照的な健康な神経と直線的な明快さ
・人間は誰もが強い思想や理念を持って生きているわけではない。思想や理念で動かないなら切り捨てず包容する
・毛利輝元は断固として天下を掌握すると考え実行していたならば天下は取れた
・リーダーは自分が進む方向を示さねばならない。方向を決めるための情報収集・情勢判断はスタッフを駆使してやるべきで、有能なスタッフの指向する方向を知ることも大切
・信玄は信州では評判が悪い。城を落とせば皆殺し。それだけ信州武士が徹底して抵抗したことを示す。中小大名が割拠する信濃は狙いやすかった
・源平時代の京から東国への主要通路は日本海経由だった
・戊辰戦争では徳川方の各藩はまとまりがなく、他のどこかの藩が頑張ってくれるという甘い考えがあった
・政治家としての義昭の「執念の見事さ」
・好意を持つグレーゾーンを増やす(田中角栄)。味方ではないが、決して敵対しない人を増やす
・会議は結論を持って臨む者が勝つ
・生きることを犠牲にしてでも何かを守り通す。命を危険にさらしながら勇気ある正論を吐き続ける
・政治:力(権力)によって公共の利益を実現する
・その言動が常に批評にさらされる政治家。それに耐えられるのは愚直でなければ無理。
-目次-
第1章 天下取りの政治学 ――信長とそれ以前
第2章 秀吉の政治学
第3章 徳川家康の政治学
第4章 関ヶ原合戦の政治学
第5章 天下を取れなかった有力大名の政治学
第6章 戦国大名の生きざまから見た政治学
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